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(8)泣き虫王子とカエル公女

やっとタイトル回収しました!




『問題は、これからどうするのか、だわ』


 おもちゃ箱から離れた私は、チャーリーの部屋をしばらくウロウロしていた。ちなみにカエルのおもちゃだけど跳ね方がわからないから、ペタペタ歩いてる。


『…………』


 よし、決めた!


 イアンのところへ行こう!

 ま、それしか選択肢がないから必然なんだけど。



──────────



「ぎゃああああっ! カエルぅっっっ!!!」




 結局、あれから一日は経ってしまった。別にのんびりしていたわけじゃない。チャーリーの部屋から出るタイミングをなかなか見つけられなかったのだ。

 チャーリーのおもちゃ箱からは抜け出したものの、部屋の扉は重くて今の私には開けられない(試した)。

 しかも、この派手な色彩は見た目通り目を引きやすい。見つかりそうになって動きを止めるたびに、おもちゃ箱へ戻されてしまうのだ。

 その度に『また戻って来たの?』というような、おもちゃたちのあきれたような視線がつき刺さって痛いのだよ。ひぃ。


 チャーリーの昼寝の時間になって、やっと妙案を思いついた。

 私はおもちゃを片づける侍女たちの内の一人へ、箱の陰からジリジリと近づいた。そして思い切ってジャンプすると、スカートの内側へ思い切ってピタッと張りついたのだ。都合のいいことに、このおもちゃのカエルの手は物に張りつきやすくなっている。

 侍女は張りつかれたことに気づかなかった。

 そして彼女たちは、職務を終えるとそのままチャーリーの部屋を辞した。


 ついに脱出成功だ! いえーい!


『何だか、冒険小説やスパイ小説の主人公になったみたいだわ!』


 まぁ、ウキウキしてたのも最初のうちだけだったんだけど。

 だって、スカートの中ってめちゃくちゃに揺れるのだ。目が回る。気持ち悪い……吐きそう。


『グエッ』


 脳内アンリが吐いている。

 だがしかし、ここでくじけてはいられない。

 ない歯を食いしばって数々のスカートの中を渡り歩いた私は、ようやくイアンの執務室へとたどりついた。彼女たちの尊厳のために言っておくけど、スカートの中身は見てない。

 いやぁ、イアンの執務室に出入りしている侍女さんの顔を覚えておいて助かった!

 

 そうしてほうほうの体でイアンの執務室に入りこんだのだけど。

 執務室の書類棚に隠れ、イアンが一人になるのを待たなければならなかった。

 学園が休みの時のイアンは、たいがい朝からこの執務室に閉じこもっていることが多い。だから私も、迷いなくこの部屋を目指すことにしたのだが。

 国王陛下の補佐をしているらしい。主に公共事業関係を任されることが多いと言っていた気がする。

 そのせいもあってか、彼の執務室には常に多数の文官たちが出入りしている状態だ。

 この姿をイアン以外の人間に見られるわけにはいかない。他の人間に見つかったが最後、十中八九チャーリーのおもちゃ箱へ戻されるからだ。もちろんすでに体験済みだ、何度も。


『なかなか一人にはならないかも……』


 仕方がない。たとえ泣き虫でも次代の国王なのだから──いや、今現在泣きそうなのは私なんだけど。


 それに、こうして見ると書類と格闘しているイアンもなかなかにカッコかわいい。

 真剣な表情で書類を確認しているイアン……あまり見たことのない表情だからこそ新鮮味があっていい!


 うつむき加減な顔に涼やかな銀の前髪が落とす影──絵になる!

 書類としばらくにらめっこした後にはぁ……とかため息つくのも様になる!


 イアンは何をしても似合うなぁ。


 ──もっと! もっと近くで見たい!


 そんなことを思っていたら、ついうっかり書類棚の陰から踏み出していたらしい。

 しかも、間の悪いことにイアンが何かの資料を探すために書類棚に近づいていたのだ。






 ──で、この悲鳴というわけだった。


「「「──殿下っ?!」」」


 その悲鳴に部屋にいた文官たちがぎょっとして、さらに廊下から護衛の騎士がなだれこんでくる。


「あぁ、チャーリー様のおもちゃのカエルですね」


 そう言って私をつまみあげたのは、よくイアンの側にいるシンという男だった。


「お、おもちゃ……?」


 イアンよ、声が震えているぞ? そういえばカエルが苦手なんだったっけ。すっかり忘れていた──というか、自分がカエルなことを今の今まで忘れていた……。

 今はシンにつまみ上げられているため、彼の表情が確認できないのがちょっと残念。涙目で震えるイアン、ちょっと見たかった!


「ええ。確か隣国に嫁がれたリネット妃殿下から、四歳の誕生祝いに贈られたものだと記憶しておりますが……」

「これが……誕生祝い……? はぁ……叔母上の趣味も相変わらずだね……びっくりしたよ。チャーリーが置き忘れていったのかな?」

「そのようですね。チャーリー様にお返ししておきましょうか」

「うーん……」


 ヤダ! ヤメテ!

 またあのおもちゃ箱に戻るのはごめんだ! ここに来るのにどれだけ苦労したと思ってるの?!

 かといってここで暴れたりなんかしたら、不審物としてシンの腰の剣で一刀両断待ったなしだ。

 つまみあげられた私は動くことができない。己の無事を、いるかどうかわからない神様にお願いするしかなかった……いや、神様はいる! 絶対いるんだから!

 だからお願いっ!


「あぁ、いいよ。僕がチャーリーに届けるよ。昨日は留守にしてたからね。きっと会いに来てくれた時に落としたんだと思う」

「そうですねぇ。いつもながら兄弟仲のよろしいことで」

「十一も離れてるんだ。かわいいよね」


 そうそう。イアンは年の離れた兄弟のチャーリーをとてもかわいがっている。チャーリーもまた、イアンを慕っていて微笑ましくて麗しい兄弟なのだ。

 私の脳内では密かに『兄弟天使』と呼ばせてもらっている。

 神が生みだしたもうた天使には性別も産み腹も存在しないって?

 いや、性差別や身分差別の激しい現実世界にだって、ちゃんと天使は存在するのだよ。


 そんな感じで私は一旦彼の机の上に置かれた。こんな奇っ怪なおもちゃが視界に入ったら執務には集中できないんじゃないかな? ちょっと心配だわ。


『あー……イアン、イアン、聞こえますか?』


 とりあえず念じてみた。


「……」


 なんちゃって!

 やっぱり聞こえないよね!


『どうやってイアンに伝えよう……』


 今考えるべきことはそれだ。とりあえず、イアンの側に来ることはできた。

 次はこの状況を彼に伝えたい。

 声は出せない。おもちゃだから。

 なぜしゃべるおもちゃにならなかったんだろうとか、思ってはいない。思っちゃいけない。しゃべるカエルなんてきっと怖いし。

 ただのおもちゃのカエルが突然しゃべりだそうが、動きだそうが、怪しいことにはかわりない。

 あっと思う間もなくシンに切り伏せられる未来しか見えない。


『ひっ!』


 うわぁっ! 今シンと目があった! あったよね?

 こっちにらんでない? こ、怖い……。

 いや、気にするな。私はおもちゃ。今はおもちゃなんだから! ちょっと派手な色あいのせいで、目を引いちゃうだけだ、きっと。


「そのカエル……」


 ギクッ。


「カエルがどうかした?」

「妙に気になる色ですね……子どもはこういうのが好きなんでしょうか?」

「うーん、どうなんだろうね。確かに目を引く色だとは思うけど」


 とほほ……元はど平凡で地味な色合いの私が何の因果でこんな派手派手になったのだろうか。


「いえね。来月、三歳になる甥っ子の誕生会がありましてね。何を贈ろうか悩んでたんですよね。似たようなのがないか、今度おもちゃ屋に行って探してみます」

「そうなんだ。それはめでたいね」


 し、知らなかった!

 シンって甥っ子がいるんだ?!

 イアンの侍従兼護衛でもあるシン。私がイアンに出会った時にはすでに彼の隣に立っていた。だから、私とも割と付き合いが長いのだけど……こういったプライベートの話はしたことがなかった。


 なぜならば。


 私は彼が苦手だからだ──いや、この言い方には語弊がある。彼の『顔』が苦手だからだ。

 だって彼、暗殺者みたいな強面なのだ……漆黒の髪にまるで血のように赤い瞳。いつも怒ったような表情をしているし、目つきも鋭すぎる!

 甥っ子には泣かれないのだろうか?

 でも、イアンはシンの顔を間近で見ても泣いたりしてなかったから、男の子は大丈夫なんだろうか?

 なんて、失礼なことを考えていたらバチが当たったらしい。


『ひょおうっ!』


 近寄ってきたシンに後ろ足をつかまれて逆さ吊りになった。やめてよ、逆さ吊り。思わず心の中で変な声出たよ……。


「チャーリーのおもちゃなんだからあんまり雑に扱わないでくれる、シン?」

「あ、失礼しました。何だかそのカエルにバカにされたような気がしたので……」


 ひぃっ! この人本当は私の心の声聞こえてるんじゃないの?!

 眉をひそめて逆さ吊りのカエルをにらみつけるシン。


 ──怖い怖い!


 今の私はまさに釣り上げられた魚──じゃなくてカエルだ。カエルが釣れるかどうかは知らないけど。

 何となくでも怪しまれている今、死んでも動くわけにはいかない……おもちゃだから生きてはいないんだけど!


「まさか。ただのおもちゃだよ?」

「えぇ、そうなんですけどねぇ……」


 シンはさっきから私をひっくり返したり振ったりしている。けれど、どこからどう見てもおもちゃのカエル。やがて、ふうっと息をついて私を机の上に戻した。


「このカエルを見て思い出したんですが、今日はフェルズ嬢を見かけませんでしたね?」

「ああ……何か体調が悪いらしくて、しばらく王宮に来られないとフェルズ家から連絡が届いていたよ。学園もお休みするらしい。気軽にお見舞いに行けないのが歯がゆいよ。だけどシン……なんでこのカエルを見てアンリを思い出すの?」

「……そのカエルを見てるとなんだか目がチカチカするので、目に優しいフェルズ嬢の姿が思い浮かびまして」

「……」


 ──それは、私が地味だとディスっているのかな、シンよ?

 元の私は確かに、このカエルの派手さの対極にある存在だろうけれども。

 きっとさっき『顔が怖い』と言ったのを根に持って……って、おかしいな。言ってないわ。思っただけだったよ!




 やっぱりこの人怖いわ!






ひっ!まだ次話書き終わってない!(焦)

というわけで、昼に投稿されてなかったらお察しで……

(遅くても夜には投稿します)

少し更新ペース落ちるかもしれませんm(_ _)m

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