第91話 識竜の導き
曇り空が覆う森の中 識竜ウェルディートと火龍ラヴァは対峙する。
「この間 私は"銃の帝国"に行ってきたの、それでスレイプニルが死んでいるのを確認した」
緊迫した空気が漂う。
「でも、私が聞きたいのは何故スレイプニルが死んだのかではない」
「なに!?」
どういうことだ! こいつ! 仲間を殺されて復讐に来たんじゃないのか?
「スレイプニルは私同様 封刃一族を滅ぼそうとしていた……だけど彼は竜技によって封刃一族を自分の駒にした……正直いって私はそのやり方は危ないと思っていた……だって彼が死んでしまえば竜技の能力は解除される、それはつまり今まで倒したはずの敵がまた現れると言う事」
「……封刃一族っていうのは本当に竜を滅ぼす竜なのか?」
「……いいえ、全ての竜がそうとは限らないと私は考えている……警戒は解いてもらっていい、私は闘いにきたのではない、行動に来たの、何故なら私は"考動"の龍神だから」
ウェルディートはそういうと片手で白い書物を自分の胸にあて軽くお辞儀をした。
「……お前何言ってんだ?」
ラヴァの顰めっ面が自然に湧き上がった。
ウェルディートは顔をあげた。
「私が思う考動とは自分の頭にある知識だけに捉われず、相手の考動を見る、知る、思う事……」
「……まじで、何だよ、それ」
ラヴァは少し頭に血が登った。
「……あら、ごめんなさい、本題からそれたわ……私が聞きたい事はラメアとパイソンとスレイプニルの竜技が無くなっていた事について……あなた何か知らない?」
ラメアの竜技が無い……セレンとリペアから話は確かに聞いた。ラメアの体から突如として別の龍が現れ逃げやがったていうのをよ……パイソンは俺とログ達で倒したはずだ、その後は何も無かった。
スレイプニルはロビンとジュアって奴が能力を奪ったから無くなったんじゃねぇのか……
「……てめぇはそれを聞いてどうする、なんか怪しいぜ」
「なんだか知ってそうね?」
「……あぁ、ほんの少しだけどな」
「じゃあ教えてもらおうかしら」
「ラヴァ!」
誰かに呼ばれラヴァが後ろを振り返ると、リィラを背負った白い龍リペアとその隣りを岩龍ログが向かってくる。
「ウェルディート!? 何故君が?」
ウェルディートは驚いて声を掛ける岩龍ログの方を見て微笑んだ。
「お久しぶり、ログ、おや?あなたは?」
ウェルディートはリペアに声を掛ける。
「私はリペア……透剣龍よ……笑うなんて随分余裕があるのね?三重の美芸は封刃一族と争っているというのに……」
「えぇ、私が何故1人で敵地に踏み込んでいるのか教えましょうか?私は知ってるの、この状況で闘いが起ころうとその"闘い方"と"勝ち方"を……因みに今から"豪雨"が降る」
ウェルディートがそう言った直後空から雨が激しく降り落ちた。そしてゴロッと雷鳴が鳴り響き、多数の木が生える森の中をあっという間にずぶ濡れにしていく。
「このように私は今天気を"知った"」
「それが、あなたの竜技というの……」
「……やっぱし闘うしかねぇか」
ラヴァは時炎怒を発現させようとした。
……時炎怒が出ねぇ!
「あなたの時炎怒は水や雨の中では発現する事が出来ないんじゃないかしら?」
そんな訳あるか、水の中でも出した事もあるし、水じゃ消えねぇはずだ!
「てめぇ、何かしやがったな!?」
「正解……でなければ私は完全に敗北するから……私の竜力情報阻害を使わせて貰った」
ラヴァは気付いた、いつの間にか自身の手の付け根に濡れた紙の様な物が纏わりついている事を……その紙は雨に濡れながらも破れたり地面に落ちなかった。その紙を見たラヴァの頭の中に文字が浮かび上がった様に表示された。
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時炎怒は燃えない、水が滴る中では
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……これか!この腕に纏わりついている紙のせいか!
ラヴァは急いで剥がそうとするが触ろうとしてもその紙を触る事が出来なかった……
「ラヴァ、落ち着くんだ……今闘っても勝てない!」
ログが止める様にラヴァに言う。
「何言ってんだよ! ログ!力を合わせればこいつに勝てるはずだぜ」
リペアとログにも紙が纏わりついていた。
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透明な刃は現れない、日聖は浄化をしない、水が滴る中では
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砕練刀は音を消さない、衝撃を発さない、忘岩は生成出来ない、水が滴る中では
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とそれぞれの頭に浮かび上がった。
「……すまない、俺もリペアも奴の竜力を受けているんだ……生身でしか闘えない……竜技が封じられている」
「何!?」
「そうなのよ、さっきから私達まったく竜技が出せない!」
(それに教えてないはずの私の竜技も知られているというのが恐ろしい)
ウェルディートはいつの間にか自身の前に広げていた白い書物を閉じた。
「てめぇ!」
「ラヴァ!待て!」
ログはラヴァを呼び止めるがラヴァはウェルディートに向かっていった。
ウェルディートは向かってくる相手を見据え溜息をついた。ラヴァはウェルディートに接近し握り拳を構え怒涛の打撃を繰り出した。
「無駄よ」
「あなたの」
「それも」
「これも」
「どれも」
「全部……全部」
「何もかも」
「"すでに既知"」
ウェルディートはラヴァの殴打による攻撃を全て避けたあと閉じた白い書物でラヴァの肩を叩いた。
「ぐぅ!」
凄まじい電撃がラヴァの肩に走った、ラヴァはその痛みに意識が朦朧とした。
……1発も当たらねぇ!俺の攻撃する場所を全て知ってんのか……
ラヴァは立ち上がろうとしたが力が入らなかった……
「ウェルディート、やめろ! それ以上手をだすな!」
ログが止めに入った。そう言われたリペアは掲げた手にもつ白い書物を下げ、ラヴァから離れた。
「こちらこそ、手荒な事をしてしまって申し訳ないわ……でも、教えてもらいたい事を聞いてからよ……その前に……リペアだったかしら?背負ってる少女は病気なの?」
「リィラはあなたの仲間のラメアにやられて目を覚まさないのよ!」
「……?ラメアは死んだはずだけど?建物の瓦礫に埋もれて」
***
それからログとリペアはウェルディートに"銃の帝国"であった出来事を話した。
「成る程……分かったわ、けれどリペア……あなたの日聖の浄化能力でも治せないの?」
「えぇ、"龍治院"にもいったけれどそこでも治らなかった……」
ウェルディートは少し間を置いて言った。
「もしかしたら、彼女なら治せるかもしれないわ」
「えっ?」
「"三重の美芸" 花斬竜アテネ、彼女の竜技はあらゆるものを"治す"竜技 阿葉露離鈇を持つ者」
「そんなものがいたのか?」
「ログ、あなたが抜けてから入ってきたものだから知らなくて当然だわ」
「じゃあね、私はこれで、アテネはつい最近 剣の国に行ったみたいよそこに行けば会えるはず」
「頼めば直してもらえるの?敵なのに……」
「さぁ?その辺はアテネに聞いてみたら?」
そう言うとウェルディートは離れていった。
***
「大丈夫?ラヴァ?」
リペアはラヴァに声を掛ける。
「……あぁ……悪りぃ」
ログはラヴァに肩を貸した。嵐山寺へと戻る。
「ごめんね、リィラ……寺に帰ったらちゃんと濡れた体をふくからね」
ラヴァは何かを思いつめた後言った。
「……リペア、俺は剣の国にいくぜ」
「もちろん、私もそうするわ」
愛する私の娘の為、どんなことがあろうとも治して見せる。
「リペア、ラヴァ、俺も行く……リィラの為に」
その日火龍、透剣龍、岩龍は誓った。
必ずリィラを目覚めさせる為。剣の国へと向かう事を。




