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Sequence14:王子は質問する

 部長の衝撃的な通達から時間が経過して、昼休み。

 各種オリエンテーションを含んだ最初の授業を終えたウィリアムたちは昼食を取るため、食堂へと足を運んでいた。


「おお、結構な人がいるな。」


 アレクシウスは所狭しと人で溢れる食堂を見渡しながら、そう呟いた。

 これだけ人が多くなるのには理由がある。

 基本的に男女で生活スペースの区分されている王立キングスフィールド学院において、数少ない共有スペースの一つが、この食堂である。昼休みは学院にいる多くの生徒がここで一堂に会すため、どうしても人の数が増えるのだ。


「おい、どうするよ、ウィル。これじゃあ座れそうにないぞ。」


「うーん、そうだね。」


 ウィリアムも、周囲を眺めながら困ったようにそう言った。

 少し遠くに、マーヤノーマが女生徒と一緒に食事をしている姿が見える。マーヤはウィリアムたちに気が付くと、周囲の友達に気付かれない程度に小さく手を振っていた。


「とりあえず、食堂で食べるのは次に譲って、今日は何処か別の食べれる場所に行こうか。」


「ああ、そりゃいい。そりゃいいが、しかし、ウィル。お前も学院は初めてだろ。そんな良いスポット、知ってんのか。」


「うん、実はね。こうなるだろうって予想したエマさんが、オススメのスポットと、そこで食べるお弁当を用意してくれたんだよね。しかも、ちゃんと二人分。」


 そう言って、片手に持った包みをアレクシウスに見せるウィリアム。


「へえ、流石は幼いながらに寮の管理を任されているってだけあるなあ。」


 ウィリアムに先導されながら歩くアレクシウスは、感心したようにそうつぶやく。


「そりゃあ、僕らより学院のことに関しては先輩だもん。」


 ウィリアムも、何故かちょっと自慢気にそう言った。


「ところで、そのエマさんってのはどんな」


「お前のタイプじゃあないよ、アレク。」


 アレクシウスの質問をばっさりと切って落とすウィリアム。


「うっせぇ、そもそも俺には心に決めた人がいんのよ。」


「はいはい。どうせデュアルフットとか言い出すんでしょ。」


「いや、お前と一緒にすんな。」


 そんな冗談を言い合いながら歩いた先、二人が到着したのは、裏庭にある小さな屋根のついた東屋だった。周囲は程よく緑に囲まれ、小奇麗に整えられたスペースには、椅子や机も備え付けられている。


「うん、多分、ここかな。」


「へえ、いいじゃあないか。」


 そう言って、二人でエマから貰った弁当を広げる。


「うわ、これは」


「豪華だなあ。」


 二人は、エマが作ってくれたお弁当の中身に驚きながら食べていく。


 基本的に、王立キングスフィールド学院には国内の様々な場所から生徒たちが集まる。実際、ウィリアムとアレクシウスも、遠い北領からやってきた生徒だ。

 それ故に、最初は料理の違いに苦労するものと覚悟をしていたのだが、エマの作ってくれた弁当は、彼らが慣れ親しんだ北領でよく見られる肉料理がメインだったのである。


「まさか、学院生活二日目に、こんなもん食えるなんて思わなかったな。」


「うん、しかも、ちゃんと味が本格的でめちゃくちゃ美味しい。」


 そうしてウィリアムが柔らかく煮込んだ肉に舌鼓を打っていると、ふとアレクシウスが話題を振ってきた。


「ところでよ、今朝の部長が言ってた話、どう思う?」


「どう、って?」


「いや、だから、去年のキングスフィールド学院レギュラー陣といきなり練習って話だよ。」


「え、そんなの」


 アレクシウスの質問に、ウィリアムはきょとんとした顔を見せると、何でもないことのようにこう答える。


()()()()()()()()()()()()。」


 それを聞いて、驚くでもなく、些か呆れるような素振りを見せるアレクシウス。


「ああ、まあ、お前ならそう言うと思ったよ。訊いた俺が馬鹿だった。」


「何でさ。アレク、分かってる? 去年のキングスフィールドのレギュラー三年陣の仕上がり、ヤバかったんだよ。守備が一線に揃ってて、文字通りのラインなんだ。僕は完璧な守備なんてあり得ないと思っていたけど、もしもそう呼ぶに相応しいものがあるとすれば、あれが最も僕の理想に近いかな。」


「分かってるよ。それ、もう何度目だって。しかし、それと同学年(タメ)でもないのにスタメン争いで対等(タメ)張ってたっていう現三年生も化け物だよな。」


 早口で説明し出すウィリアムに、やはり呆れたように返すアレクシウス。

 それは、ずっと続いてきた二人のやり取りだった。


 その時、ふと誰かが近付いてくる足音が聞こえる。


「やあ、こんにちは。盛り上がっているところに申し訳ないね。」


 そう言って現れたのは、先日の模擬試合で一緒になったダンデリオン王子と、その側近であるサフィアスの二人だった。


「あっと、席は立たなくていいよ。こちらがお邪魔してるんだからね。」


 ダンデリオンはそう言いながら笑う。二人がサフィアスの顔を窺っても、特に異議を差し挟む気はないらしく、どうやら本気のようだった。それであれば、余計な口を挟むのも憚られる。


「えっと、それで王子たちはわざわざ何でこんな場所に?」


 アレクシウスが訊ねると、ダンデリオンは即座に答える。


「それは当然、君たちに用事があったんだよ。」


「俺たちに?」


「用事?」


 そう言われて、ウィリアムたちは考える。


 そもそも自分たちと王子は先日の模擬試合が初見で、特に関係性があった訳ではない。それ故、用事があり得るとすれば、先日の模擬試合でお世話になった件くらいだが、例えばあの件でウィリアムたちが王子に対して出来る謝礼が現状なく、王子がそういったことを要求するような人物にも見えない。


 考えても答えが出るはずもなく、ウィリアムたちはダンデリオンが続きを喋るのを待つしかない。


 そんなウィリアムたちに応えるように、ウィリアムが口を開く。


「実は、僕とサフィアスの二人も、デュアルフット部に入部しようかと思ってるんだ。でも、今朝から既に朝練が始まっていたこととか色々と部の慣例を知らなくてさ、色々と教えて欲しいのと、部への取次を頼みたいんだよ。」


 ダンデリオンから飛び出たのは、そんな意外な発言だった。

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