第94話 三重の美芸 速剣竜オーダvs 封刃主天 リチェル&ダブズ
回雪が舞う和の住宅の屋外で 速剣竜オーダは鋭い眼光で相手を見据え姿勢を低くし腰に下げた刀を左手で掴み今にも振り抜こうとしている。
「おお、それいいね、良い"み映え"だねん」
「リチェル、やめた方がいいぞぉ!オイラはまじで闘うのをオススメしない……」
リチェルの隣にいる腹の膨張が目立つ風貌の黄色い龍、 収卓龍ダブズがその丸顔を萎ませて言った。
「まあ、任せてよあたしの竜技の基本は"撮る"事だよ、それなりに目を鍛えているに決まってんじゃん」
紫色の髪の三つ編みを背中まで伸ばした女性はダブズを見ると軽やかにウィンクした。
ダブズはそのウィンクを見ると心が躍った様に跳ね上がった。
「何かお前さんがそう言うと、変な安心感が湧いて来るなぁ……しょうがねぇ、オイラも闘うかねぇ」
「すぐに気が変わっちゃってぇ、チョロいねダブズ、撮れ高マックスってか?」
「はぁ!?……そんな事より腹減ったよぉオイラは……ここも寒いしよぉ……て来るぞぉ!リチェル!」
2人の前方で鋭い雪の噴水が上がる。
オーダは一瞬で姿を消した。
「真刃!」
「意他」
ダブズは足元の木造りを噛み砕きリチェルの体を覆う程の大きさにくり抜きリチェルの前に壁の様に立てた。
瞬間オーダの刃がその木壁に衝突し火花を立てる。
ーーくっ、防がれたか!あの者から斬らねばダブズはいくらでも蘇る……しかし、ダブズはそれを踏まえて味方を守りながら闘う……ならばダブズを一瞬で斬ってあの者を一瞬で斬るしかない!
「ナイスだよ、ダブズぅ〜」
オーダは上から聞こえる声に顔を上げる。リチェルが両手を構えていた。
親指を垂直に人差し指を水平に立てそれ以外の指は曲げ、四角の枠を作るようにオーダに向けている。
「時立視具」
リチェルがそう言った後パシャッというような音が鳴った。
オーダは瞬間的に足を蹴って、後退する。
ーー何なのだこれは?
オーダの眼前に異様な光景が広がっていた。屋上が繰り抜けられ、四角い木の板が家の中へと落ちていく……
その下では何事かと住人が騒ぎを立て始めた。
ーーどういう竜技かは知らんが1つだけ分かった事がある……あの者は相手に近付かずとも"斬る"ことが出来るという事だ……対して拙者は近付かなければならない……
ーーだが"速ければ問題などない"……拙者の速さが奴の竜技よりも速く動き、速く避け、速く斬る……それが拙者にしか出来ない事……いや
"拙者だけが出来る事だ"
オーダは再び雪の噴水を立て凄まじい速度で相手に詰め寄る。
接近するとダブズが噛み砕いた木の壁を4枚程立てオーダの行手を阻むように盾にする。
「時立視具」
リチェルはその壁から顔と手だけを半分だけだし"例の構え"を始めるとパシャッという音を複数回立てオーダの足場をどんどん遠距離から"斬り撮っていく"
ーー出来るぞ!この程度の"速さ"ならば!
オーダは足場が悪い屋上で敵の攻撃を掻い潜り素早くダブズの懐へと潜り込んだ。
「何!?」
オーダはダブズの目の前に立っていた木の壁を刀の柄で砕く。
それは丁度ダブズの目に飛び散る様に砕かれた為ダブズは目を閉じらずにはいられなかった。
「グハァ!」
オーダはその隙にダブズの背中に1大刀浴びせると同時にリチェルの姿を捉える。
リチェルは丁度オーダへの攻撃を始めようと木壁から身を少し出し指を立て始めていた……
その瞬間リチェルの視界に映ったのは雪が宙に舞い白い煙が渦を巻いている様子である。
そこに刀を携えた青い鱗の龍は居ない……
リチェルが白い雪の渦に気付く前にオーダは木壁に寄り沿うリチェルの場所まで跳び上がり既に接近していた。
オーダは空中で刀を両手に握り天に構える。
「良かった……わたしの背後に来てくれてぇ……」
「……!?」
リチェルはオーダの気配に気づいたのか三つ編みの髪を靡かせ首を少し後ろに曲げしたりな横顔でオーダを見る。
リチェルは"例の構え"を首の後ろに手を回し"既に待ち構えていた"。
パシャッ!
オーダは冷たい風を身体に感じた後サクッという音を聞いた。冷たい雪の感触が身体全体に染み渡る……左の肩がジンジンと熱い。
ーーしまった!左腕が……
「残念だったね……利き腕かな?さっきも左で持ってたよねぇ?」
「くっ……拙者は……」
オーダは失った左腕の痛みに耐えている……近くに刀が左腕と共に落ちている……
「痛いよねぇ、下手に反応して避けるからそうなるんだよ……次は一撃で仕留めるからジッとしててね……」
「と……その前にダブズが死にかけだったわ」
ーーあぁいいわねぇ、その表情とか最っ高!後で"元像"に撮っとこぉっと。
リチェルは痛みに悶え苦しむオーダを背にしダブズの治療を優先的に動く。
「写像再生」
ーーさて……これでダブズはOKね
それにしても寒いなぁ、強い風も吹いてきたし……
「何故拙者への止めを先に刺さなかった?確実に勝ててたぞ」
リチェルが横を見るとオーダが傷を抑えていた。
ーーこいつ!?いつの間にこんな所まで!?腕を斬った後苦しんでいた……闘いどころじゃなかったはず……
「えぇ?何言ってんのかなぁ?あんたの"速さ"なんかとっくに見切ってるよん」
「拙者も見切っている、某の竜技は指が無ければいけないのだろう?……ダブズは治っているのか?」
ーー妙だわ……こいつ自分が追い詰められているのに余裕があるかのように振る舞っている……これじゃまるで。
私の方が追い詰められてるってか!?
リチェルはゾッとしてダブズを見る。
ーー傷が完治していない!?何故!?
確かにわたしは 写像再生を使った。
確かにわたしは 竜技の構えを……
血だ…………
指から血が。
「ギャアアア……何でぇ……いつ斬ったのよぉ!?」
リチェルの両手の親指以外の指が落ちた。リチェルは屋根の上でひざまづいた。
「拙者の利き腕は左だが…… 某は拙者の利き足を捥がなかった」
オーダはその大きく力強い右脚で刀を握り左脚の脚力だけでリチェルがダブズを再生しようとする一瞬を狙い駆け斬った。
「速すぎて"見切れなかった"であろう?良くある事だ……速すぎて斬れるのが遅い事も」
リチェルは顔を上げ憎しみが篭った表情でオーダを見る。
「やってくれるじゃないの! 封刃主天のこのあたしに!」
オーダは涼しい顔で言葉を返す。
「先程は指だったが……次は某の息の根を"必ず斬る"」
「追い詰めた気ですかぁ?動きが見え見えの三重の美芸のくせにねぇ?」
「拙者の動きを全て捉えてから言ったらどうなのだ?」
「うるさいわねぇ!こっからよ!……あたし達 封刃一族が龍を滅する一族ってのを見せてあげるわよ!」




