第86話 三重の美芸 vs源染竜 スレイプニル その2
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《スレイプニル、あなたの竜技は特別よ》
……そうだ、余の竜技は特別だ……この世に余以外新たなる竜を創れる竜等存在しない。
余の竜技、竜染化は世界の宝だ!余の誇りだ!
余は……ここで死ぬべきじゃない!斬られたからどうだというのだ!余はまだ闘える!余は竜を創り続ける使命があるのだ!余の竜染化に適応する者がまだこの世にはいる。
余は余の傀儡を増やす、増やす、増やす、増やさなくてはならないのだ!余が死ねば今までの苦労が水の泡になる、村という村をあれほど余の竜染化で余の味方にしてきたというのに……こんな場所で負ける訳にはいかないのだ!
だが、駄目なのか!余はもう立ち上がれない……青い竜に斬り倒されてもう、力が抜けていくようだ……
「……仕方、あるまい……これはやりたくなかった」
「おい!エンジュ! 奴が動いたぞ!」
バロウがエンジュに焦った様子で声をかける。
「何!?」
エンジュは油断していた、五分程相手が動かなかったので勝ったと確信していた。
「竜染化」
スレイプニルは弱々しく手を広げそこから深緑色の煙を放出し自身の体をその煙で包みこんだ。
竜染化は物を無心竜に変える事が出来ると言っていた、人や竜に使うと新たな竜へと変身させる竜技だと、ウラノスが言っていた……
今目の前にいるこいつは……一体何になろうとしているんだ!?
私は……いや……考えていても仕方がない。
エンジュは水の刃を構え警戒していた。
「余は後ろにいるのだが?」
「……!?」
スレスレだった、エンジュは首元に殺気を感じた、すぐに左に反らした、鋭利な物が掠めていった。エンジュは清練構えたまま180度回転し敵への距離を取りつつ後方に退避しようとした。
だが敵はそれに反応した、素早く横に一閃された清練の下を潜り抜けて黒い左手の先の鋭く尖った爪を突き出す。
「がはっ!」
「残念だったな、余は生まれ変わったのだ、余は余の竜染化で余を新たなるスレイプニルへと生まれ変わらせた!」
爪はエンジュの腹に深く突き刺さった、直ぐにスレイプニルは刺さった爪を引き出し、後方に跳躍する。
「ぐぅぅっ!」
「当然余が負っていた傷なども無かった事になるのだ」
エンジュは致命傷にたまらずうつ伏せに倒れ込む……血の池が円周状に広がっていく。
は……早い、見切れ無かった……私が甘かった……
斬り倒した時、油断しなければこんな事にはならなかった……
「このやろう!」
バロウがスレイプニルに向かっていた。スレイプニルはバロウの大振りな攻撃を余裕の身のこなしで避けていく。
エンジュは右手に握る清練を何とか自分の口元に近づけて鋭利な牙で一生懸命弾いた。
絶対………絶対………私が……私が倒す!セレンを……いや……仲間を守る為に!
「バロォォウ!奴を! こっちに近づけろ!私が……私が必ず斬る!」
「ちっ、あいつ、簡単に言いやがる」
バロウは必死だった、正直スレイプニルに押され気味だった。もう体のあちこちをスレイプニルの爪が浅く切り刻んでいた。
「だが!のったぞ!エンジュ!任せろ!お前の場所までこいつを連れて来るぞぉ!」
「余と闘っている最中に喋ってる暇があるとはさすがだな」
スレイプニルはやはりバロウを押していた。バロウは炎に渦巻く紅鉄の円筒でスレイプニルの爪による猛攻を防ぐので精一杯だったが、無理やり紅鉄の放射部分をスレイプニルに向ける。
もちろんその隙をスレイプニルは流さずバロウの心臓に爪を貫いた。
「ガハッ!」
バロウの口から大量の血が吐き出された……
「そなたはもうこの世に終わりを告げるべきだ」
バロウはスレイプニルの腕を捕まえる。
「何!?」
「お前……もだ!」
「爆図火」
バロウは至近距離でスレイプニルの顔に火の玉を撃ち込んだ、しかしスレイプニルは瞬間的に顔を後ろに下げ交わした。
「ふん、遅いな、至近距離だろうが余は全盛期の肉体へと生まれ変わった竜なのだ……」
「お前……は……知らないだろう……なフラゴルトライ……アングルは」
「曲がるん……だぞ」
爆弾はスレイプニルの背後で弧を描き戻ってくる、そして今度はスレイプニルの腹部当たりを右も左同時に爆発を与えた。
「おのれ!」
スレイプニルは吹き飛ぶ、丁度滝の音を超えた荒波が世界を包むような音を発している無限大に鋭利な水の刃を口に加えて待ち構えているエンジュの元へと。
「待って……いたぞ……滅流刀……」
スレイプニルは着地点はその刀身に確実に当たる位置だった。
物凄い水爆音が響くと同時に一室は水しぶきが沸いて出たかのように場を隠すほどだった。




