7 はじめてのアイテムドロップ
スライムの遺体の傍になにか光が瞬いている。
手を延ばすと、それは形になる。
槍だった。
十字の刃を持つ長槍。
何を隠そうモンスターを倒せたのが初めてのことなので、ドロップアイテムを見たのもコレが初めてだった。
「ヴァンくん、それはキミのものだ」
「いいんですか?」
「うん。それに、止めを刺せたことで、”イブリースの囁き”による【DIQ上昇】の特性が適応されているはずだ。見てみるといい」
俺は協会ブレスレットでステータスを表示すると、装備欄が追加されており、そこに現在手に入れた槍の名があった。
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◎名称
【呪われたイコン・ヴェーダの聖槍=天の楼閣(Lv.99)】
基礎ダメージ値:物理99
装備に必要な力:STR『SSS=5』、INT『SSS=5』
◎発動特性
【炎氷の天魔師】【閃光属性追加】【物理ダメージ上昇】【会心の心得】【STR上昇】【INT上昇】【禍根の怨嗟】【被ダメージ減少】
◎スキル
【壊滅世界】【黄金世界】【不遜世界】【四季世界】
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「まさか……これほどとは」
ドロップした槍の詳細を確認した師匠は唖然として告げる。
「これほど?」
彼はフルフルと首を振って言い落とす。さながら怯えているかのように。
「これは神器だ。いや奇跡と言ってしまってもいい。まさかこんな、究極装備が……しかもたった一度の試行で……?」
究極装備……?
これが?
俺はオールE評価であった為、水準を満たすことが出来ず、装備できるのはおよそ装備とは言い難い日用品ばかりだった。
装備という装備は軒並み”装備不可”であるという境遇であった為、他の冒険者と違い、まともに装備のスペックについて気にしたことがない。
だからこれがいったいどの程度のものなのか、判断が付かなかった。
(でも、師匠がそう言うのなら、本当になかなか良いものなのかもしれない)
「ならこれは是非、師匠に。お世話になっているお礼もかねて」
「なにを言っているんだい? それはキミのものだよ。というか、キミの力によるドロップアイテムを拾う為に、今のスライム討伐を行ったのだから」
LUCの効果で秀でているものの一つ、ドロップアイテム率の上昇と、その質の強化――それを更にアイテムにより補正をかけて、今取得し得るなかで最高のアイテムを俺に与える。
それが今回の特訓の本質であったとのこと。
「それは達成された。たったの一度で。しかも最高という言葉がむしろ無礼にすらなり得る至高の一品だ」
「けれど俺のステータス値ではどのみち装備できませんよ? 自慢じゃないですが俺の装備できるものは道ばたに落ちてる棒とか、家にある鍬とか、包丁とか、それくらいなんですから」
「あははは! それはたしかに、自慢にはならないね」
豪快に笑われた。
しかしすぐにすまないと謝罪を受ける。
「かつての自分もそうだったから、わかるよ。分かりすぎて、懐かしすぎて、それで笑ってしまったんだ。すまない」
まあ、ぜんぜん気にしてないです。
「それでその聖槍についてだけれど、ヴァンくんは問題なくそれを装備できるよ」
んなアホな。
「師匠の言うとおりの代物なら、俺が装備できるはずがないです」
オールEですから。
史上最低レベルの冒険者なんですよ? 俺。
「そうだね、普通ならきっとそうだろう。しかし装備できる。まことに”幸運”なことにね。まったく、末恐ろしいことだよ」
師匠はまたそう言ってワナワナとすると、俺に槍の特性を見るように指示した。
「――あっ」
それで俺は、師匠の言っている意味を悟る。
槍の特性の詳細は以下の通りだ。
【炎氷の天魔師】:攻撃にそれぞれ25%の火炎&氷結属性を追加する。
【閃光属性追加】:攻撃に50%の閃光属性を追加する。
【物理ダメージ上昇】:基礎ダメージ値に50%の物理ダメージを加算する。
【会心の心得】:***のA以上の者にクリティカル発生率を20%上昇、クリティカル時のダメージを30%増幅する効果を与える。
【STR上昇】:STRを50ランク上昇。
【INT上昇】:INTを50ランク上昇。
【禍根の怨嗟】:与ダメージ時、低速・弱体・猛毒を確率で付与する。
【被ダメージ減少】:装備者の被ダメージを30%軽減。
「え、STRとINTを、ご、50ランク上昇……!?」
50も上昇したら、ランクEの俺でもSTRとINTは最高値の”SPランクの4”となる。
SSSは最高ランクであるSPの下なので、槍の装備制限である”SSSランクの5”は余裕でクリアとなる。
てか――
「この特性が付いてるってつまり、誰でも装備できるってことじゃないですか!」
「その通りだね。だからこそ、恐ろしい」
師匠は神妙に続ける。
「この槍は、まるで、最弱のキミが装備できるように帳尻を合わせてドロップしているかのようじゃないか。普通とはまるで逆だ」
「逆?」
「そう。普通なら、こちらがドロップした装備にあわせるものだ」
「ふうん? そうなんですか」
ボンヤリとした反応を返す俺に師匠は苦笑を浮かべた。
「まあ、キミはこれまで装備とは縁遠い生活を送っていたようだし、ピンとこなくても仕方ないね。いずれ分かる日が来るさ」
なんかアホの子みたいな扱いを受けてしまった。いかんな。もっとはやく、たくさん学んでいかなければ。
俺は心を入れ直し、装備の詳細を今一度チェックする。
それでふと気がついた。
「あれ? でもこの装備って呪われてません?」
装備名に”呪われた”という枕詞が付いている。
「ふふふ、良いところに気がついたね」
お気楽に笑う師匠。
「その槍はたしかに呪われている。呪いの装備は、おしなべて性能が良いが、しかし反面、一度装備すると外せなくなるというデメリットがある故に、装備するかどうかは検討に検討を重ねるのが普通だね」
「もう装備しちゃったんですけど」
「ふふふ、安心して良いよヴァンくん」
焦り出す俺に師匠は、例の超絶美少女の笑みとゴリマッチョボイスで微笑んで言った。
「つまりその、呪われし聖なる槍は、名実共にキミだけのものにできたわけだから」
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