第92話 神速の龍神 速剣竜オーダ
その日真っ白な雪が降り積もる大きな木が生えた丘の上から剣の国を見下ろす1人の竜がいた。
体全体、青色の鱗で覆われていて和装のような、紅葉ともみじの模様が特徴の衣を身に付けている。
そして腰に下げた一本の刀に手を置き、自身の顎に手を据えて鋭い目つきで事態の異変を察した。
「拙者の勘違いか?妙な気配を感じる……」
その竜の名は 速剣竜オーダ。三重の美芸、神速の龍神。
オーダは足に力を込めると力強く蹴った。真っ白な雪が降る和の景色の中、1人の主が宙を舞う。
オーダの眼下にずらりと並ぶ木造りの家が写った、家の窓際から漏れた提灯の光と夜空に浮かぶ月の光に照らされて周囲は見やすかった。
「きゃあ!だれかぁ!」
む? 叫び声か? もしや……
オーダが視線をそちらに向けると何やら騒がしいのはその家からのようだ……オーダはその家の近くまで着地した。
地面には雪と砂利が半々で積もっている程度だった。オーダはその冷たさを気にせずゆっくりと家に近づく。
オーダは問題の家の戸を開けた。
木が擦れる音が聞こえると同時に提灯が1つその部屋にはあった。
ーーなんだ!?刀から温もりを感じる!この肌寒い中で……そうか、この感覚は確か!
ーー封刃一族ではないか!
家は二階建てのようだった近くに階段がある。
オーダは階段をゆっくり登った。
そしてオーダが二階に到達した頃オーダの腕に生暖かい物が触る。
ーー血?
そしてオーダは目の前に写った光景を目の当たりする。
身体が黄色い鱗で覆われている巨漢な龍がなにやら水々しい音を立てて屈んでいる。
「ん?お前さん誰だぁ? オイラの知り合いかぁ?」
その振り返った顔は丸っぽいが口から生えた牙がギザギザでかなり鋭く尖っていた。その顎まで流れた血が滴り落ちている。
ーー此奴!人を喰っておる!
「拙者は速剣竜オーダだ……」
「ふーんそうなんだぁ、オイラは 収卓龍ダブズだ、なぁ、オーダ? お近づきの印にこれやるよぉ」
ダブズはニヤリと笑い生首を持ち上げオーダに見せた。
「うめぇぞぉ、これはぁ、しかも竜技があんだよぉ、とことん"栄養"にもいいんだ」
オーダは冷やかな目でダブズを見ると言った。
「ダブズと言ったか……拙者は某が嫌いだ……人と竜は支え合って生きている……見ろ、この服を」
そういうとオーダは自身が纏う紅葉ともみじの模様が特徴的な衣の胸ぐらを掴み示すと、言った。
「この服を作ったのは人だ……竜には無い技術を人は持っている……それだけでは無いぞ!某が今やった事はその人の価値を見下しているのだ!"栄養"などと下らん理由で殺すなど、許せぬ!」
「え?知らんのこの旨さ? なんか可愛そう、人生損してるよお前さん」
「何だと?」
ダブズはオーダが燃やした火に油を注いだようだ。
ダブズは生首を床に置くと話した。
「お前さん、好きな食べ物とかあんだろ……オイラはたまたまそれが、人や龍だって事だよ、特に竜技持ちのやつ限定な……オイラは別に悪いとか全然思わないなぁ、だってよぉ」
ダブズは無邪気に笑う。
「喰われる方が悪いって話だからなぁ、喰われたくなきゃ俺を逆に喰えって話だ」
「誰が食せたものか、某のような瓢箪など」
「別にオイラの事デブっていっても構わないがなぁ?」
ダブズは突然手を広げオーダを制した。
オーダは少し戸惑い言葉を返す。
「何だ?命乞いか?悪いが拙者には……」
「勘違いするなよぉ、お前さんはなぁ、竜技使えないだろ? 俺の竜技は匂いで相手が竜技を持っているか分かるんだが、お前は無いな、何も。竜力も竜能も」
「……何故分かった!? それも封刃一族の力なのか?」
「……? オイラが封刃一族ってよく分かったなぁ?」
「あぁ、拙者の感覚で分かったのだ」
「分かってて来たのか、馬鹿だなぁお前さんも……オイラが"封刃主天"ってのも分かってたのかなぁ?」
ーー封刃主天!? 確かウェルディートから聞いた、封刃一族の中でも極めて強く残忍な集団だと……確か源染竜スレイプニルと岩龍ログによって壊滅したと聞いていたが……もしや、2人の竜技が敗れたのか!?……
--いや落ち着くのだ!戦った事が無いからと言って焦るのは拙者の悪い癖だ……肩書きに惑わされるな!ただ拙者の刀を相手に通すのみ。
オーダは無理矢理咳払いすると言った。
「そんな通り名はどうでも良い、大事なのは拙者の刀が某に通るか通らないか、斬れるのか斬れないのか……ただそれだけでよい」
「まさかとは思うけどぉ?お前さん焦ってないかぁ?今、冷や汗掻いたろ?」
な!
オーダの脳天に稲妻が響いた。図星だ。
「どうだろうな?確かめてみるか?」
オーダは平静を装い腰に据えた刀に手を添える。
「意他」
ダブズは口を広げ二階の床を噛み砕いた。そしてその板の瓦礫をオーダへと散り散りに投げつける。
ーー自分の口で厚い床を壊すとは!?かなり鋼鉄に違いない!
オーダは両腕を交差し顔の辺りを覆う。
目に映ったのは穴をあけた場所から下へと降りていくダブズだった。
「待て!」
「いや、逃げるよ、お前さん喰ってもまずいだろうし」
オーダもその穴から下へと追いかける。
ーー背中ががら空きだ。
オーダは刀を抜き居合の構えを空中で取った。ダブズの背中まで手を伸ばせば届くような距離に近づいた。
その時ダブズは急に後ろを振り向きオーダの首を捕まえた。
ーー不覚!
オーダは1階の床に勢いよく叩きつけられた、床の板の破片が空中に漂うのが目に入った。その視線の向こうには両手を合わせた握り拳が今まさに振り下ろされる事だった。
オーダはその刹那、心の中で唱えた。
ーー拙者は今……
一騎打ちを御所望だ。
オーダは仰向けに叩きつけられた姿勢のまま腰に触れた刀をしっかり握った。
ダブズはオーダに鈍痛の一撃を与えた。
「オイラを下手に追っかけるからそうなるんだ」
「某の見ている方向が違うのだが」
ダブズビクッと体を震わせ後ろを振り向いた。
「何でだぁ! 何でお前、オイラの後ろにいる!?」
ダブズは驚愕していた、しっかり倒れるオーダを叩きつけたのを確認した筈だった。しかし、すぐに悟った……
あれは残像だったのだと。
オーダは腰を下げ再び居合の構えを取る。その青い龍の眼光から確実に斬らんとする意思が感じられた。
「真刃」
青い線が鋭い風と共にものすごい速さでダブズの横を通り過ぎていった。
「は、速い! オイラよりも遥かにぃ!」
ダブズは斬られた、腹と心臓を。
「ふむ、どうやら拙者の刀は2撃中2撃も通ったようだな……良しとする」
「何だよぉ!お前さんはぁ!何で竜技も竜力も竜能も無いやつがぁ!」
「……足の速さは生まれつきだ、そして剣は人に教えてもらったのだ……お前が喰らっている人からな……拙者は竜技が使えずとも刃技がある……だから拙者は人を守る! もちろん龍もだ、封刃一族の様な下賤な輩からな」




