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35 犯人は誰?

 今まで臾衣が記憶を消されるタイミングに規則性は無かった。

 寝ている時、通勤途中、トイレの中、食事中、ぼんやりSNSを弄りながら、冷蔵庫を開けた瞬間などなど。時間帯、場所、近くにいた人、体調、天候、全てが不規則。


 これが例えば毎回社内で記憶を消されているなら犯人は社内にいると分かるのだがここまで規則性が無いと犯人像がさっぱり分からない。

 一応、犯人が透明になって常に臾衣の背後にピッタリくっついて記憶を消すタイミングを伺っていれば説明がつく。まさかと思いつつ透明な尾行者の存在を確かめるために臾衣の周囲に蛍光スプレーをおもむろに振りまいてみたが道路のコンクリートに蛍光ピンクのまだらができただけで終わった。


 何のために何の記憶を消しているのか? 何故臾衣が狙われているのか? さっぱり分からない。

 そこで俺達は逆に考える事にした。誰が記憶を消しているかではなく、記憶を消せる魔法使いのなかで誰が臾衣に接触できるか。考えるべきはそこだ。


 流石に世界に存在する全ての魔法使いの魔法を網羅して調べるのは不可能だ。ソニアと会う前の俺のように偶発的に魔法を覚えGAMP製品を利用せず魔法コミュニティ外で暮らしている魔法使いもいるだろう。

 そんな野良魔法使いが臾衣に記憶消去を仕掛けてきているなら正体を掴むのは困難を極める。


 が、記憶消去が始まった時期から察するにおそらく犯人はGAMPに所属する誰かだ。

 臾衣が記憶消去に悩みはじめたのはニューアイランド争奪戦が始まったのと同時。ニューアイランド争奪戦はAbezonを除くGAMP三社によるものだから、なんか、こう、そのへんの力関係の何かで臾衣が記憶消去のターゲットになったと考えるのが合理的。


 そしてGAMPに所属しているならそのデータはグリモアSNSで追える。

 幸い男治さんの件で記憶系魔法使いについては調べている。記憶消去魔法使いのリストアップは簡単で、その中で日本にいて臾衣に接近できそうな人物を絞り込むのも難しくなかった。


 ……分かっていた事だが、記憶系魔法使いは性格がねじ曲がっているヤツばかりだ。受刑者、指名手配犯、異常性癖、薬物中毒などなど。お近づきになりたくない人種の坩堝。

 その中の誰かが臾衣の記憶を執拗に消していると思うとゾッとする。早いところなんとかしないと取返しのつかない事態に発展しそうだ。


 ソニアは予想以上にあっさり協力を約束してくれた。これで今まで記憶消去で満足していた犯人が暴力に訴えてきても安心だ。

 囮作戦を決行する時が来た。


 作戦は簡単だ。

 夜、人気のない道を臾衣が一人で歩く。俺とソニアは遠くからそれを見張る。怪しい奴が来たら取り押さえる。

 これだけ。

 俺と臾衣だけでは戦闘になった時困るからこの作戦はソニア合流まで実行できなかった。


 臾衣は記憶を消された前後に不審者を見ていないから、記憶消去犯は臾衣に接近して記憶を消しているわけではない。今まで陰湿に姿を見せず記憶消去をかけてくるだけだった相手が一人になったからといって姿を現すとは限らない。


 だがわざわざ記憶消去をしてきているのではなく、仕方なく記憶消去をしているのだとしたら?

 本当は殺して口封じしたいのに臾衣の警戒のせいで殺すチャンスを掴めず、記憶消去で済ませているとしたら?

 それなら隙を見せれば殺しに来るはずだ。


 ソニアには仮定に仮定を重ねた作戦で成功するとは思えないと指摘された。

 それでもやってみる価値はある。この作戦が空振りに終われば少なくとも犯人は臾衣の命を狙っていないと分かり少しは安心できる。

 上手く犯人が引っかかれば万々歳。襲われないまでも姿をチラとでも見せてくれれば記憶消去魔法使いリストから特徴を辿って特定できる。


 囮作戦に臾衣は反対した。そうだよな一人で命を狙われるために囮になるなんて怖いよな、と思ったら、自分が囮になっている間に俺とソニアが組むのが気に入らないらしい。

 臾衣はソニアと俺が二人きりになるのを執拗に阻止しようとしてくる。

 たぶん嫉妬なんだろうなとは思うが聞いて確かめるのは恥ずかしいし聞いて間違っていたらもっと恥ずかしい。聞けない。


 どの道臾衣の嫉妬は杞憂だ。ソニアが俺を嫌っているのは自他共に認める明々白々の事実。ソニアが俺に好意を抱いているなんて妄想は臾衣の頭の中にしかないぞ。二人きりになったところで何もねーよ。自販機で飲み物奢らされるぐらいはあるかもしれんが、それぐらいかわいいもんだ。


 そうして渋る臾衣を説得し、囮になって人気のない夜道を歩いてもらうこと六日。

 今夜も空振りだったら作戦失敗と判断して別の手を試そうと思っていたら動きがあった。

 臾衣が歩く小道は左右を公園の樹木と高架橋に挟まれた見通しの悪いルートで、等間隔に設けられた電灯はわざと壊しておいたから薄暗い。襲い掛かるには絶好のポジションだ。


 一人で白い息を吐きコートの裾をかきよせそわそわと歩く臾衣を距離をあけ俺とソニアが尾行する。いつもはほとんど人通りがなく、コンビニ帰りのお兄さんやジョギング中のおばさんとすれ違うぐらいなのだが今日は違う。

 視線の先、臾衣の正面から二人組の怪しい奴らがやってきた。目深に被った帽子にサングラス、マスク。しかもキョロキョロと周囲を見回し気を張っている。つまり俺とソニアと同じ格好で同じような事をしているわけだ。


「まさか本当にかかるなんてね。やる?」

「待ってくれ。まだ人違いの可能性がある」


 塀の影から身を乗り出したソニアの頭を抑える。だがいつでも飛び出せるように身構えておく。

 マスクは風邪予防、帽子はファッション、サングラスは光過敏症、周りを見回しているのは観光客だからかもしれない。犯人と決めてかかって襲いかかり、あの二人が一般通過十字教徒だったりしたら死ぬのは俺達の方だ。下手な魔法使いより何の力もない一般人の方が恐ろしい。


 息を殺して見守っていると、身を固くする臾衣の横を二人組は足早にすれ違った。

 なんだ、本当に人違いか。

 そう思った次の瞬間、二人組の片割れの手に白い冷気が渦巻いた。そしてそれを臾衣の背中に向け――――冷気を放つ前に飛び出したソニアの炎の噴射が二人組に襲い掛かった。


「!?」

「ちぃ! 仕留めそこなったわ!」


 冷気使いの反応は素早く、驚いた様子は見せたが冷気の矛先を炎に変え相殺してきた。

 ソニアが放った追撃の炎をやはり冷気で打ち消し、戦闘の構えをとった片割れにもう一人が耳打ちする。

 俺は青い顔で逃げてきた臾衣を背中に庇ってじりじり後ろに下がる。


 相手は二人、ソニアは一人。人数不利だ。ところが肉壁として俺も前に出ようと一歩踏み出した時、二人組は白い冷気を目くらましに逃げ出した。


「待った! 伏兵の可能性がある!」


 追いかけようとするソニアを制止すると、ちょっと消化不良な様子でも戻ってくる。

 それでいい、無理はしなくていい。二人いたなら三人目、四人目もあり得る。追いかけた先で待ち伏せされたら目も当てられない。敵の一人が冷気使いと分かっただけで十分だ。


「臾衣、大丈夫か?」

「大丈夫です。ごめんなさい、顔は見えませんでした。でも厚底靴じゃなかったので、身長はだいたい165と170で間違いないと思います」

「いい観察だ」


 スマホを出し、あらかじめ作っておいたリストから検索をかける。

 下手人はすぐに判明した。該当は一件。彼らはパラケルススに所属する二人組の武闘派グループで、冷気使いが戦闘を、記憶消去使いが隠蔽工作を担当している。

 俺のスマホを横から覗き込んだ臾衣が眉をひそめた。さもありなん、この二人組の経歴はかなりひどい。魔法使いには犯罪がつきものとはいえかなりやりたい放題やっている。


「博多美術館盗難、Abezon要人子女誘拐、官僚殺人未遂、北海道花園女子寮不法侵入、年金詐欺、保険金詐欺、ヤクザの用心棒、麻薬取引、あーあーあーあー、まだあるまだある」


 ガッチガチの犯罪者。黒い。真っ黒だ。

 記憶消去使いがいる以上、関係者が事件の記憶を忘れさせられ発覚していない余罪も多そうだ。どこまでが二人の独断でどこからがパラケルススの仕事か判断しかねる。


「めちゃくちゃだ。器物損壊複数件、恐喝、奈良県で一家丸ごと監禁、それと――――」


 長い罪状一覧を辿る指が止まる。思わぬ文字列に思考が止まった。

 俺が口を噤んだ箇所を、姫宮ソニアは恐ろしい無表情で淡々と読み上げた。


「――――姫宮家放火殺人」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] え?調べたことなかったの?
[一言] いつも更新ありがとうございます。
[一言] 犯人はヤスを思い出しながら読んでたら想像以上のゲスが出てきた…
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