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Sequence22:卒業生はもしもに思いを馳せる

「双方、互いに礼!」


「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」


 審判を務めていたジョルジオの声に合わせて、セット・ラインに並び直したウィリアムとテズニアがそれぞれに向けて礼の姿勢を取る。


「それでは、ウィリアムはチームメイトの元へ戻り、皆と片付けを開始するように。」


「は、はい!」


 ジョルジオとテズニアに促されたウィリアムがフィールドの外で見守っていた一年生たちの元へと急いで戻っていった。


「お、お待たせし」


「うおおおおおおおおおおお!」

「すげえなああ、お前えええ!」

「おめでとう! おめでとう!」


 しかし、待たせたことをウィリアムが謝罪し終わる前に、殆ど全員がウィリアムに向かって殺到し、一瞬で揉みくちゃにされてしまう。


「お、わ、ちょ」


 チームメイトたちから肩をバシバシと叩かれたり、強く抱きしめられたり、頭をわしゃわしゃと掻き回されたりするウィリアム。

 また、その周りでは、魔術(スキル)の習得に付き合ってくれたサフィアスと、ダンデリオンやエリオットもウィリアムに向かって拍手を送ってくれていた。


 その状況にどう対応していいのか困惑するウィリアムは、ようやく視界の端で友人を捉える。


 幼馴染であり、長年同じチームで練習を積み重ねてきたアレクシウスはちょっと離れたところに立っていて、僅かに衝撃を受けたような表情で呆けていた。だが、ウィリアムと目が合うと、少し気恥ずかしそうに鼻を掻いた後、小さくウィリアムに向かって握った拳から親指を立てるジェスチャーで祝福を伝えてくれる。


 それは、まず第一には、シチュエーション・ゲームとはいえ、テズニア相手に大金星(ビッグ・ウィン)を挙げたことへの祝福。


 そして、第二には、夢渡り(ワンダラー)であるウィリアムが、チームメイトたちから早くも仲間として受け入れられつつあることに対しての祝福。


 その姿を見てようやく、ウィリアムは安心した笑顔で周囲からの歓待を受け入れることが出来るようになるのだった。




 そんな彼らの姿を眺めながら、ジョルジオとテズニアは、少し呆れたような声で喋っている。


「まったく、強いチームであるほど、練習後の時間に無駄な時間を費やさないと、あれほど普段から言ってきたのだがな。」


「まあまあ、テズニア先輩。今日くらいは、ちょっとだけ大目に見てあげて下さい。」


「ふむ? それはどういう意味だ。」


 意外なジョルジオの返答に、テズニアは続きを促した。


「実は、来週からこのグラウンド、ちょっと使えなくなるんですよね。どうやら、地方の貴族たちが珍しく寄付を集めて、設備改善の費用として送ってきたらしくて。」


「ああ、なるほど。そろそろ何かしら打ってくるとは思ったが、そういう手で来たのか。」


 ジョルジオの言葉に、テズニアはすぐさま察した表情になる。


「はい、流石にそういう名目で寄付を送られてきたら使わない訳にはいきませんから、来週からこのグラウンドは急遽ながら改装工事に入る、ということになります。」


「如何にも貴族社会に慣れ親しんで順応している、輪廻教(サイクリニシティ)らしい、持って回ったような手練手管だな。厄介な奴らめ。」


「まあ、夢渡り(ワンダラー)を特待生枠でスカウトした時点で彼らが何かしらの邪魔を企んでくるだろうことは予想済みだったので、ここは精々、環境改善に利用させて貰うとしますよ。」


 そう言って、ジョルジオは笑う。

 まるで予想通りだったかのようなその表情に、テズニアは内心、ちょっとした戦慄を覚えていた。


「いやはや、お前は、何処まで先を見据えて策を練っているやら。」


 テズニアの呆れたような声に、ジョルジオが心外そうな表情で反論する。


「嫌ですね、今回はたまたま運良く、幾つかある可能性の内から賽子の良い目が出ただけですよ。正直、もっと直接的な妨害行動に出られたら、対応するのが現状ではなかなか難しかったでしょうからね。」


「そう言って、次の手だってちゃんと考えているんだろう?」


 テズニアの問いに、ジョルジオはすぐさま答える。


「勿論です。何と言っても、一年生たちが出場する春の新人戦もすぐありますから、それまでにやるべきことをやって状況は整えておかなければなりませんので、練習を休むことは出来ません。そうなっていってしまえば、輪廻教(サイクリニシティ)にどんどん後手を取っていくことになり、最終的には俺たちの夢も潰えるでしょう。俺たちは、常に先手を取った上で、勝ち続けなければならない。」


 そう言ったジョルジオの眼は、迷いなく遠くを見つめる光が宿っていた。


 それを眺めながら、テズニアは改めて確認するように問う。


「……本当に()()()()の実現を目指すんだな。」


「はい。勿論です。でなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「……そうか。」


 テズニアは、ジョルジオの即答に対して、これ以上はもう言うことがなかった。


「さて、それじゃあ、俺は一年生たちにそろそろ片付けを開始しろと注意してこなければなりません。このままだと、ウィリアムの胴上げでも始めかねない。」


 そう言って笑うと、ジョルジオはフィールドから一年生たちのほうへと歩いていく。


 その背中を見つめながら、テズニアは誰にも聞こえないような小さい声でそっと呟く。


「既に王族でもないというのに、随分と重い目標を背負ったものだな、うちの後輩は。それは、まだ誰も成し遂げたことない、それどころか誰も考えたことのなかった夢だぞ。」


 ジョルジオたちの世代が隠し持っている夢を知る者は少ない。それこそ、現状ではテズニアたち去年の三年生だった卒業メンバーくらいのものだろう。先輩後輩ながら信頼関係では対等に結ばれていた彼らには、かつて彼らがその夢を語ってくれたことがあったからだ。


 しかし実際、そんな夢が本当に実現するのか、テズニアたちも想像することが出来なかった。それ故にまた、その夢を実現するために必要な手段が、果たしていま彼らが選択している道筋で良いのかどうかも。もしかしたら、とてつもない遠回りかもしれないし、袋小路の可能性すらある。


 だから、テズニアも、彼らの夢に関しては他の誰かに口にしたことがなかった。恐らく、他の同世代チームメイトたちもそうだろう。既に卒業生である自分たちに出来るのは、彼ら後輩を信頼して応援と協力を惜しまないことだけだから。そのためにこそ、自分は一年生のコーチングを引き受けたのだ。


 ただ、一つだけ思うことがあるとすれば。


「まあ、これは私たちの世代の皆がそれぞれに共通して思っていることでもあるだろうから、口に出しても彼らに対する失礼にはあたらんだろうが……もしも生まれるのが一年遅れていれば、私も一緒に夢を目指していたのかなあ。」


 そう呟くテズニアの声は、一抹の寂しさが宿っているように感じられるものだった。

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