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挿話 少女が見るテンセイの夢(ラーラ視点)

自称ヒロインのラーラちゃんです。




 あるところに綺麗な金髪をもつ青い目の女の子がいました。彼女は目を引く容姿に加えて、心も大変美しい母思いの優しい少女でした。

 彼女は元々地方で暮らしていた平民でしたが、物心つく前に父をなくし、母と二人暮しになってしまいます。生活のため、母と一緒に女性でも働きやすい王都へとやってくることになったのでした。彼女たちにとって王都は多少物価が高くても、女性が働くことに忌避感を示す田舎よりはずっと暮らしやすい場所でした。

 幸い、上都してすぐに彼女たちは、老夫婦のやっているパン屋で住みこみで雇ってもらえることになりました。

 少女は忙しい母親の役に立ちたくて、家事や店番などの手伝いを進んでやりました。朝から洗濯や掃除や料理、そして時々店番──仕事ばかりで一日が終わってしまいます。遊ぶ暇などない彼女には、当然友だちもいません。

 それは、幼い少女にとって決して楽しい日々ではありませんでした。

 ただ、家事はともかく、店番まで手伝っていたのにはわけがありました。時折パンを買いにやってくる少年のことが気になっていたからです。


 彼が好きなのは(ハムサンド・クリームパン・ミートパイ・エッグタルト)でした。


 とてもおいしそうにパンをほおばる彼を見ていると何だか心が安らぎます。いつの間にか彼の存在は、辛い生活の支えとなっていました。


 ある日、店のおつかいで食料品を買いに市場に出かけると、市場の外れに怪しげな雑貨屋さんがありました。

 店番は若い男で、色々な物を他の店よりも安く譲ってくれるといいます。多少は怪しんだものの、安く手に入るならばと、少女はそこで色々な買い物をしました。すると、男はサービスだよと言って、かわいらしい匂い袋をくれました。

 家に帰った少女は、いつも化粧する暇さえ惜しんで働いてくれている母親に、その匂い袋をプレゼントします。母親はとても喜んで、その日から毎日それを身につけてくれるようになりました。


 すると、しばらくして少女の母親は、たまたまパン屋に客として来ていた男爵様に見初められました。男爵様と結婚すればもう、母親も身体をボロボロにしてまで働かなくてもよくなるでしょう。心優しい少女は、母親が幸せになれると知って、大変喜びました。


 少女は連れ子でしたが、男爵家の養女として引きとられました。突然貴族の仲間入りをした彼女は右も左も分からない状態でとまどいます。簡単な読み書きはできましたが、学問などはさっぱりでした。

 優しい男爵様はそんな少女に家庭教師をつけ、大きくなってからは多くの貴族が通うという学園へも、通わせてくれることになりました。

 同年代の子どもたちが通うのが学園だと聞いて、彼女は胸を高鳴らせます。

 しかし残念なことに、期待していた学園生活もまた、楽しいものではありませんでした。にわか貴族の彼女は、その貴族らしくない言動で次第に孤立してしまいます。

 不安でいっぱいの学園生活でしたが、そんな少女を何かと気にかけてくれる男子生徒がいました。彼女は彼の存在のおかげで、何とかくじけずに学園生活を送ることができていました。


 その男子生徒の名は(イアン・ジュリオ・トマス・スチュアート)といいました。


 彼は昔パンを買いにきていた少年にとても似ていて、懐かしい感じがします。彼ははたしてあの少年なのでしょうか?

 それに、美しく心優しい少女に心惹かれるのは彼だけではないようで。何かと気にかけてくれる彼も、少し意地っ張りな彼も、他人には興味のなさそうな彼も、みんな彼女を気にしているようです。

 ただ、それをよく思わない人間もいて、彼女は更に辛い学園生活を送ることになるかもしれません。しかし、彼らと力を合わせれば乗り越えることはたやすいはず。


 はたして少女が選ぶのは──。



──────────



「だいたいこんな感じよね。今日は転入初日だったわけだけど……うーん」


 ラーラは今まさにメモしていた手を止めて、ペンを手にしたままうなった。


「入学初日にいちゃもんをつけられてるヒロインを助けてくれるのが、第一王子のイアンのはずなんだけど。

 転入初日の今日、このイベントは起こらなかったのよね。入学じゃなくて転入だからなのかな?

 まぁ、でもイアンとは先に王宮で会っちゃってるし──だからきっとこの出会いイベントは省略されたってことね」


 色々と書きつけてあったメモに、大きくバツ印を書き込む。


「明日、トマスの迷い猫イベントがちゃんと起こればシナリオ通りに進められるって思っていいかなぁ? 迷いこんだ猫ちゃんがいないか探さなくちゃ。猫ちゃんを保護すると、トマスがそれを見ていて一緒に飼い主を探すイベントになるはず。

 後は図書室で課題のために青い本を借りるとメモがはさまっているのよね。それをジュリオに届けると一緒に勉強するイベントになるんだけど、こっちはやるとしても明後日かなぁ?

 ──そういえば! 悪役令嬢の兄スチュアートも先輩枠の攻略対象のはずなんだけど、四つ上だから学園をもう卒業しちゃってるのよね。んー……イアンもゲーム通りの出会いじゃないから、その辺はきっと誤差みたいなものね」


 今度は違う部分をグリグリと円で囲う。


「あとは学内の食堂が魚料理の日にハムサンドを持っていけば、魚料理の苦手なイアンと中庭で一緒に食べるイベントが起きて──。

 騎士科の縦割り合同訓練の日にミートパイを持っていくとトマスに食べられちゃうイベントが起きて──。

 ジュリオはえーっと……クリームパンだったっけ? 勉強会の時に持っていくんだっけ? とにかくクリームパンあげればいいのよね?」


 ハムサンド、ミートパイ、クリームパンと大きく書き加えてから、トントンとペンの頭をたたく。


「うふふふ……この先のシナリオがわかるってある意味チートよね?

 それにラーラってばヒロインなだけあってものすごくかわいいし! これなら攻略も楽勝よ!

 実物の悪役令嬢はずいぶん地味だったもんねぇ……ゲームで見た時はめちゃくちゃ厚化粧だと思ってたけど、実は地味顔を隠すためだったのね。

 もしアンリエールが転生者だったとしても、あの顔じゃあ逆ざまぁは厳しそうだわぁ。かわいそうに~」


 かわいそう、と口にしつつも全くそうは思っていない様子で、側にあった手鏡を覗きこんでニヤニヤ笑った。


「四人全員攻略すると学園教師のヘルゲンルートが解放されるはずなんだけど、現実じゃエンディングは一回きりだから全員攻略とか無理ゲーよね。

 誰ルートにしようかなぁ。トマスは脳筋だし、ジュリオはちょっとクーデレっぽいとこが逆にうざいっていうか……眼鏡男子あまり好きじゃないし。

 公爵家の跡取りのスチュアートもまぁまぁよかったんだけどなぁ。学園卒業しちゃってて今のあたしとは接点がないから難易度的にはハードモードよね。

 やっぱり未来の王太子イアンしか勝たんわ。実物のイアンてば、めっちゃかっこよかったし!

 目指せ王太子妃! 打倒悪役令嬢!……っと。

 でも、イアンルートのアンリエールが一番怖いから注意しないと~。

 シナリオ通りなら、イアンの心が段々ヒロインに傾いていくことで焦ったアンリエールが禁呪に手を出して、ヒロインを誘拐して身体を入れ替えたりするかもしれないもんね。

 まぁ、好感度さえ高ければ、イアンが入れ替わりに気づいて助けてくれて、結局アンリエールが断罪されるわけだけど~」


 ラーラはゴソゴソとポケットを探って、ピンクの蝶の刺繍がついたかわいらしい小袋を取り出した。その瞬間、甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「それにしても王妃様が味方についてくれるなんてホントにラッキーよね~。初対面でもあたしの話もちゃんと聞いてくれて、イアンとの仲も応援してくれたし!

 しかも、本来ならどっかの市場の道具屋に行かないと買えないラブポプリまでくれたしぃ。ラブポプリがあると攻略対象の好感度が三割くらいアップするからマジで助かる~! 結構高いから、ゲーム序盤じゃ買えないのよね。マジ感謝~!

 あたしがイアンの奥さんになったら、王妃様には優しくしてあげよっと」


 うっとりと小袋を眺めていたラーラは、ハッと息を呑んで壁の時計を見つめた。


「いけない。そろそろ、教主様に報告に行く時間だわ!」


 それから立ち上がってメモをしまうと、部屋から締め出していた侍女を呼んだ。




「テンセイ教へ出かけるから準備してちょうだい」





お読み下さりありがとうございました!

前半はラーラの思う乙女ゲーのあらすじのようなものです。

明日はまたアンリ視点へ戻ります。

明日もお昼に投稿予定です♪

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