第96話 感創の意思
そして剣の国で一夜が明けた……相変わらず寒い空から雪がちらちらと降っている。
一騒動あった町では人や龍が慌ただしく壊れた家の修理をしていた……
速剣竜オーダはオウナの元へ向かう。収卓竜ダブズが襲い掛かった家の前にいた。
「オウナ、昨夜はすまない……無事でなによりだ」
「オーダ殿……こちらも安心しました」
オウナはオーダに一礼すると家を見た。
「この家の者は……」
「1人でした、衣を織っていた……腕前も良く評判だったと聞いてます」
「そうか……惜しい人を亡くした」
オーダは家の前で目を瞑り手を合わせた。
「オーダ殿、一体何があったのですか?」
気付けば周囲には人だかりが出来ていた……その内の1人の老女が声を掛ける。
「封刃一族に殺された者がいる……」
周囲はその言葉を聞いてどよめきだした……
オーダは言葉を言いかけて飲み込んだ……"拙者が倒すから安心しろ"という言葉を。
だがオーダの気持ちを落としめたのは封刃主天に一度負けている事だった……
花斬竜アテネがいなければあそこで死んでいたという事実がオーダの自信を喪失させる。
ーー言うだけ無駄やもしれぬ……
「……オーダ殿?どうしたのですか?少し顔色が悪いのでは?」
そう言ってオウナはオーダの前に出る……
「皆の者、良く聞いて……封刃一族がまだこの剣の国に残っているのかもしれません、ですが安心して下さい……私達が斬ります、今は安全とは言えませぬが必ずこの国の平穏を取り戻して見せましょう」
オウナが鼓舞した事で不安や恐怖を纏った空気が打ち消されていく。
「おお、そうだ!それでこそ我らが守護神、"風凛華斬"の剣士だぁ!」
「さすが、剣の国の守護神さまだ!」
「おねぇちゃん、龍様ぁ、がんばってぇー!」
「どうか、この国を守って下さいませ……」
次々とオウナと速剣竜オーダに期待や希望の激励の言葉がかけられる。
剣の国の民の希望がオーダの心に光と火を灯す。
ーーそうだ……皆信用しているのだ……風凛華斬に……1度の敗北如きで屈している場合では無かった……
オーダは前に出て剣の国を治める4人の剣士の1人
"風凛華斬"の"華"のオウナと肩を並ばせた。
そして腰に据えている自身の刀を握り天に上げる。
"風凛華斬"の 頭の"風"として。
「拙者達に任せておけ」
「うおぉ!」
オーダの鼓舞に再び民は沸く。
***
一騒動あった町からかなり離れた所で座る2人の竜がいた。
2人は剣の国の"茶屋"でくつろいでいた。
正確に言うとくつろいでいるのは雪の結晶のような衣をまとった全体的に鮮やかな水色の竜であった。
冷気を纏ったような鱗は白とも青とも言える色合いに見える。
「おまちどうさま」
茶屋の女性がお菓子を持ってきたようだ。水色の竜が座る木製のテーブルに皿を置く。
「いやぁ、久しぶりの散歩じゃ……妾剣の国気に入ったかも……雪は降っているし、妾の氷雪城と大差ないくらいだの、そうは思わないか?アラク?」
「そうですね、とても心地よいと思います」
丁寧な口調で声を返した竜はテーブルの椅子に座らず立っている。
全身紫と緑の鱗で覆われており温厚そうな目つきをした漢竜だった。
「あの?そちらさんは座らなくていいんですか?」
茶屋の女性は気になった……椅子に座らず立ったままでいる竜に。
「私の事はどうぞ気になさらずに……シャーレア様のただのお世話がかりですから」
そういうと、竜は女性に微笑み軽く会釈した。
「はぁ……分かりました」
***
「ん!これは美味だな!どうだ!アラクもこの団子とかいうの食べてみぬか?」
「シャーレア様、後ほどで構いませんよ」
凍扇竜シャーレアは串に刺さった団子をアラクに差し出そうとした瞬間店の外から騒がしい音が聞こえた……
「何なのだ……いきなり、やかましい!アラク、妾ちょっと外に行くぞ……」
「分かりました」
2人が外に行くと騒がしいのは店の反対側の街道からだったようだった。
そこでは人や龍が物凄い剣幕で殴りあっていた……
ーー何だ喧嘩か……それにしても大がかりな喧嘩だな……何かおかしい
その中を逃げ惑う1人の少女が転んだ所を大男が殴りかかろうとしていた。
ーーおいおいおい……ちょっとそれは下衆だの
シャーレアは息を吸い込み、吐いた。
一瞬シャーレアの周囲の空気が凍りつく。
そして手に氷の弓を発現させた。
「武冷九」
シャーレアは天に向け氷の矢を放つ。氷の矢は空中で弾け青色の紋章を描き出す。そしてその紋章から無数の霧状の冷気が雨の様に降る。
「氷染化」
冷気は地面に当たって白い煙を立ち込ませ一本道に続く街道を包んだ。
静寂の後シャーレアは転んだ少女の手を掴んだ。
「嬢ちゃん、怪我はないかの?」
「う、うんありがとう」
そう言った少女は目を丸くした。
冷気によって発生した煙が晴れた頃街道に残ったのは
"人型の氷の彫刻"の群れだった。
「心配せずともよい、あやつらは"氷になった"だけだよ……妾が後で元に戻せる……だから今はお逃げ」
「わ、分かった」
少女は逃げていった。
シャーレアは後ろの家で待機していたアラクに声を掛ける。
「さて、アラク……元に戻す前に……何故こうなったのか調べなくてはな」
「シャーレア様、私の"糸"に引っかかった者がいます」
直立不動でいたアラクは自身の指から街道全体に見えない糸を張り巡らせていた。
◇ 後蜘蛛竜アラク
竜技 巣牢
両手から糸を生成し操る能力、強度はかなり高い、触れた者の行動を遅くする事が出来る。
アラクはすぐ後ろの家の屋根を指差す。
「上です、上にいます」
「なるほど高みの見物をしていたわけか……調子に乗りおって」
アラクは糸を屋根に張り巡らせた。
「シャーレア様行かれますか?」
「あぁ、頼むぞ」
アラクはシャーレアの手を取り糸を使い共に屋根の上まで登った。
「さて、そなたなのかな?民を暴れさせたのは」
シャーレアとアラクの眼前にいた女竜はアラクが作った糸で体を縛られていた。
女竜……性別女性の龍
「あんた達ね、この糸邪魔よ!離して!」
竜は全体的に白と黒の鱗で体を覆われていた……鱗の色こそ違うがシャーレアはその見た目と声に見覚えがあった。
「そなた、ラメアか?いや……そんな鱗の色だったかな……」
「桜色じゃないよ!それはラメアでしょ!」
「ん?じゃラメアの知り合いか?」
「そんなもんかな……私の名前はハートハーブ=オペラ」
「ん?それはラメアの竜技のはず」
「波解派部"鋼の精神よ"我が心に在れ。」
オペラがそう唱えた途端体を縛る糸が切れた。
アラクは少し動揺した。
(私の糸がこうもあっさり、切られるとは……)
「何だ、簡単に切れるじゃん……そう私はラメアの竜技だよ……あいつすぐに負けちゃったからね、逃げ出して正解だったわ」
「……で、結局そなたは何者?」
「えっとね、竜技そのものでもあるし、三重の意思だし、意死竜とも言うかなぁ……って同じ様な事言わせないで!」
「ますますわからん」
ここまで読んでいただきありがとうございます。いつも読者がいてくれる事に感謝です。これからも頑張って書きます!




