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2 俺のファミリー




「えっ! サラマンダーだったの!? ヴァンちゃんやった! よかったね! やったぁー!」


 成人の儀のあった夜。

 我が家の夕食の席で俺がみんなにマッチング相手のことを報告すると、家族は勿論のこと、特に幼馴染みのミネット・ウォルターズが祝福してくれた。


「サラマンダーだったらスライムどころか大抵のモンスターを倒せちゃうよ!」


 我が身のことのように大喜びするミネット。


 彼女とは近所でも同い年でもないのだが、なぜだか物心ついたときから腐れ縁で、何かにつけてずっと一緒にいた。

 ”いた”と過去形になっているのは、言葉の通りに最近はそうではないから。

 二歳年上の彼女は既にマッチングを済ませ、おまけに優秀なこともあり、今では本格的に冒険者稼業で忙しくしている身なのだ。


 でも、


「ヴァンちゃんとの時間がまったくなくなるのはイヤー」


 とのことで、ちょっとでも時間があるときはこうして我が家の夕食に混ざりにくる。

 それがミネット・ウォルターズという女子だ。


「ヴァンは昔から妙にこういう”引き”だけは強かったのよね。抽選はハズレ引かないし、ジャンケンは負けないし」


 界隈で”セクシーおばさん”と評判のマイマザー、カトリーヌ=アルレーが流し目でそう告げる。

 母の今着ている仕事着のウェイトレスドレスは、デザインがお洒落だし、あと胸元も広く開いているので、酒場にやってくる老若男女――とくにおじさん連中にとても人気がある。

 しかもこの母は、見た目が若いので尚更なのだろう。


「お兄様、良かったですね、おめでとうございます」

「にーちゃんやーるじゃーん! おめ!」


 二人の愛すべき妹と弟からも祝福される。

 妹のアリサは庶民極まれる我が家の娘とは思えぬほどの折目正しく気品ただよう女子で、逆に弟のクレイグは粗野なわんぱくぼうずだ。


「うんうん、私はホントにうれしーよ! じゃあこれは私からのお祝い! 受け取ってよ!」


 ミネットはそう言うと一方的に俺になにかを押しつけてきた。

 それは可愛らしく飾り立てられた細長い木箱で、開くと中には首飾りが入っている。


 繋がれた数多の小粒な鉱石たちの中に、一つだけ大きな宝石が混ざっているその首飾りを、彼女は俺の首につけてみせると、


「うん! 似合う! カッコいーよっ!」


 と満面の笑みを浮かべた。


「いーい? ヴァンちゃん、これからはヴァンちゃんも危険な冒険者稼業を本格的にはじめることになるだろうから、その首飾りを私だと思って、片時も離さないようにするんだよ?」


「まー妬けるわねー。うちの息子のことそんなに想ってくれておばさん嬉しーわあ。そうね、もういっそのこと、ミネットちゃん、このバカ息子も無事マッチングを終えたことだし、ウチにお嫁に来ちゃう? こんな貧乏家庭で嫌かもだけど」


「えー! じゃあー来ます! 私バリバリ稼いでたくさんお金入れますね!」


「まー心強いわーうふふふ」


「お母さん! わ、わわわ私は反対ですっ! そ、そんな、お兄様の意見も聞かずにそんなこと」


「あー、ねーちゃんがジェラってるー! ほんと、ねーちゃんはジョーダンつーじないなー、そんなんだからねーちゃんはいつまで経っても、しょdjふぁklfjdさkl」


「い・ま・な・に・を・言いかけたんですかあー?」


「ねーちゃんこわい。まじジョーダンつーじない」


 キャッキャとみんなが俺のペアを肴に盛り上がっている。

 が、しかし大変恐縮なことに、まだ肝心の部分の報告が済んでいないのだ。


「あ、あのさ、でもさっきの話にはまだ続きがあって、実はそのサラマンダーの子にブチ切れられて、すぐにペア解消の申請をされちゃってるんだ」


「え……」


 一瞬にして静まり返る食卓。


「どゆこと?」


 表情を無にしたミネットが低いトーンで訊ねる。


「いやーだから、差がありすぎたみたいだな。相応しくないって。その、ほら、俺ってオールEでスライムにすらボコられる逸材だから」


 ホントは上記の内容に加え、家柄のことも言及されていた。それについては家族には言えないけど。

「無能でしかもモブ家庭! 存在価値ッ!」

 とサラマンダーのフレイアさんは苦悩を訴え、なぜ俺のような存在価値皆無の奴と、

「サラマンダーの私が組まされなきゃなんないのよッ!? どいつなのこれを決めたコンピューターは! バグってんじゃないの!? どういう経緯ならこうなっちゃうの!? 破棄よ破棄! やり直し! もう一回抽選し直しなさいよ!」

 と大暴れしていた。


「で、協会側はなんて?」


「さあ? まだ何とも。でもまあ、ぶっちゃけ奇跡というか、ほんとバグに等しいマッチング結果だったし、やり直しになるんじゃないのか?」


 沈黙。

 気まずい沈黙が食卓を支配した。


(う……、お、重い空気……)


 す、すまないマイファミリー、そしてフレンド。こんな雰囲気にしてしまって。


「……あの、お兄様。どうか元気を出してください。その方がなんとおっしゃろうとも、私は、お兄様はマッチング相手として最高の殿方だと、そう心から確信しています」


「そりゃねーちゃんにとってはなー、そーだろーよ。むしろいろんな意味でもマッチングしてみsdさfかlfjsだkっ!」


「んんー? い・ろ・ん・な・意・味・って、それなんなんですかああー?? どーゆう意味なのかなあー???? んんー?」


「ねーちゃんこわい。まじディーブイはんたい」


 家族たちはまた、賑やかに食事をはじめる。

 でも、ミネットだけは、それからもほとんど黙りこくったままだった。







 食事が終わると、俺はミネットを家まで送る。

 俺より彼女の方が百倍以上強いので、むしろこの行為は逆効果ですらあるのだが、まあこういうのは気持ちの問題だから。


「安心して、ヴァンちゃん」


 家の前で別れるとき、彼女はこちらを元気づけるような笑みで言う。


「いざとなったら私がヴァンちゃんのマッチング相手になったげる。冒険の相棒に。それでまた一緒に行こうよ。前みたいに一緒の時間が増えるし一石二鳥だっ。それにこう見えて私、そんじょそこらの人外種より強いんだから」


「ばーか。お前はお前で、お前だけのやりたいことがあるだろ? 俺に縛り付けるなんてできないよ。ミネットは親友だからな、お前が俺のことを想ってくれているように、俺もお前のことを想っているわけだから尚更だ」


「ならもう親友やめちゃう」


「え?」


「代わりにキミだけのボディーガードになっちゃう」


「うちにそんなの雇う金はないから即刻契約解除だな」


「がーん!」



 別れ際、背中を向けて歩き出したところで、ずっと見届けてくれていたらしい彼女がなにかを呟いた。


「なら、――――――になってあげてもいいよ?」


 俺は振り返る。


「ん? なんだって?」


「……………。………――ううん、なんでもない。私明日から任務でしばらくここに(この国)いないけど、どうか元気でいろよっヴァンちゃん!」


「まかせとけ。ミネットも任務しっかりな」


「おうよまかせとけっ」


 ミネットの笑顔を見ると、俺はどうしてかいつも前向きになれる。







「こんばんは、ヴァン・ダイン様」


 帰り道、突然暗闇から声をかけられた。

 俺はその主を見て、我が目を疑う。


「……フレイア、さん?」


 それはサラマンダーのフレイアだった。

 闇夜の中で、彼女の燃えるような髪と瞳は、怪しく揺らめいている。


「どうしてここに?」


「あなたに会いたくて。おかしいですか? マッチング相手に会いに来ることがそんなに」


 通常ならおかしくはないが、フレイアはその棄却を求めていたから。


「少しお話ししませんか?」


 彼女は俺の手を取ると、この居住区の端にある小山の方へ引っ張っていく。

本日あと一話更新します。

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