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15 魔法使いの経済事情

 ソニアから送られてきたMのロゴ(たぶんMerlin NetworkのM)入りの小さなパーツを説明書通りにスマホに組み込み、一連のセキュリティ手続きをすると俺にもGAMPのサービスを利用できるようになった。まずは機能が制限された試用期間で、この期間中に魔力を支払わないと正式サービスを使えない。


 魔力の支払いは「魔貨」と呼ばれる何の絵柄も彫られていないシンプルな銀色の硬貨で行われる。「MagiCoin」とか「Mチップ」、「M$(マギドル)」など国によって色々別名がある。しかし実物はどれも同じで、魔法使いなら専用の鋳型に魔力を流し込む事で誰でも鋳造できる。

 鋳型は一見して手のひらサイズの金属の箱で、指を突っ込む穴が空いている。指を入れると魔力吸い取りが始まり、だいたい10秒毎に一枚魔貨が鋳造されて排出される。魔力切れになると鋳造されない。

 魔法界の基軸通貨であり、手の中で砕いたり嚙み砕いたりする事で魔力を回復できるスグレものだ。


 俺がソニア立ち合いの元で鋳造すると、魔力切れを起こすまでに一時間近くかかった(350枚)。鋳造待ちが暇すぎて途中からスマホを弄りはじめたぐらいだ。

 ソニアは何も言わなかったが、後でグリモアで調べたら俺の魔力はバチクソ多いらしい。普通は魔力満タンで鋳造しても2,3分(10~20枚)で終わる。長くても5分ぐらい。

 フル鋳造350枚というのは世界トップクラスといわれるメシア・ウィザースプーンに匹敵する。つまり俺は世界トップクラスの大型新人という事でよろしいか? へへへ。


 だが目立つと謎の殺人鬼に正体を看破され襲われる可能性も高まる。誰にも自慢できないのがちょっと不満だ。これぐらいの才能持ってて調子に乗らなかったら人生で何かを自慢する機会なんて一生ないぞ。


 魔貨はGAMPの店ならどこでも預け、引き出し、換金できる。サービス利用料も預けた口座からの引き落としだ。例えばグリモアの店で預けた魔貨をAbezonの宅配に使ったりもできるのだが、その場合は手数料が余分にかかる。Abezonを使いたいならAbezonに預けた方がいい。

 大抵の魔法使いは四社にバラバラに預けていて、預け入れ引き落としが面倒だから銀行サービスを一つに統合して欲しいという声は昔から強い。が、未だに実現していない。それどころか手数料が増えている。どの会社も自社に魔貨を蓄えておきたいんだろうなって。

魔法社会も企業競争がバチバチだ。


 で、気になるのが魔貨と現金の交換レート。

 日本円のレート、円魔相場は現在1MC(マギコイン)=510円前後で推移していて、円安魔高傾向にある。毎日魔力を魔貨に変えて日本円に変えればそれだけでなんとかかんとか食っていける相場だ。

 俺なら350枚だから、一時間鋳造型に指突っ込んでるだけで日給17万8500円。働かなくても食っていける。でも九条に成り代わった時点でニートできていたからそんなに嬉しくはない。金銭感覚がすっかりぶっ壊れてしまった。


 GAMPのサービス料は月々合計200MCで、全部高額プランにすると350MCにまで膨れ上がる。俺は一日分の魔力で支払えるが、一般的な魔法使いだと毎日限界まで魔力を絞り出しても全部月額料金に取られてスッカラカンになる値段だ。


 実際、クソ高い。魔法使いなのに魔法使うだけの魔力がない人も多いのではなかろうか。

 月々の支払いでヒイヒイ言って魔力切れを起こしてる魔法使いかあ……小さな頃から慣れ親しんできた魔法使い像とは随分違う。アニメでカッコよかったあの魔法使いとか、伝説のあの魔女とかも毎月GAMPに支払いしてたんかな。夢壊れる。仕方のない事ではあるけどな。GAMPも無料でサービス提供するわけにはいかないだろうし。

 でもなんか、こう、なんかなあ。知りたくなかった魔法使いのリアルだ。


 ソニアはまさに月額料金の支払いに困って滞納しがちだった魔法使いのようで、俺が渡す毎月約5000MCの定期収入に頬が緩むのを隠せていなかった。日本円にして255万円の月収! 月収がそのまま年収になってもおかしくない。改めてめちゃめちゃにぼったくられたんだなと痛感する。

 本当に足元見て毟られた。エグいエグい。

 でもソニアに色々教えて貰わなかったら魔女狩り魔法を知らずにいずれ死んでいただろうし、GAMPを知らずに魔力を日本円にする事もできなかった。そう思うと非難もしにくい。命には代えられん。


 臾衣も魔法を作ったようで、魔力を生産できるようになった。

 臾衣の魔法は変身魔法。魔力さえ足りればなんにでも変身できるそうで、実際に猫や鴉、観葉植物やフライパンに変身するのを見せてくれた。

 ちょっと万能すぎる変身魔法にいったいどんな人生経験を積んだのか分からなくなる。フライパンになる人生経験って何? 幼稚園のお遊戯会でフライパン役やったとか? でも猫にもなれるし鴉にもなれるし、変装どころか変身してるんだよな。臾衣が変身したフライパンには磁石がくっついたし、重さや質感まで再現される高精度ぶり。


 聞くのも怖かったがどんな人生経験を元にしたのか尋ねると、ハッキリ話したくないと断られてしまった。普段が全肯定でちょっと心配になるぐらいなんでも答えてくれるから、教えてくれないと一層気になる。絶対に司さんが困る理由ではないです、と太鼓判を押してはくれたが逆に気になる。じゃあなんで教えてくれないんだよ。深い事情がありそうだ。


 とにかく、そんな臾衣の魔力は日産30MC。平均よりけっこう多い。

 臾衣は固辞しようとしたが、俺は臾衣の月額料金を全て肩代わりした。月々の支払で魔力が不足し、いざというときに魔法を使う魔力が足りなくなったら困るからだ。

 今は俺が臾衣を支援する立場にある。しかし波野司を狙う謎の殺人鬼がいる限り、臾衣の助けを乞う事もあるだろう。月額料金肩代わりぐらい安い投資だ。助け合うと誓った仲間だし。


 ……という建前で臾衣は納得してくれた。

 ふう、可愛い女の子にいい感じで引け目を感じさせない形の恩を売れたぜ。

 女の子には優しくしろってばーちゃんも言ってたしな。今までばーちゃんと母さんしか優しくする相手いなかったけど、やっと教えが生きそうだよ。


 俺と臾衣は新しく手に入れた魔法使い専用コミュニケーションツールで早速情報を集めた。どの道パラケルススに注文した二人分のオーダーメイド魔法防護装備が届くまでは安心して動けない。

 魔法使いSNSグリモアを見ていると、魔法使いがどんな奴らなのかよく分かる。自分の魔法について自慢げに語っている呟きも少なくない。

 ざっと見ていると若い魔法使い、特に13歳前後で魔法を習得した魔法使いは戦闘系が多いらしい。成人になると生活や仕事に役立つ魔法が多く、中年を過ぎると健康・医療系が多い。一般人も魔法使いも興味関心の傾向は変わらない。

 臾衣曰くソニアは炎魔法を使うそうで、この傾向に合致している。そういう傾向があるだけで例外はいくらでもあるが、多少の参考にはなる。


 すると俺を狙った殺人鬼は若者……なのか? 殺しに魔法を使ったとするならだが。

 波野家連続殺人事件の凶器はありふれた刃物で、窓を割って侵入していたり、人気のない路地裏で殺されていたり、一目でそれとわかる魔法の痕跡はない。頭のイカれた非魔法使い一般殺人鬼というセンも考えられる。

 しかし俺や臾衣が魔法というモノに関わったタイミングからして、あの事件に魔法が無関係だったとは考えにくい。

 非魔法使いの犯行を視野に入れつつ、魔法使いの犯行と仮定して動くのが妥当だ。

 

 二人で調べていても波野家連続殺人の犯人について分かったのはそれぐらいだった。

一方、グリモアを使っていると嫌でも目に付く情報があった。

 表の世界には知られていないが裏の魔法社会では常識の、世間話になるぐらいありふれた話題。世界の行く末と魔力価格高騰に関わる重要な二つの日。


「ロスト・デイ」と「ザ・デイ」の情報だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] こうして読み返してたら、魔力が枯渇しても一日で最大値まで回復することとか、当たり前に魔力と魔貨の変換効率が100%なこととか、気づくことがいっぱいある。奥が深くて良い。
[一言] うーん、現時点でソニアを好意的に見れる要素が何一つとしてないな…… この後変わってくるんだろうか
[気になる点] > 描写されていない間に臾衣が何やってるか分からないし、何やってるのか想像する材料もない。 具体的には 臾衣の判断で行動させてあとで成果を聞く、ではなく 認識合わせ、方針決め、役割分担…
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