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(11)図書室にはカエルの精が

第二王子様登場の巻。




『鬼さんこーちらっ』

「あ、まってぇ! カエルしゃん、まってぇ!」


 いや、四歳児の脚力甘く見てた!

 死ぬほど頑張らないと捕まっちゃうよ!



──────────



「ねぇ、アンリ……」

『なぁに?』

「その……さ。おもちゃだってわかったから怖くはないんだけど……今からでも他のおもちゃに、人形とかに入り直したりってできないかな? 確かチャーリーはままごと用の人形も持ってるはずなんだけど……」


 ああ、そうね。カエル苦手だもんねぇ……。

 私もできることならもっと人間に近づきたいんだけど、多分無理なんだよね。


『それが……』


 王妃たちが使った薬について話した。


「そう……アンリに使われたのは恐らく『呪薬じゅやく』と呼ばれるものだね」


 ふむ。確かに王妃もそう言っていた。


「呪薬は効き目を強力にするために、しばしば制約つきのまじないをかけることがある。今回の場合は『一生に一度しか使えない』という縛りが多分それだね。

 呪薬自体は医薬や魔法薬と同じく古くから使われているものだし、毒というよりも医師が使う医薬に効果が似ているものが多いんだ」


 ほうほう……昔から使われてるのか。私は聞いたことすらなかった。こんなところで勉強不足が露呈するとは……不覚!


「アンリが知らないのも無理はないと思うよ。呪薬は、元々占いや呪いが盛んだった北方の田舎の方が起源みたいなんだけど。呪薬自体に呪い師の血を受け継いだものにしか扱えないという制約がかかっているせいで、一般には流通してないからね……でも」


 イアンは声を一層潜めた。


「魂を肉体から切り離すものなんか聞いたことがない──おそらく使われたのは禁呪薬の可能性が高い」


 また新しい単語が出てきた! 禁呪薬って何?


「魔法なんかでも、制御が難しかったりして人の手に余る危険なものを『禁呪』として封印してしまうだろう? 禁呪薬も同じだよ」


 そうなんだ。イアンは物知りだなぁ。


「いや、僕もいつか図書室の古い本で見たことがあるだけだから──でも、禁呪薬について詳しく書いた本はなかった。もしあるとしても──そんな危険な薬について書かれているものならば、普通には閲覧できないよう禁書指定にして、別室保管の可能性が高いよね」


 ──もしかして禁書室?!


「そう。禁呪に関する書物もそっちに保管されているらしいから……まぁ、そんな本があるとして、の話だけど」


 なるほど。そう言われればそんな気がしてくる。

 でも、禁書室っていったら確か普通に出入りできないところだよね? 入室には国王陛下の許可がいるはず。無断で調べるのは無理そうだ。


「そうだね。禁書室の入口は常に見張りの兵が立っているし、扉が魔法の鍵で施錠されてるから正攻法で入るのは無理だね。方法がないこともないんだけど……アンリにちょっと協力してもらおうかな?」


 そう言ってイアンは、口角を上げてラベンダーアメジストの瞳を細めた。

 ここで、いたずらっぽい微笑みの登場ですよ!

 イアンのこんな表情あんまり見たことない! 何だか得した気分だ!

 私が上機嫌でいると……。


「ところでアンリ……ちょっと聞いてもいい?」

『いいわよ、何でも聞いて!』

「──それって、まさか、裸……なの?」


 何でも聞いて! とは言ったものの──そこは気づいてもあえて気づかないふりをするところじゃないの?!


 裸だけど、裸じゃない──おもちゃのカエルたんは裸だけど、中身のアンリは裸じゃない。私的にはそんな状態。

 そうだ。このカラフルカラーが服のようなものだと思ってくれればいいのだ。だいたい、おもちゃのカエルが着る服なんて存在しないし、カエルが服着てたらおかしいでしょ?


「アンリが裸……」


 断じて違うから!!!

 痴女じゃない! 私は痴女じゃないんだからっ!!!



──────────



 ──なんて、アホなやりとりをしていた時間が懐かしい。トホホ。


「カエルしゃん!」


 めっちゃいい笑顔で追いかけられてます、なう。


「まってぇ!」


 待ちませんよ、カエルさんはこれがお仕事ですからね!


『じゃあ、チャーリーを呼んでこようか』


 そう言われたのは二、三十分前。


 なぜ図書室へ行くのにチャーリーを呼んでくるのか? 疑問符で頭の中を埋めつくされた私は、イアンにひょいと持ち上げられて、上着のポケットに入れられた。


 ──え? 待って、待って、何も聞いてないよ? 協力って何のこと? 私は何をすればいいの?


 イアンはそのまま執務室を後にした。

 部屋の前で待機していたシンが気づいて声をかける。


「殿下、フェルズ嬢からのラブレター読み終わりました?」

「あ……ああ、うん、まぁね……。それよりシン、チャーリーにこのカエルを返しに行ってくるから、ちょっと部屋なかで待っててくれるかな?」


 イアンが、ポケットから少し飛び出た私の頭を、ちょいちょいっと指でつついてくるからくすぐったい。


「チャーリー殿下のところですよね? 俺も一緒に行きますよ」

「チャーリーのところに行ってから、図書室に寄りたいんだ。そんなに離れてないし大丈夫だよ」

「ですが陛下。もしもまた、廊下の向こうから不思議女子の突撃を受けたらどうするんですか?」

「不思議女子……それはまた新しい人類の分類法だね」

「先日、絡まれたの忘れたんですか?」

「──えぇっと……誰だっけ……?」

「『あなたがイアンね! あたしがあなたの運命の相手、ヒロインのラーラですぅっ! 思った通りのイケメンだぁっ! 会えて嬉しいですぅっ!!』って叫びながらタックルしてきたじゃないですか、不思議女子──というより明らかに不審人物でしたけど」


 ──えぇぇ……。なにそれ怖い。


「あの女は、母上のお茶会に来た客だったんだろう? 確かにおかしなことを口走ってはいたが、不審人物とまではいかないと思うけど……」


 王妃のお茶会の客──ということは、私と入れ替わった令嬢だろうか?

 王妃との会話を聞いていた限りでは、そんなに不思議女子という印象は受けなかったけど。


「いいえっ! 甘い! 甘いですよ、殿下! あれはいけません。どうにも危ない匂いがします。それに、殿下だって半泣きだったじゃ……」

「ああっ! シン! シンの心配もわかるけど、もし出会っても今度は自分で何とかするから大丈夫だよ。ちょっと急ぎの書類があるから、シンにはそれ先に片づけておいて欲しいんだ。お願いっ!」


 あ。

 これ、私にもよくやるイアンの『お願い』攻撃! 破壊力は抜群だ。

 ちょっと潤んだ瞳で上目がちに見つめられて、更にこてん、と首を傾げて『お願い』って言われると絶対断れないやつ!


「くぅっ……わかりました! くれぐれも変な女に絡まれないでくださいよ? おかしな気配を感じたらまず逃げること! それでももし絡まれたら大声で助けを呼んでくださいね! すぐ飛んでいきますんで! 絶対! 絶対ですよ?!」


 珍しくシンが食い下がってる。

 イアンは苦笑しながら頷いている──のが、ポケットの中から見えた。

 シンがこれほどまでに念を押すのだ。きっと突撃されたのが、よっぽどの面倒ごとだったのだろう。


「わかったから。じゃあよろしくね」

「かしこまりました」


 今度こそ執務室を後にして、チャーリーの部屋へと向かうイアン。

 あの、イアンさん? 私、お伺いしたいことがたくさんあるのですが……。

 前足で、たしたしとイアンの胸を叩く私。

 今は翻訳紙に乗ってないから、言いたいことがあれば行動で示す必要がある。


「あー……どうしたの、アンリ?」


 歩きながらポケットを覗き込むイアン。

 その瞳が優しく細められていて、私はうっとりと──しかけてハッと気づいた。

 見とれてどうするんだ私。


 たしたし。

 たしたしたし。

 たしたし。


(訳:私は何を協力すればいいの?)


 いかーん! これじゃ全っ然伝わらないじゃないか!

 翻訳紙という便利グッズを知ってしまった今、おもちゃの手足でジェスチャーするのは無謀すぎた……。


「アンリ、君にはね──……」






「カエルしゃぁぁぁん! どーこでーすかぁっ?! でてきてくだしゃぁい!」


 うっ。かわいい! かわいすぎるよ、チャーリー!


 イアンと同じラベンダーアメジストの瞳。髪色は王妃似の淡い金色だ。つやつやぷっくりとした頬は、上気してほんのり桃色に染まっている。


 まさに天使降臨だ!


「殿下っ! 危ないですから、登るのはおやめくださいっ!」


 焦ったような兵士の声が聞こえてくる。多分、禁書室の見張りの兵士。


 イアンと一緒にチャーリーの部屋に寄り、


『絵本を読んであげるから図書室へ行かない?』


という、イアンの言葉にチャーリーが頷き。


『面白い話をしてあげよう。王宮の図書室にはね、カエルの精霊さんがすんでるんだよ。大人には見えないらしいけど、チャーリーなら見つけられるかもしれないね?』


 道中、突然始まったほら話に、顔を輝かせるチャーリー。唖然とする私。


『あっ。あの奥の本棚のところに何かいたような気がする!』


 イアンが指をさしてチャーリーを誘導して──チャーリーが興奮しながら奥の本棚へ向かったところで、ポケットのカエルが放たれた。

 そして、カエルとチャーリーの追いかけっこが始まった。


「やっ! カエルしゃんつかまえてにーしゃまにみせるのぅっ!」


 ぎゃあああ──死ぬ! 死んでしまう! 舌足らずなセリフのあまりのかわいさに、心臓麻痺起こして死んでしまう!

 しかも、今日は後ろ頭に寝癖がついておられる!

 多分さっきまで昼寝をしていたせいなのだろうけど。

 何あれ? 私をキュン死させる凶器か何かなの?!


 でも、四歳児の瞬発力と脚力侮れぬ。最初はチラッとだけ足を見せて、探させようと思っていたのに、あっという間に距離をつめられて今や本気の追いかけっこ!

 とりあえず現在、棚の一番上に登ったカエル。チャーリーは、そんな私を捕まえようとして、何やら踏み台を持ってきたらしい。

 おそらくはイアンに言われて様子を見にきただろう兵士が、大変慌てているようだ。


「チャーリー殿下ぁっ! お願いですから降りてください!」

「いーやっ!」


 そう、私は囮である。まぁ、むしろそれ以外に何ができるんだ? って話なんだけども。

 私がチャーリーを引きつけて、図書室内を引っかき回せば、見張りの兵士も何ごとかと思うわけだ。

 そこで、イアンが『僕が代わりに扉の前に立っててあげるから、ちょっと見てきてくれないかな?』なんて言う。そして様子を見にきたが最後、チャーリーに振り回されてなかなか見張りの任務に戻れない──と。イアンが描いた筋書はこんな感じだった。


 そんなの上手くいくわけがないと思ってたけど、なぜか上手くいっている模様。




「カエルしゃん! みーつけたっ!」


 考え事をしていたら、にゅっと伸びてきた手につかまれた。




 ──あ、いけない。捕まっちゃった……!






お読み頂きありがとうございました!

完全にストック切れたので、しばらく書いては更新の自転車操業状態が続きますので、頑張ります~。


次回、第二王子歌うの巻!


また昼更新目標に……できなかったら夜にします!

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