第90話 あれから
銃の帝国から脱出して2週間経った頃……
涼しい空気が漂う昼の森の中天気は曇り空。
そこにあるのは嵐山寺。木造で作られた茶色の寺の周囲は木々で囲まれている。
辺りの床は肌色や茶色の落ち葉等で埋まっており木々は枯れかかっているものがほとんどだった。
その寺のなかの一室を全身赤い鱗を纏った獅子の様な風貌の龍が戸を開ける。
「リィラ……」
気を落とした様な声を掛けたのは火龍ラヴァ、少女リィラとは幼い頃からの付き合いである。ラヴァの視線の先には布団で寝ているリィラがいた。
「俺はどうしたらいい? どうしたら起きるんだ……なぁ?」
ラヴァはゆっくりとリィラの前に屈み込む。そしてその手でリィラ目に掛かっている髪の毛をどかした。
「リィラ……ほら、息を吸うんだ……"時炎怒"」
ラヴァは炎の刃を発現させる。以前ラヴァは炎の刃から発せられる"見えない煙"を吸い込む事で敵から受けた竜技による能力を打ち消していた。
ゆっくりとリィラの鼻に炎の刃を近づけた。薄暗い一室はラヴァの竜技によってほのかに明るくなった。
「……えっと、ラヴァ? 何してるの?」
ん……誰だ?……あぁ……
ラヴァに声をかけたのは黄緑色の髪の毛の少女ソヨカだった。
「よぉ、ソヨカ……これか?見えない煙を吸わせてんだよ、そしたらラメアにやられた竜技を打ち消せると思ってよ」
「それ、リィラの髪、燃えない?」
「いや、燃えねぇ、俺の時炎怒は熱くないからな」
「へぇ」
そう言うとソヨカは近づいてラヴァが発している炎の刃を触った。
「……本当だ……熱くない……温かい」
「だろ?」
「……」
「……ラヴァはラメアを追いかけるの?」
しばらくの沈黙のあとソヨカが口を開いた。
「あぁ……他に治る方法がねぇならそうする」
「そう……ところで私も時炎怒の煙を吸っていい?私も奪われた、感情を……」
「なっ! まじか!? あぁ!全然構わねぇよ」
ラヴァはそのソヨカに煙を吸わせた。
「どうだ? 治ったか?」
ラヴァは食い入るように聞く。
「疲れた」
「ん? つ、疲れた?」
ラヴァはソヨカの反応に困惑していた……疲れたと言いながら喜んでいる様子だったからだ。
***
森の中の外でソヨカとギアとラヴァが話をしていた。
「ラヴァ、お主はよくやってくれた!感謝するぞ!わしは今とても嬉しくてたまらん!」
満面の笑顔の風龍ギアがラヴァの背中を手の平で叩いた。
「あ、あぁ……」
ラヴァの時炎怒でソヨカの奪われた感情を取り戻す事が出来た。
「ラヴァのお陰で私は感情を取り戻せた……本当にありがとう!」
ソヨカはラヴァにお礼を言う。
「あぁ、治せて良かった……」
しかし、ラヴァは不安が増すばかりだった。
(ソヨカのは治せたのに、リィラは治せねぇ……何でだ……何でだよ!)
ラヴァがそう思った時、突如、時炎怒が発現した、そして激しく燃え上がった。
「熱っ!」
突然の出来事に驚いたラヴァは急いで発現を止める。
「ラヴァ? お主……今のは?」
ギアとソヨカは少し驚いた。
「いや、何でもねぇよ、……すまねぇけどちょっと1人にしてくれ」
「……分かった、じゃがラヴァ、何かあったらわしらにすぐ言うじゃよ」
「もちろん……私でもいい」
ソヨカとギアはラヴァの事を心配していたが、そっとする事にした。
「あぁ、ありがとな……」
ラヴァは別れ、森の奥へと歩く。
***
ラヴァは少し離れた所にある森の中にある木の上で座っていた。近くに川が流れている。
「俺は……俺じゃ、リィラを治す事が出来ないのか……」
ラヴァは時炎怒を手に発現させた。今度は先程の様に突然燃え上がることは無くなった。
セレンにもやってもらった……ソウにも見てもらったが……2人でも治せなかったみたいだ……ラメアの能力を一体どうすれば……
「初めまして」
ラヴァは突然後ろから呼びかけられた、そこにいたのは白い鱗で覆われた女龍だった。落ち着いた雰囲気を感じさせる黄色い目……そして白鳥の様な風貌をしていて頭から首にかけてしなやかな白い頭髪が伸びている龍だ。
手に白い書物の様なものを抱えている。
「私は、識竜ウェルディート。"三重の美芸"よ……あなたの竜技は時炎怒ね? 丁度良かった……聞きたい事があるの」
ラヴァはすぐに警戒した。
……まじか! 何でこんな所に三重の美芸がいるんだよ!




