第98話 ハートハーブオペラvs 凍扇竜シャーレアその2
オペラは迫り来る鞭の氷刃の隙間を避ける。
縦横無尽に身体を跳ね、徐々に凍扇竜シャーレアへと接近する。
そしてシャーレアの懐目掛けて蹴りを突き出した。
シャーレアは寸前で氷の"鞭"を破壊し盾を形成しその蹴りを防ぐ。
"心体強化"を施したオペラの蹴りの一撃はその氷をいとも簡単に砕く。
しかしオペラは追撃をせず後ろに後退した。
シャーレアは少し感心した。
「ほう、読んでいたか……妾の氷染化を」
盾を壊した途端、青の紋章が宙に展開され冷気を放っていた。
オペラはその範囲から充分距離を取っていた。
ーーなかなかに厄介だ、この動き……妾の鞭を擦りもしていない……
「えぇ、さっき壊した時もそうだったから……同じような手を使いそうだなって思ったのよ」
「そうか、そうか」
シャーレアはオペラの返事を流すように相槌すると息を吐いた。
空気を凍てつかせ、そこから灰色の雲を生成する。
シャーレアはそれにさらに息を吹きかけると宙に飛ばした。
オペラの頭上に浮かぶ灰色の雲から50cmほどの"つらら"が降り注いだ。
「それなら妾の雨でくつろいでみるのはどうだ?」
「くつろがせる気ないでしょ」
オペラは降り注ぐつららから遠ざかる様に逃げる。
つららは次々と雲から地面へと落ち続けオペラの行動範囲を狭めていくが、オペラは器用に避ける。
そしてオペラは足を蹴り頭上の雲目掛けて後方に宙回転す
る。
オペラは降り注ぐつららの合間をすり抜けるように上昇する。
そして全身に炎を纏いその流れで雲を蹴る。
蹴られた灰色の雲はバフッという音を立てて消えた。
ーー妾のつららが壊されたか
「シャーレア様、ご無事ですか?」
シャーレアが後ろを振り向くと後蜘蛛竜アラクがシャーレアの元へ走ってくる。
「来たか、アラク……気を付けろ、思ったよりも奴は速い」
「お任せを、ただ申し訳ありませんが、奴が炎を使うのならば私の巣牢はすぐに燃え消えてしまいます」
「心配せずともよい、奴が炎を纏った瞬間、妾が氷にする……その瞬間を狙い奴を"遅く"するのだ」
「はっ!」
アラクはオペラの方向へ糸を一直線状に伸ばした。
オペラは炎を纏い迫る糸を物ともせずに燃やす。
シャーレアは再び灰色の雲を生成し"つらら"を降り注がせる。
アラクはオペラに接近しつつ両手で糸を練り数発放つ。
糸はクモの巣状に広がりオペラへと向かって行く。
オペラは先程の流れと同じくつららを生成する雲を消した。
「えっ?」
オペラの着地点に青色の紋章が複数展開されていた。
冷気を放つその範囲からオペラは逃れる術もなく冷気の中へ落ちる。
「氷染化」
「波解派部憤怒よ!情熱よ!我が身体を纏え」
ーー憤怒と情熱の炎なら効かない!
オペラは先程よりも激しく燃え上がる様な炎を身体に纏った。
「ほう、先程よりも火力が上がっているな」
しかし、オペラを纏う炎は氷へと変化していく。
ーー嘘でしょ! 私の最高火力が氷に!?
オペラは氷の中に閉じ込まれる前に"心体強化"を唱える。
「波解派部!"鋼の精神よ我が心にあれ!」
氷が徐々に砕けオペラは次第に身体の自由を取り戻す。
「……!?」
オペラの腕に糸が纏わりついていた。
やけに腕の動きが思い……オペラはそう感じていた。
次の瞬間オペラの眼前にクモの巣状の糸が幾重にも積み重なる様に向かって来た。
「情ね……」
オペラが炎を纏う前に糸はオペラの身体に纏わりついて動きを奪った。
糸の隙間から見える視界の先に氷の弓を構えたシャーレアが狙っていた。
ーー身体が重くて動かない! 炎が出が遅い! なんでよ!この糸のせい? 冗談じゃない!
氷の弓矢は風を切りオペラへの頭部へと一直線に発射されていった。
ーー負ける!
オペラは心の底から絶望した。
「……アラク!」
「シャーレア様、お気をつけて、敵が見当たりません」
「そうか、消えたのか」
ーー奴の竜技には別の力があるのか
「……!?」
その時、地面を引き摺るようにアラクが吹き飛ばされた。
「アラク!」
「私は大丈夫です、シャーレア様」
アラクは糸を近くの屋根に糸を飛ばし壁への激突を防いだ。
ーー姿を消したのか!?
シャーレアは雪が積もる地面に足跡が無いか見渡した、しかしシャーレアに接近する様な足跡は一切無かった。
「どう?臆病で弱気で内気な心を持った私は影が薄くて、まるで"存在感"が無いでしょう?私にとっての絶望は波解派部の力を最大限に発揮する時なの……この声もあなたには届いてないでしょうね」
オペラはシャーレアの背後にいとも簡単に接近すると首に目掛けて蹴りを繰り出す。
痛烈な一撃がシャーレアの首へと届いた。
「何!?」
「あぁ痛い、痛いぞ……気配も全く感じなかった……だがこれでそなたを捉えた」
シャーレアは首へと繰り出したオペラの足を捕まえていた。
ーー今の蹴りで確実に首の骨を折ったはず!
「そなたは場所が悪いのだ……相手ではなく闘う場所がな……妾の竜能、銀氷再生は冷気を再生力に変えている。雪が降るこの場ならなおさらだ……負った傷はすぐに癒える」
「くっ! 離せ!」
「氷染化」
シャーレアは捕まえた足に冷気を放つ。
「あぁ、離してやるとも、そなたを氷にしてからな」
オペラの足が氷になり全身に次々と氷が転移していく様に彫刻が出来上がると、シャーレアは手を離し氷の"手拭い"で手を拭くと溜息を吐いた。
冷たい空気がシャーレアの周りを漂う。