タンポポと、入道雲
空を自由に動く入道雲を見てタンポポは空を自由に飛べる事に憧れました。飛ぶ自由を得たタンポポに待ち受ける事とは。
自由という言葉の持つ残酷性を書いてみました。
道端のタンポポは、いつも空を見上げながら思っていました。
(入道雲は良いな。あんな空高くを自由に行き来出来て)
有るとき、タンポポは入道雲に尋ねました。
「どうしたら僕もそうやって空を自由に飛ぶ事が出来ますか?」
すると、入道雲は応えました。
「俺もそんなに自由が有るわけじゃないよ。それに君だって種になれば空に飛び立てる筈だよ」
それを聞いたタンポポは、その日以来道を行き交う子供達や走る自転車に踏まれながらも、種になる日を心待ちしました。そして太陽の陽射しをたっぷり浴びて大きく育ち、やがて立派な花を咲かせました。
あと少しで、地面に這いつくばる生活も終わる。その後は自由が待っている。大空へと飛び上がり何処までも飛んで行くんだ。あと一寸の辛抱さ。空から観える下界の景色ってどんな感じなのだろうか?。あの山の向こうも見えるのだろうか?と想像を拡げてウキウキ気分でした。
そしてタンポポは種になり飛び立つ日がやって来ました。少し強い風が大地を吹き抜けた日、その風に乗って種は大空へと舞い上がりました。空から眺める野山は想像以上に壮大で、ずうっと遠くまで緑の大地は続いています。
そして、空の上から見る道を歩く子供達が何と小さいことでしょう。この眺めはなんて素敵なんだろう。ずうっとこのまま風に乗って飛んでいたいと、種の気分は最高です。
更に種は上昇気流に乗って高く高く舞い上がり、入道雲の目の前まで近づけました。入道雲は言いました。
「余り高く上がると危険だよ。気をつけてね。」
しかし気分が良いタンポポは、そんな忠告を聞かず、もっと高く舞い上がりました。目の前の大きな山の遙か高くに舞い上がりました。するとどうでしょう。今まで観たことの無い山の向こう側の景色が見えてきました。
「あれは何?青くて広くてとても綺麗…」
そう思ったのは束の間でした。種はその青い大海原の上に出てしまいました。その先は果てしなく青い海が続いているだけです。
「大変だあ!この先に陸地が無い」
その事に気付いたときはもう遅かったのです。種は自分の思う方向に進む事も、好きな場所に降りる術も持っていませんでした。風のおもむくままにしか飛べないことをすっかり忘れていたのです。
種はそのまま風に乗って遙か海の沖へと運ばれ、その後海の藻屑と消えてしまいました。