第95話 三重の美芸 速剣竜オーダ vs 封刃主天 リチェル&ダブズその2
リチェルは速剣竜オーダを睨みつけると言った。
「それに……あんたは勘違いしているわ……指が無ければ私の竜技が発動しないって?……」
斬った筈のリチェルの指が元に戻っていた。
「それ以外でも"出来る"けど?」
ーー私の竜力 枠の目でね
そう言って顔を上げたリチェルの瞳の形が変わっていた。
丸状の瞳では無く……枠取った四角の形に。
「……最初からそれを使わなかったのは何故だ?最初からそれを使えば拙者を簡単に殺せたはずだ」
「あはは!さすがの着眼点ね、"視て"分かれば?その方が撮れ高マックスだよぉ」
ーーふむ、実際はどうなのだろうな……攻撃には使えないのか……それとも再生にしか使えないのか……あえて使わないのか……いや、だとしたら今こうして喋っている間に奴は一瞬で奇襲を仕掛けられたはず……
オーダは足で刀を握り再び攻撃体勢に入る。
「ていうか、右手あるじゃん、わざわざ足で刀握るとか不利じゃん」
「……さて」
オーダはリチェルの皮肉を無視し屋上で雪を一筋にはためかせた。
「わお、やっぱ足速いねぇ、さっきと全く変わらない……でもね」
オーダは足で握った刀でリチェルに攻撃を繰り出す。
「刀振るの遅いんじゃない?」
リチェルはオーダの斬撃を次々に躱していく。そしてオーダの最後の一閃を後ろに引いて避けた後脚を蹴ってその勢いで宙に飛び上がる。
「時立視具」
その間にリチェルは指を構え反撃に出た。
家の家根が次々と斬り撮られ畳が敷かれた家内が露わになっていく。
オーダはリチェルが構える枠の射程範囲外へと走り反撃を掻い潜る。
そしてオーダはリチェルに再び接近し足で握った刀で回し蹴りを繰り出す。
リチェルはそれをバックステップで避け指を構える。
「写像再……」
「え!?」
オーダは回し蹴りを終えると同時に振り返るタイミングで右手に握り持っていた雪をリチェルの顔面目掛けて投げる。
「時立視具」
リチェルは枠の目を使い自身の目を枠にしてその雪を斬り撮り目眩しを回避した。
が次にリチェルが目の当たりにしたのはオーダが繰り出す横一線の斬撃だった。
リチェルは咄嗟に避けようと後ろに退く。
「ぎゃあぁ!」
ーー右目がぁ!あたしの右目が斬られた!早く『写像再生』を……
ーー……!? また指も斬られてる!
慌ててリチェルは左目の枠の目を使い指の再生に取り掛かる。
「写像再生」
「させぬ!」
オーダは右手に刀を持ち替えリチェルの再生を止めに掛かる。
「くっ、時立視具!」
「……!?」
リチェルは左目をオーダに向けた。
オーダは殺気を感じ攻撃を中断しリチェルの視界から避けるように跳びのく。
オーダの脇腹に傷が走り血が滲み出す。どうにか致命傷は避けられたようだ。
ーーぐっ!やはり目でも攻撃が可能……安易には近づけぬ!
だがそれでもオーダはリチェルの再生を阻止するためリチェルへの妨害を続けていく。
対してリチェルは目を使いオーダを回避体勢に追い詰め最接近を警戒していく。
互いに我慢比べだった、どちらも傷を負い油断したものが負ける……
オーダは突如背中から強い衝撃を受ける。
「……!?」
ーー斬り倒した……はず
気付けば自身の腹を黄色い鱗が生えた手が貫いていた。オーダは堪らず痛みにむせ、口から血が流れ出る。
「まじでナイスだよぉ、ダブズ……写像再生が間に合って良かった……」
ーー拙者と闘いながら隙をついて味方の再生を……見事だ……
「ああ、やっと倒せた……お前さんしぶとかったな」
収卓龍ダブズは手を抜いた。腹を貫かれたオーダは力なく仰向けに崩れ落ちた。
「……ハァ……ハァ」
オーダは顔を上げ敵の方向を見た……2人が遠ざかっていく。
「ダブズ……もう逃げようね枠の目を使い過ぎたおかげで私の撮る力が弱まってる、指の再生もすぐには出来ないほどにね」
「わかった、だがもう少し剣の国オイラはいるぞ、オイラの栄養になる竜技持ちが喰い足りねぇからな」
「別にいいと思うよ……追っ手も殺したしグラマリアとレズァードとも合流しなきゃね」
……無念……ここまでか……
オーダは静かに目を閉じた。
***
「……露離鈇!」
突然暖かな感触を体に感じた……だがやはり気のせいだったのか身体は冷たい。
ゆっくり目を開くと雪が積もる家々が目に映った。
「……あんた……大丈夫?」
突然聞いた事の無い声が後ろから声をかけて来た……
「くっ……拙者は……」
オーダは両手を使い立ち上がった……
「……!?左腕が……」
オーダは驚いて思わず自身の左腕を掴む。貫かれた筈の腹も斬られた筈の脇腹も完治していた……声の主を振り返る。
「某は……」
「あたいの名は花斬竜アテネ……あんたが負っていた傷は治したよ……死んで無くて良かったね……何とか間に合った」
その竜は全体的に鮮やかな木緑色の鱗で覆われていた。鷲の様な風貌の顔で尻尾や身体の所々緑黄色の木の葉が体毛の様に纏っている、そして首周りに赤や紫色の薔薇の飾りを掛けている。
「拙者はオーダと申す……アテネ殿……かたじけない」
「おーいアテネー!何かあったのか?」
遠くからアテネを呼ぶ声が聞こえた……オーダはその声に聞き覚えがあった……雪が降る屋根を走って近づいてくる竜がいる水色、藍色、紫色の様々な青調の色の鱗で覆われた漢龍だった。頭からは鬼火の様な蒼い炎が不気味に燃え細い目を覗かせている。
「あ!神速の龍神じゃないか?探したぞ?剣の国に来て見かけなかったから……何だここは?危ないな……床がいくつも抜け落ちてる……予死回避が発動するわけだ……」
「某は確か霊幻の龍神……」
「あぁ、俺の事はアストラルで構わない」
「えっ、三重の美芸なんだ……あたいは癒花の龍神……アテネでいいけど」
「よろしく頼む、アテネ殿」
「そうだった……アテネにはまだ言ってなかったな……」
「封刃主天はいなかったか?」
霊霧竜アストラルは血相を変えた。
「何!? 奴らがいるのか!」
「封刃主天って何の事?封刃一族の事?」
「そうだ、その中でも極めて強い奴らの事だ……パペットとフィアスもそいつらに殺られた」
「まだこの国にいるかもしれぬ、拙者は闘いに敗れ……逃してしまった……不甲斐ない……」
「大丈夫だ……オーダ、恐れる事はない……この国でシャーレアも見かけた……シャーレアにも声を掛けよう!」
ーーシャーレアは確か氷操の龍神だったか?
「分かった……すまぬな……」
「気にしなくていいさ、封刃一族は必ず三重の美芸で滅ぼしてやろう」
「あたいも協力する!剣の国が危ないってなら」
しかし、アテネの脳裏に思いがよぎる……色花の都が危ないのではないかと……




