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プロローグ

 初めて投稿します。想像力、文章力、すべてにおいて稚拙ではありますが。向上を目指し努力したいと思います。どうぞ、よろしくお願い致します。

――十二月二十日――




―――必要なのは、金だ。

 そうだな、一週間飯が食える位あればそれでいい。

 一日に三食。いや、それは贅沢か。二食でいいから、空腹を満たす糧がほしい。

 金を稼ぐ手段? そんなものは考えちゃいねー。

 チャンスがあれば何だってやるさ。それが多少危ない事でもな。

 一ヶ月先の事なんて想像もできやしない。だから一週間生きていけるだけの金を求める。いつもそれの繰り返しだ。

 まったく……目の前に横たわるお荷物のせいで、いつもよりは多めに稼がないとな―――




「なぁにシリアスやってんのよ!」

 そんな甲高い声と供に後頭部にスパーンと衝撃が走る。

「っっひぃぃ!!」

 おっと。思わず情けない声がもれちまった。

「何が一週間食えればそれでいいよ! あんたがそんな無計画だから一週間も持たずにお金が無くなるんでしょ!!」

 酷い言われ様だ。心外である。それより俺の心の声が聞こえているのか。さすが大王だ。

「……それに、なに?目の前に横たわるお荷物のせいでって?……まさか、私の事じゃないよね?」

 奴の体が小刻みに震えだしている。このままでは良くない事が起きる。頭じゃなく体がそれを伝える。

 …フッ。動けねぇ。目の前のプレッシャーに、体がブルっちまうなんて。俺も、まだまだヒヨッコだぜ。


 そうしてる間にも、恐怖の大王はジリジリと躙り寄って来る。その手の中にあるのは白木で出来たメイス。その先端は生血を幾重にも塗り重ねたようなドス黒い色に染まっている。

「ちょっと! 聞いてるの? 八雲。これ以上ふざけるなら容赦しないんだからっ!」

 大王はメイスを頭上に大きく振りかぶり、まるで金剛力士吽形像のように、静な怒りに満ちた顔を見せる。

「…………っ」

 目の前の恐怖は大きく息を吸い込むと、その凶暴なメイスを一息に振り下ろした。

 側頭部に鈍い衝撃を受けると、俺の体は、まるでスローモーションの映像でも見ているかのように、空を向いていた。自分が倒れた事に気づく事もなく。

 俺の視界は蛍光灯の人工的な灯りを映し出すと、山椒の香りをどこかに感じながら……瞬いて消えた。





「……や……も…」

 声が聞こえる。

「……やく……や…」

 誰かが俺の体を強く揺さぶる。

「…やくも……八雲。ちょっとやり過ぎちゃったかな。大丈夫?八雲」

 やがて声は鮮明になる。俺はいったい。ここは何処だ?

「ったく。やり過ぎちゃったのは謝るからさ、その記憶喪失キャラやめてくれない?うざいし。それに、ご飯冷めちゃうよ? さっさと食べてよね。片付かないんだからっ」

「……な、なんだと? やり過ぎた? 記憶喪失キャラだぁ? ふざけんじゃねーよ! 記憶がぶっ飛びそうになるくらい人の頭殴っておいてそれだけなのか? 冗談じゃねーぞ。この冷血女!」


 そう、俺の名前は片桐八雲。今年の春、通っていた高校を辞めた。今はアルバイトを転々としている。念願だった実家から遠く離れた高校に受かったのに、クラスの空気や人付き合いに馴染みきれず、結局辞めちまった。おっと、決して虐められてた訳じゃないぜ?


 で、さっきからうるさいのが、実家の親から派遣された尖兵。俺の姉である片桐翠だ。暴力的でさえなければ周りからは美人と評価されているのだが、俺にはさっぱり理解できない。さっきのやり取りの通り、詳細を説明すると、殺されかねないので省略する。


「……とにかく。「すり棒」を、そんなに凶暴に扱える人間を初めて見たよ。いい才能だ。姉さん」

 ぐっと右手の親指を立てて言ってみた。

「あら。ありがとう。ごちゃごちゃ言ってないで、さっさとご飯食べてアルバイトいってきなさい」

 満面の笑みで、例のすり棒を自身の手のひらに打ちつけている我が姉。

「は、はい。すぐに用意します」

 キビキビした動作で着替えを済ませると、味なんてわからない位のスピードで、一気に目の前の料理をかきこんだ。

「ん。八雲が素直になってお姉ちゃん嬉しいよ」

 邪気の無い、真っ直ぐな笑顔で言う姉。

 普段は怖い姉だが、時々見せるこの笑顔は、懐かしい記憶と安心感を与えてくれる。

「ごちそうさま! いってきます!」

 駆け足で玄関に向かうが、玄関のドアノブに手を掛けたところで、ある出来事を思い出した。

 記憶は朧に霞んでいる。不確かな記憶だけど、それは重要な事だったはずだ。

「………」

「………」

 なんというか、これは絶望的だ。もう、死ぬしかないのか。いや、正確には殺されるしか……だ。

 否。まだ可能性はある。俺は、座して死を待つような真似はしない。

 うまく話しを進めれば、或いは。十二月だというのに、頬に冷たい汗がつたう。

 覚悟を決めて、見送る姉に向き直る。

「ん? どうしたの? 早く行かないと遅刻しちゃうよ?」

「……い、いや、……なんというか……」

「ウジウジしないで! はっきり言いなさい。そいうところがあんたの悪いところだって何度言えばわかるの?」

 ここでモタモタしてたら本当に取り返しのつかないことになる。

 はっきり言っちゃっていいのか? もし、言ってしまえば、それはそれで酷い目に遭う気がするのだが。

 明鏡止水。余計な事を考えるな。作戦実行あるのみ。

「エヘヘ、バイトクビになっちゃいました」

 コツっと片手を頭にあてて、お茶目に言ってみたけど逆効果だったらしい。挑発作戦は失敗だ。

「………」

「………」


 ゆらゆらと近づいてくる吽形像。その顔を正視することはできない。自分の呼吸が鼓動が、鼓膜をくすぐるかのように刺激する。もう、「時間がないんだ」姉さん。

 

「ちょっ。ちょっと待って! 聞いてくれ。大事な事なんだ。姉さん。今すぐに、」

 しかし、俺の言葉は不意に遮られた。

 ドアの開く音が辺りの空気を震わせた、次の瞬間。


―――ドアの開く音。再び頭部に受けた衝撃。視界の隅、かすかに映る白いメイス。

白くなり行く世界で微かに聞こえる誰かの叫び声。

ああ、世界はこんなにも残酷だ―――

 皆様のご指摘やご意見をお聞かせ願えれば幸いです。更新時期は仕事の都合上、不定期になりますが、頑張って続けて行きたいと存じます。

 では、これからも、宜しくお願い申し上げます。

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