39 真実と終わりに向かって
俺達を取り巻く謎、敵、不可解な出来事の全ては恐らくロストデイから始まっている。
そしてその全ては終末の日と共に終わるのだろうという不思議な確信があった。
終末の獣復活による人類の終わりを回避できなければそれこそ終わりだ。
しかしなんも覚えてないけど俺は昔世界を救ったらしい。その忘れた記憶を思い出せばきっともう一度世界を救える。この不気味な謎に包まれた激動の一年を終わらせられる。
しかしロストデイの記憶を取り戻そうとするとそれを阻止しようとする何者かに殺される。
そこでソニアは分かる所から解明していこう、と提案した。
まず、全人類から一日分の記憶を奪ったロストデイと、臾衣(と千景ちゃん)をたびたび悩ませている限定記憶消去が同一の原因によるものと断定する。世界規模の記憶消去を行える存在が二つも三つもあるとは考えられない。
その世界規模の記憶消去を行う何か、あるいは何者かはニューアイランド……イギリスに関わっていると仮定する。
イギリスはロストデイを境に歴史から忘れ去られ、世界指折りの先進国だったらしいその栄えた王国は影も形もなく、島全域が荒れ果てた更地になっていた。
そしてイギリスの存在が魔法界に知れ渡り争奪戦が始まった途端に世界規模の記憶消去が断続的に何度も起き始めた。
イギリスと世界規模記憶喪失の関連性は確定的。
そしてここを基点に連想ゲームを使い、体当たりで検証を行うのがソニアの案だ。
臾衣は何かを忘れさせられてから思い出しているが、その何かがなんなのか分からない。
だから俺と臾衣とソニアでイギリス=ニューアイランドについて知っている事を片っ端から言い合い、臾衣が覚えていて俺達が忘れている事を特定する。
本当に何を忘れさせられたのか全く分からなければ、俺達は臾衣の人生の記憶全てを検証しないといけない。そんな莫大な作業は一年経っても終わらないし。検証が終わる前にザ・デイが来てしまう。
しかし「イギリス関係」まで絞れれば忘れられた記憶が何なのか特定できる見込みは十分だ。
しかも俺と臾衣のイギリス知識はニューアイランドの存在が暴露されてからの二週間弱分しかない。二週間弱の記憶を徹底的に洗い出せばいいのなら一層楽になる。
何を忘れさせられたのか分かれば、何か、あるいは誰が記憶喪失の原因なのかの重要な手がかりになる。
例えば忘れさせられた記憶が全て銀行強盗に関係していたら、銀行強盗の記録を抹消したい銀行強盗犯が犯人だと目星をつけられる。
記憶喪失直前に必ず不思議な石の発見ニュースがあったのなら、不思議な石に触るか何かするのがトリガーで記憶喪失が起きる事故であろうと推測できる。
とにかく失われた記憶が何なのか突き止め、関連性を突き止める事だ。
この確認作業にはかなり時間がかかりそうなので、尋問が済んだ山川はグリモアに引き渡した。
パラケルスス所属の山川はグリモア相手にかなりの被害を出していて、懸賞金は高額だ。そして余罪も多い。本人の口からしか出てこない犯行の証拠は多く、その証拠によって多くの人が助かり、真実を知り、溜飲を下げ、家族を弔う事ができるだろう。
山川と熊埜御堂に人生をぐちゃぐちゃにされたのは自分だけではない、他の被害者も復讐する権利がある、とソニアは言った。どうせ死刑は免れないのだから、とも。
そんなわけで山川はグリモアの牢にガチガチに魔法をかけられて閉じ込められる事になった。逃走防止魔法、敵対行為禁止魔法、自殺防止魔法などを重ね掛けされ雁字搦めに縛られた山川は罪を自供する以外何もできない。
死刑までの幾許の間、山川は苦しみながら過ごすのだ。
ソニアの復讐は終わった。
今度こそ、今度こそロストデイ・謎の敵の正体に迫れそうでもある。
全てが上手く行き始めたようだが問題が一つ。
ソニアが無一文になった事だ。
ソニアの炎魔法は「大切に思っている自分のもの」の焼失を代償にする。復讐を果たすために自分自身に火が回るほどの代償を支払ったソニアは全財産を失っていた。
自宅全焼、所持品全焼、預金口座は焼け焦げて、会社のデスクも灰になり。
かつてと同じように全てを火によって失ったソニアだが、今回は前と一つだけ違う。たった一つ焼け残ったものがある。
俺だ。
家を焼け出されカプセルホテルに一晩泊まる金すらないソニアを俺はウチに居候させる事にした。同時に臾衣も心配する母を説き伏せ俺の家に泊まり込みはじめた。
可愛い女の子が二人も俺の家に! しかも二人とも俺の事が好き! これで間違いが起こらなかったらそっちの方が間違ってる。
が、俺は間違ってる野郎なので間違いは起きなかった。
気が早すぎるソニアは「獅狼の赤ちゃんできたら赤ちゃん燃えちゃうから嫌」と言い放って俺に触れようともしないし、臾衣は臾衣でソニアのそばで俺に迫れるほど積極的な性格ではない。
俺はそういう妄想得意だけど実行は怖くて無理。
結果、三人みんなモジモジ様子を伺い合っている思春期中学生空間のできあがりというわけだ。
もっともそんな甘酸っぱい雰囲気には滅多にならず、大抵は夜中まで無限にイギリス連想ゲームを唱え続け、情報を整理し推理を重ねる生真面目空間なのだが。
なにしろ命と世界の運命がかかってる。イチャイチャに夢中で謎を解き明かせずみんな死んで世界滅びましたなんて笑えない。
そうして調査と計画と検証の日々は瞬く間に過ぎ去り、ザ・デイの前日がやってきた。




