第三話 世界一強力なブラスター(前編)
1日半の付き合いだが、アリアはかなりのせっかちであると十分に実感できた。
彼女は食事を乗り合い馬車の中で簡単に済ませられるようにビールと硬いビスケット、塩の結晶がこれでもかと付いている干し肉を大量に商店で購入した。
もう少しおいしいものを食べたいと言ったが、「いつ敵に襲われるかわからないのに悠長にゴハンなんて食べれないでしょう」と一蹴されてしまった。
硬いビスケットは苦くて酸っぱいビールに浸しながら食べるのだが、全然美味しくない。しょっぱい干し肉を一緒に口に放りこみ、味を消しながら食べた。
食事が極端に充実しないとここまで気が滅入るのは初めて体験した。そして二度と体験したくないと思った。
憂鬱な気分で馬車に揺られる時間が3日間ほど続き、岩石ダマシガニが出没した山へ到達した。
「ついに来たわね、ここが根城よ」
「カニなのに山にいるんだね。不思議だなぁ」
「はぁ?カニは山にいるに決まってるでしょ?寝ぼけてるの?」
後からアリアに聞いたのだが、この世界ではカニは陸地にしか存在しないらしい。岩石ダマシガニもそのうちの一種だ。
「岩石ダマシガニはその名の通り岩に擬態していることが多いわ、注意して探してね」
「岩に擬態してるってことは、見分け方とかあるの?」
「見分け方はカンタンよ。こーやって怪しい岩を突っつけばビックリして起き上がるわよ……」
アリアが近くにあった大きな岩を太刀で突く。すると――
地面が揺れ、唸るような地響きがした。そして見上げるほど大きい岩から足が8本飛び出し、動き出した。なるほど、これが岩石ダマシガニか。
「アリア、これが岩石ダマシガニか。かなり大きいな」
「かなりどころじゃないわ…通常よりもふた回りくらい大きい!こんなサイズ今まで確認されてない――」
「ギイイィィィィーン!!!!」
岩石ダマシガニは耳をつんざく様な奇声をあげた。思わずオレとアリアは耳を塞いだ。奇声に怯む二人を見下ろし、巨蟹は重機の様なハサミをギチギチと音を立てた。
まさに、そのハサミで二人をハサミ潰してやるという――
そのような意思表示に見えた。
「大きいほど斬りがいがあるわね!真っ二つにしてあげる!」
アリアが不敵に笑う。
「準備はいい?マリオ!」
当たり前だ。カニ如き自慢のブラスターでぶち抜いてやる。
「かかってこい!カニ鍋にしてやるぜ!」
オレとアリアはエモノを岩石ダマシガニへ向け、臨戦態勢を取った!