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3 世界最強の最弱生物





 しばらく無言で山を登ると、頂上が見えてくる。

 そこからは街を一望することが出来た。街の光が闇夜で息づいている。

 逆に街と反対側には、この国の国壁が高くそびえ立っていた。


「ヴァン・ダイン様、ご報告があります」


 フレイアはやにわに話し出す。


「私が本日協会に申し立てていたマッチング結果棄却の申し立てですが……あれ、取り下げることに致しました」


 まじ?

 やった。

 でも、どうして?


「というのも、協会側がこう言うのです。”マッチングは通達したが最後、やり直すことは絶対にない”と。”もしそれでも破棄したいと言うならば、やむを得ず承認するが、今後一切、私にはマッチングは成されないだろう”――と」


 人外種は冒険者とペアになるのを条件として、豊かな人間の領国壁土内に住まうことを許されている。

 つまり、ペアを持てない人外種は、その住民権すら一生失うことを意味する。


(なるほど……つまり不本意ではあるけど、背に腹はかえられないってわけか)


 彼女には悪いが、俺にとっては朗報極まりない。

 これをチャンスだと考え、精一杯ペアとして認めて貰えるように全力を尽くすだけだ。


「そういうことなら、これからヨロシク。俺、頑張るから」


 手を差し出す。

 彼女もそれをゆっくりと握った。


 ――が、俺はそのタイミングで気がつく。


 彼女がまったく笑っていないことを。


「早まらないで? 私はただ、申し立てを取り下げたと言っただけ。別にアンタと組むだなんて一言も言ってないでしょ?」


 また、いつの間にやら猫かぶりがなくなり、素の彼女に豹変している。


「正面扉がダメなら裏口を叩くわ。私は何が何でもちゃんとした(・・・・・・)ペアをつけてもらう。いい? 協会は”私が意図してペアを破棄するなら”と言ったの。なら、――」


 彼女の顔に影が落ちる。


「――”不本意にもペアを失った”のなら、問題ないんじゃなくって?」


 その唐突さに俺は唖然とする。

 情報を飲み込めない。

 一体彼女はなにを言っている?


「さすがは糞モブ。察しも悪いのね。つまりアンタが(・・・・)消えれば(・・・・)、私はペアを謎の失踪で失った失った可哀想な寡婦として、再マッチングが可能ってことよッ!」


 それが最後だった。


「吹き飛べっ! そして跡形もなく消え去るがいいッ!! 【FIRE(火炎魔法) Class7(レベルセブン)紅蓮炎弾(フレイル・ショット)】!!」


 直後、フレイムは俺の手を握ったまま、その手から巨大な火炎魔法を放った。

 巨大な大砲の如き炎弾は、俺の身体をのみ込む。


「悪く思わないでよね」


 彼女は俺の手をパッと放す。


あたし達の中(上位者仲間)にも、昔アンタみたいなのがいたのよ。無能が。案の定、そいつは、すぐに死んだ。あたしはそんなの、真っ平ゴメンなの」


 俺はそのまま、炎弾と共に虚空へと消し飛ばされた。









「――――っわあ!」


 目を覚ます。

 どういうわけか、まだ生きている。


(でもなぜ? 完全に消し炭にされていたはずなのに――)


 そこで今夜ミネットからもらったばかりの首飾りがボロボロになり崩れ落ちているのを発見した。


「まさか――これが身代わりに?」


 俺の代わりに消し炭になってくれた。


(マジックアイテムだったのか……、これ。しかも致命傷を肩代わりするなんて、かなり高価なものだ)


 ミネットはこれから冒険者になる俺に、肌身離さずこれを持っていろと言っていた。


「……あいつ」


 想いが身に沁みる。


 ありがとな。


 これがなければ、間違いなく俺は死んでいただろう。




「でもどこだ……ここ?」


 辺りを見回すと、ここは明らかにダンジョンの中だ。

 上には天井があり、穴が開いているわけでもない。


 フレイアの魔法で吹き飛ばされて着地した場所にしては不自然である。


「…………ん?」


 しかしよく見ると俺のいる床面には円形のオブジェがあった。


「これは、転送装置……か。しかも行き先がランダムに決定する一方通行」


 ダンジョンには時折、踏むと起動する転送装置がトラップのように配置してある。

 つまり俺は、フレイアの魔法によって壁の外のダンジョン一層に落ち、そこに調度転送装置があり、そのままこの奥まった場所に飛ばされた――ということらしい。


「不運だ……」


 これまで生きてきてあまり発したことのない言葉を思わず呟いてしまうほどの不運。


「とりあえず出口を探そう」


 俺は歩き出す。

 ここはどこのダンジョンの何層あたりなのだろう?


 その疑問はすぐに解消される。


 今いる部屋を出ると、正面の通路の壁に大きく


”天の楼閣 50???層 東A通路H13ブロック”


 と記してあったからだ。

 人語の手書きの文字である。

 つまりかつてここに人がいたことを意味する。


(ていうか――)


 いやまずそんなことより、


「五万!? ここ五万層なのか?」


 深すぎる――! ていうかそんな天文学的な階層数、寡聞にして聞いたことがない。

 ダンジョンは普通、あっても数十層で、まず三桁すらいかない。

 それなのに五万! 万だ! 万でしかもその五倍である!


「帰れねーじゃん! そんなの無理だぞ! 五万とか!」


 冒険者の常識として、ダンジョンに出口は存在しない。

 潜ったら、必ず同じ道を戻ってくる必要があるということだ。


 つまりここから地上に戻ろうとしたら、五万を戻る必要がある。


「いや、でも――てかここに人がいたのか? 五万の階層に? だったら……もしかして他に五万を行き来する転送装置があるのかもしれない」


 つーか絶対そうだ。

 そうじゃないと人間に五万のダンジョン攻略など不可能だ。


(装置を探そう!)


 そう考えて、俺は走り出す。


 そして――すぐにここが、常軌を逸した奥深いダンジョンの層であったことを思い出すことになる。


「な、なんだあれ……!?」


 通路の先――そこに、スライムがいた。

 ただの、青いぷにぷにとしたあのスライムだ。


 地上で見慣れているはずのその地上最弱と呼ばれるモンスター――それが、


(化け物だ……!)


 途方も無い、見るだけで伝わる圧倒的強者の迫力を放ちながら、ピョンピョンと無邪気に跳びはねていた。

 地上のそれとはまるで別の生き物。

 見れば分かる。

 強すぎる。

 俺だけじゃなくて、きっと誰も勝てない。


 ダンジョンは通常、奥に行けば行くほど、そこに住まう敵の強さも比例して強くなっていく。


(五万層――!)


 あの数字が、いよいよ嘘ではないのだと身を以て知る。


 地上では世界最弱種族とされるスライムも、ここでは(五万層)神話級の化け物となるのだ。


(つまり、ますます俺が勝てる敵などいない)


 地上最弱個体の俺が、五万層で生きていけるわけがないのだ。


 絶望する。


 途端に一歩も動けなくなる。


 恐怖だ。

 エンカウント(捕捉されれば)すれば死ぬという恐怖で、身体がこわばっている。


 プヨ? ――


 と、そんな俺をスライムが捕捉した。


(まずい――動け動け、逃げろ――死ぬぞ――!)


 身体が動かない。


――”どうか元気でいろよっヴァンちゃん!”


 最後に見た親友の笑顔を思い出す。


(あいつがせっかく俺を生かしてくれたというのに、こんなところで死んでたまるものか!)


 恐怖を消し飛ばす!

 そして弾かれるようにして駆けだした。


「逃げろ! 逃げろ!」


 追いつかれたら死ぬ。

 全力で駆ける。


 ――が、


 目の前のなにもない空間に円形の次元の切れ目が出現し、スライムがそこから出てきた。


「空間転移!?」


 初めて見たぞ!

 神話級の最上位魔法。といわれている魔法。

 存在するらしいが実際には誰も目にしたことがないものの代名詞。


(まさか実在したとはな――!)


 そしてそれをスライムが使ってくるとはな。


 目と鼻の先に降り立ったスライムは次なる攻撃を放とうとしていた。

 ぶっちゃけ死ぬ。避けられないし堪えられない。


 ――ストン。


 しかしそこで、何かが、背後で着地する音が聞こえた。


(もう一体――!?)


 ここに来てまさかの増援&挟み撃ち。

 俺相手にそんなものは断じて必要ないのだと教えてあげたい。


「なっ――しかもむちゃくちゃ強そうなんだけど!?」


 振り向くと、そこには、いびつな姿をした化け物がいた。

 黒い毛羽だった獣のような右腕に、黄金の鉱石で出来た樹枝のような左腕や、血走った眼をした巨大な牛の頭、魔族のような右足、翼竜のような羽根に、結晶獣のような尾――

 様々なモンスターから一つずつパーツを持ち寄って出来たかのような、バラバラの肢体を持つ人型のモンスター。


 ぷにぷにと可愛らしいスライムとは比べるべくもない、外見からしての圧倒的強者である。

やっぱり本日あと一話更新します。

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