テセウスの彼女
ある種残酷な描写()
再三、NTR要素がある為、苦手な方は読まない事をお勧めします。
性癖が歪む可能性、気分が沈む可能性など、注意喚起は数えきれない...。
因みに、私はこれを書いてる時すっごい気分が沈みました。朝なのに。朝なのに。
人類がテレポートの技術を得てから早半世紀。
今や、近所のコンビニでさえテレポートで行き来する時代となってしまった。
僕、三明 瞬人はこんな世の中では珍しい散歩好きだ。友人曰く、この時代に徒歩を選ぶのは余程の変人。らしい。
今まで一度もテレポートなんてした事は無いし、これからもする気は無い。
学校のステーションで待っていると、ピンッというテレポート終了を知らせる音が響く。こちらと向こうを阻むドアが開くと、僕の彼女、今井 雪奈が制服に身を包み、にっこりとこちらに笑顔を振りまく。
「おはよう、瞬人くん。」
「うん、おはよう。じゃ、行こうか。」
そう言って手をつなぎ、二人で教室へと向かう。
「えー。教科書の51ページを開いてください。」
歴史の教師が眼鏡をかけ直し、教科書をペラペラと捲る。
「今から約50年前、人類はテレポートの技術を得ます。今でこそ我々は普通にこれを使っていますが、当時はとある問題があり、実用化は不可能とされていました。この問題とは何でしょう。」
歴史の教科書に書いてある事をそのまま読み、電子板にタッチペンでありのままを書いていく。こうも面白みのない授業だと、眠くもなろうというもの。僕大きな溜息とも見れるあくびをひとつ。
「三明くん。口を開けるならあくびではなく、問いへの答えにしてください。」
「え。」
「答えられないんですか?なら、しっかり授業を聞くように。」
別に、いきなり指されたから驚いただけだし。と心の中で悪態を吐く。
「では、代わりに後ろの今井さん。声を殺しても笑っているのは丸わかりですよ。」
「え?!」
「はあ。答えられる人は居ますか?」
雪奈もいきなり指されたから驚いただけだし。といったような顔をする。
「はい。」
「では、吉永くん。」
吉永 和人。メガネをかけた真面目そうな、詰まらなそうな男。このクラスの学級委員長というのも、真面目そうという印象を加速させている一因だと思う。
「『テセウスの船』ですよね。」
「はい、正解です。三明くん、今井さん。次の授業で確認しますから、ちゃんと復習しておいてくださいね。」
はい、という返事が被る。流石カップルなどという言葉が小声で聞こえてくる。付き合い始めた当初、みんなには内緒にしようと話したが、お互い嘘が苦手で次の日にはバレていたのは今ではいい思い出である。
「では、テセウスの船について説明します───。」
某ネット百科事典に載ってそうな説明がくどくどと教師の言葉からたれ流される。
そんなこんなで終業のベルが鳴る。
「はい、今日はここまで。しっかり復習しておいてくださいね。」
教師はそう言い残すと教室を後にする。
「はあ、二人とも当てられちゃったね。」
あははと笑いながら雪奈がこちらへ近づいてくる。丁度良いと、先ほどの事を問い詰める。
「そんなことより笑ってたってどういうことよ。」
「あっ、え、えっとね。はは。」
「笑って誤魔化そうとしても無駄だぞ。」
「ごめんってぇ!」
いつもと同じ日常。ホームルームも終わってしまえば、今日という日は終わりだ。それぞれが家へと帰っていく。
「じゃあね。瞬人は今日も歩くの?」
「うん、それが好きだからね。雪奈もどう?」
断られると分かってはいるが、一緒に帰りたいという気持ちがそう聞いてしまう。
「うーん、良いかな。歩くより早く帰れるし。」
「そっか。じゃあね。また明日。」
「うん、また明日。」
そう言って、手を振りながら雪奈が去っていく。
その日の夜。教師に言われた今日の復習をする。
すると、携帯の呼び出し音が響く。掛けてきたのは雪奈だ。
「もしもし。雪奈?どうしたの?」
「その、瞬人。」
「どうしたの?」
「私たち、別れない?」
己の耳を疑う。
「・・・今なんて?」
「だから、私たち、別れない?って。」
何かの冗談?それとも本当に・・・。ドクドクと嫌に心臓の音が響く。もし本当なら、何か嫌になるような事をしてしまったのか?頭が上手く回らない。
「その、なんでなの?理由が知りたいな。」
「あのね、私、好きな人が出来たの。」
「は?」
頭が真っ白になる。好きな人?僕以外に?
手から携帯が落ちる。落ちた携帯から僕を呼ぶ声が聞こえてくる。間違いなく彼女の声だ。
「そのね、今日家に帰ってから、どうしても和人くんの事が頭から離れなくて。」
や。
「帰ってすぐに連絡したの。」
やめ。
「好きですって。そしたらね。いいよって───。」
「もうやめてくれ!!」
僕は勢いで携帯を切る。
何が不味かったのか。僕にはなくて、吉永にあるものはなんだ。真面目なところか?それとも頭が良いところか?いくら考えても答えは出ない。何もかもが嫌になって、そのまま布団へと潜る。
その日から、僕は部屋から出なくなった。いや、出れなくなった。心配して雪奈、いや、今井さんが来るかとも思ったが、一週間、一か月、待てども待てども彼女は来なかった。
半年も経てば、初めは心配してくれた人たちも離れていく。心配してくれるのは親だけだった。
だが、時間の力というものは凄いもので、家の中なら自由に動けるようになっていた。
リビングへと降りると、メモが置いてある。
「今日寝坊しそうになったので、お昼はこれで何か買って食べてください。」そう書かれたメモと、その隣に1,500円が置かれていた。
外へ出るようにと母さんなりに考えてくれたのかもしれない。気分転換に外へ出なさいと母さんがずっと言っていたのを思い出した。
家の鍵を持ち、1,500円を持ち、エコバックを持つ。何も考えずに家のドアを開けてみる。なんてことはないただの外だ。しばらく見てなかったが、昨日のように覚えている。
「なんだ、変わったのは俺だけか。」
威圧感があるから、という理由で一人称を"僕"にしていたが、人と接さないのだからと自然していたら一人称はいつのまにか"俺"へと戻っていた。
外へと一歩を踏み出す。今は夏休みくらいだろうか。じりじりと太陽がアスファルトを焼いている。
「はは、なんだ。外に出れるじゃん。」
久しぶりに浴びる日光に、少し気分が高揚し、スキップで近場のコンビニへと向かう。
何を食べようか吟味していると、備え付けのステーションから音が鳴る。誰か来店したのだと、そっちを見ると、そこには今井さんと吉永が居た。
思わず隠れてしまう。心臓は痛いくらいに胸を殴りつけてくる。
彼女らは手を繫ぎ、如何にも恋人ですといった感じだった。
「和人くん、どれにするの?」
「雪奈はどれがいい?」
二人が居るのは、ゴムが売っているコーナー。半年も付き合ってればそりゃあ致すだろう。そういえば、一年も付き合ったのに一度もした事はなかったな。
だんだんと頭が真っ白になってくる。考えられなくなる前に、持っていたサンドイッチを棚に戻し、速やかに退店しようと出入口に足を向ける。
「あれ?三明じゃん。」
吉永が俺に気が付いたのか声を掛けられる。俺の知っている誰にでも敬語だった吉永は既に過去へと消えていた。
「───っ!!」
声にならない悲鳴を上げ、俺は走りだす。
「え?三明くん?」
今井さんも俺に気付いたようで、苗字を呼ぶ。
不味い。ああ、非常に不味い。心が、心臓が信じられない程痛い。もう会いたくなかったのに、足を止めてしまった事を理解すると、身体は彼女を求めているのだと強制的に認識させられる。
「久しぶりだね。」
そう話しかけてくる彼女の手にぶら下がるレジ袋に、結露で張り付いた箱の「0.01」の文字が写る。嫌でも目に入ってしまう。冷静さを取り戻そうと呼吸を急ぐ。
「あ、ああ、久しぶりだね。」
「なんで学校来なくなったの?」
んなもんお前の所為だ馬鹿っ!!と叫びたくなる。
「ああ、ちょっとね。」
俺と今井さんが話していると吉永が間に割って入ってくる。
「悪いんだけど、人の彼女に話しかけるのはあんまり気持ちいいものじゃないからやめてくれる?」
「あ、ああ、そうだよな。じゃあ。」
文句はある。罵詈雑言も恨み言も、話し始めれば蛇口を捻ったように沢山出てくるだろう。が、そんなもの言えるはずもなく、店の外へと急ぐ。良くないエンカウントだったと割り切れるはずもなく、この出来事は尾を引くだろう。
「あ、待って!!」
今井さんがそう言った気がするが、既に自動ドアは閉まっている。止まってしまいそうな足を無理やり動かして、家へと逃げ帰る。
後悔は付き纏う。あの時止まって居れば、そもそも、別れ話をされた時に彼女の元へと赴いていれば。付き纏うのが後悔から鎖でぐるぐるに縛り付けられた重荷になった今。出来る事など、一つもないのだ。
思いついて、書いて、そのまま投稿。というアホみたいな投稿してるんで、だいぶ短いです。
余計な肉は付けないような良い気がして(建前)
これを読んで「性癖が歪んだよ、どうしてくれんだこの野郎」とか「てめぇ許さねぇからな」とか、何か感想があれば貰えると嬉しいです。