第99話 捜索開始
「アテネは黄緑色の鱗が特徴で、花の首飾りをしているってウェルディートが言ってたわ」
剣の国に着いた透剣龍リペアと岩龍ログと火龍ラヴァは雪が降る剣の国の街道を歩いていた。
「あぁ……この場所にはいないようだ……」
ログは辺りを見回す、その視界には剣の国に住む様々な人や龍がすれ違う。
特徴的な衣を身につけ棒状の様な物を手に持ちその上に丸く広げた布の様な物を持ち歩き雪を凌いでいる人も入れば何も持たずに白い雪がその身に降りかかろうとも気にしない人や龍もいる。
ログ達も後者である。
「ちょっとあんた達」
「ん? 何だ?」
リペアとログの後ろを行くラヴァが声を掛けられ、その方を振り返ると何やら木造建築の店で物を売っているらしき老婆が声をかける。
「雪傘いかがかね?」
「ゆきがさぁ?」
ラヴァはそれなんだよと思わんばかりの表情で老婆の話に耳を傾ける。老婆は店の前の木の机に並べてあった布を纏った棒を指差して言う。
「これだよ、雪が降って寒いだろう……風邪になる前にとっておいたほうがいいよ」
「……俺は風邪ひいたことねーな」
「ひいたらどうする? 薬よりも安いよこの雪傘は」
「う〜ん、わりぃけど……」
「ラヴァ、先を急ぎましょう……ゆっくりしている時間は無いわ」
立ち止まるラヴァにリペアが気にかけ声をかけて来た。
「あぁ、分かってるよ、じゃ、わりぃ……」
「おや、そこの背負っている少女はどうしたんだい?」
店の老婆はリペアが背負うリィラを見て言った。
「えっ? ちょっと具合悪いのよ」
「そうか、雪が降って寒そうだろう……傘はいかが」
……!そうだわ、私は何をしているのよ……リィラが寒がっているかもしれないじゃない!日聖があるからって安心しきっていたわ……
「……買うわ」
そう言うと、リペアは持っていた銅貨2枚を支払った。
***
「気をつけておいで」
雪傘売りの老婆の言葉を背に再び街を歩いていく。リペアは早速買った雪傘を広げリィラの方へ傾ける。少しリペアの頭は傘が広がる場所からずれた為自身は雪にかかっていたが気にする事もなく先へと進む。
「これで一安心ね……エンジュが剣の国の出身で良かったわ……おかげでここまでこれた……」
「あぁ、先に見つけてるだろうか……」
「だといいけどよ……空みても"風"があがってねぇよな」
風龍ギア、ソヨカ、セレン、エンジュの4人とは分かれて探している……もしどちらかが花斬竜アテネを見つけた時合図を打つように言っている。
しばらく一行は黙ってアテネを探した。
あれから大分時間が過ぎ、気付けば空は暗く辺りは少し人通りが少なくなっていた。
先頭を歩くリペアが振り返り声を掛けた。
「ラヴァ、あそこでリィラを下ろしてくれる?」
「あぁ」
ラヴァは近くの大木の方に背負っていたリィラを腰掛けるようにそっと下ろす。
ログは腕を組んでその様子を見守っている。
「"日聖"」
リペアは白く輝く光の刃を発現させた、その後リィラに白の光粒を注ぐように体に染み込ませた。
「ひとまず、これで大丈夫よ……」
リィラはあれから目を覚ます事なく眠っている状態だったがリペアの竜技日聖の浄化能力によってリィラの身体状態を保持している。その間リィラの身体状態への悪影響を無くす事が出来る。
力を使い過ぎたのかリペアの息が少し荒くなっている。
「リペア? 大丈夫か? 少し休まねぇと」
「そうだ、リペアこれを食べてみるか? 少しは良くなると思うが……」
ログは薬草を取り出し、リペアに差し出す。
「これは?」
「プラスハーティーハーブだ、ソウ君から貰った……効くはずだ」
「ありがとう……分かってはいるけれど、苦いわね……これ……」
リペアは薬草を口に入れると少し苦笑した……
リペアが落ち着いた所でアテネを再び探した。
リィラはログが背負い、雪傘を差している。
ーーリィラ……こんなにも身体は温かいのに目は覚めない……覚悟はしているつもりだったが……やはりあの時俺はリィラを連れて行くべきではなかったのか。
いや後悔するくらいなら……一刻も早く治す術に近づかなければ……
ログは考え込んで俯きぎみだった顔をあげ前を見た。
***
ーーいいですわ、……私の竜技はどんどん成長している……力を着実に得ている。
やはりここはとても良い場所、竜技をもつものが溢れていますわ。
問題は三重の美芸がいつ追い討ちを掛けてくるか……リチェルとダブズの成長も済んだらそろそろ出るように話を持ちかけようかしら
剣の国の路地裏で黒いとんがり帽子を被った竜が屈んでいる。
一握りの青白い火のようなものがその竜の黒い龍鱗が目立つ手の平から燃え上がっていた。その龍の身体を藍色の羽毛のようなものが纏っている。
「……貴様は……何者だ……」
その近くに倒れていた龍が擦り声で話しかける。その龍は全身傷だらけで血を流し倒れていた。
「あなたの竜技は私の竜技の糧になった……安心して安らかに眠りなさい……あなたは私の名前を知るよりも幸せだった過去を思い返した方が断然よろしくてよ……あなたにある残りの生命……大切に使わなくてはもったいないですわ」
***
ログ達は剣の国の裏路地へと足を踏み入れた。
そしてすぐに異変に気付いた。
「おい、まじかよ」
ラヴァはその場所へ駆け寄る。
龍が2体、男が1人倒れていた……そして目線の先に何事も無かったように石畳の一本道の突き当たりの階段をゆっくり歩き登っていく黒い龍が目に写った。
ーーどこかで見た覚えが……
ログはその後ろ姿を見ると同時にその記憶に流れ込んだのは封刃一族との争いだった。
「ねぇ、そこのあなた!」
リペアは呼び止めた。振り向いた龍が階段の上から見下ろした。
「あらあら、なんですの?……へぇ……これは驚きましたわ三重の美芸ではありませんか……これは復讐の機会に恵まれたようですが……どうゆう事?隣に封刃一族もいますけど……」
「何故ここにいる!?」
黒い龍は軽く溜息を着くとログに言った。
「それは、こっちのセリフですわよ……封刃一族と何故一緒なの? 殺しあう仲ですのに」
「……今は敵ではない」
「なんというか……大分時がたったのね……そんな事言わずに仲良くまた奪り合いましょう? ……今私は成長している、私の竜技はどんな竜技よりも昇華していくわ……」
ログは思い出す。封刃主天 魔頂龍グラマリアの事を。