第75話 三重の美芸 vs応射竜パイソン その2
不定期投稿ですがよろしくお願いします。
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「ログ!? あなた1人でこれを?」
ここは平原だった……ログは封刃一族との激しい争いを繰り広げていた。
当たりは記憶を奪われて意識を失った龍や人が倒れている……
「……!!」
ログは声を掛けてきた竜に襲いかかる。
「ログ、どうしたの!?」
ログの様子がおかしかった……理性が無く、凶暴な唸り声をあげ暴れ回っていた。
頭の眉間の間から生える鱗はいつもは水平のような整った鱗の列だったが少し厚みのある肌色の棘の様に研ぎ澄まされて生えている。
そして強靭な岩の刃を振りまわしていた。
「理知」
攻撃された竜がその手に発現させたのは白い書物。捲られるページは全て白紙。
しかし、確かにこの竜はそれを見ながら敵の攻撃を受けている。
書物と岩の刃がぶつかり合う。
書物は岩の刃による斬撃をその刃の根元部分で受けていた。
「……!?」
視線が交じり合う。動悸が激しいログはさらに、激しく唸り後ろに後退した後。再び攻撃を仕掛けようと襲いかかる。
竜に対して脇腹横一閃に向けられた攻撃は再び岩の刃の根元部分を書物で受け止められて、ログは体勢を崩された。
体勢を崩した所を竜は片足を起点に、弧を描くに前方回転する。そしてその勢いを利用して閉じた白い書物の側面ででログの首に重撃を加える。
「グるぅぅ!」
鈍い音がなった……そして、白紙のページが広がり空に舞う。
草の上に倒れる肌色の岩龍の上に白紙のページが落ちる。
*
*
*
うぅ……ここは……
頰にくすぐったい感触を受け目を開けた。しばらくするとぼんやりとした視界がハッキリし、まず草が目に移った……視線を右往左往すると見知った竜が見当たる……
「……ウェルディートか?」
……まさか? 俺は……彼女を巻き込んでしまったのか……
「すまない……怪我はないか?」
「ふふ……ちょっと危なかったかも……でも大丈夫」
これが 三重の美芸 考動の龍神 識竜ウェルディートとの最初の関わり合いだった。
2人は離れた人気の無い森の中腰を下ろしていた。
「ねぇログ……」
「……何だ?」
「あなたって……竜技の力の制御が上手くいってないの?」
「いや……あれは真化竜技だ。」
「俺の竜技は……」
「"知ってる"……砕練刀でしょ?……音を消したり、衝撃を発したり、記憶を消すことだって可能、岩の刃の根元部分は衝撃、音消し、記憶消去の効果が発動しないようになってる、そしてあなたの竜力は忘岩という岩の弓のようね? 竜能に関してはあるかもしれないけどあなた自身どんな能力なのか分かっていない……今まで使った事もないみたいね……使ってたら覚えてるはずだしね……」
「……何でそれを?」
ウェルディートは手に白い書物を発現させる。
「私の竜技は"分析"に長けているの」
「そうか……それで俺の竜技を……」
「えぇ、そして私も竜技の扱いに困っていたの……」
「それは……どんな……」
「私の竜技、理知はあらゆる物を知ることが出来る……だけどね……今はこの力から溢れ出るような沢山の情報量をほんの少ししか制御出来ていない………」
「……そうだったのか、ウェルディートにもそんな事が……」
「ねっ? 笑えるでしょ? 情報を取り入れる力を持つ者が、自分の頭に情報を上手く取り入れられてないって事なの。」
「そんな事は無いと思うが……ウェルディートは俺より使いこなしているじゃないか……俺は真化竜技を使った後……記憶が飛ぶんだ……その後戦場は荒れ、いつの間にか俺は相手の記憶を奪っているんだ……周りを見ればすぐわかる……上手く制御できずに我を忘れて暴れ狂っていた事が……」
「そう……私も時々あるの……」
「時々?」
「時々なんだけどね、私が竜技を発動し始めてしばらく時間が経った時、私はいきなり周りにあるあらゆる物を"分析"しちゃってて……途中で気づいてハッとなって解除していることがあって……別に私その時、調べ物をしようと思ってもいなかったのにね……」
「……それは……"竜技"が暴走しているということなのか?」
「さぁ、答え合わせは出来ないけれど……竜技に意思があるように感じて……時々怖くなるのよ……」
「それは、三重の意思と何か関係が?……」
三重の意思……それは三重の美芸となった者が背負う使命のような物だ。
声が聞こえる訳ではない、何かの伝承で伝えられた物でもない。しかし三重の美芸となった物には突然使命が脳裏に浮かぶのだ。
我々は三重の美芸。
世界の竜を滅ぼす封刃の意思を持つ、封刃一族を討たねばならない。
三日月の遺構を制圧せよ。
と。
「封刃一族が敵なのは分かったんだけどね、実際に奴らは他の罪の無い竜を殺している……ただ三日月の遺構に感しては一切の手がかりもない、人なのか龍なのか敵なのか一切不明。……だけど私はこの使命を鵜呑みにはしない……真の敵を決めるのは私だから。……お互いに頑張りましょう。あなたの真化竜技上手く扱えるといいわね……」
「あぁ、ありがとうウェルディート……俺もそう思う……俺は鍛錬を続ける。」
2人はお互いに分かれた。
☆☆★
「くっ!…… うぅ!……」
「ハァ!……しぶといな……あんた……」
銃の帝国の拠点の一室で、応射竜パイソンと岩龍ログの闘いは激しい攻防を極めていた。
「もう……これで……終いだ……悪波出過」
パイソンはファーストウェポン六模流場の能力の内の1つの透き通る弾丸を撃つ。
……許してくれ……リィラ、他のみんな。
頼む! ここには来ないでくれ……
……我を忘れてでも俺が……奴を……
ーーーーーーーー倒す!
「時 園 土 憶 岩」
岩龍ログは冷静さを失い、代わりに破壊の衝動が込み上げた。
ログが立つ周囲の地面がひび割れ空気は揺れ、ログの身体を纏う鱗はひび割れた後剥げ落ち代わりに新しく更なる強固さを思わせるごつごつな岩の様な鱗が身体から生える。
体つきも普段より大分筋力を増したようになり、亀の様な顎をした龍の頭の目と目の間の頭の方に綺麗にならんで生えていた水平の鱗は刺々しさを増した。
そして、岩龍の荒々しい咆哮が一室を轟かせる。
パイソンは目を見開かせ驚く。
「それが……お前の……真化竜技か!」
なら……この俺だって!銃躙の力を解放してやるさ!
いきなり感じたのは硬い感触だった。
「……なに!?」
パイソンの心臓を岩の刃が貫いていた。血がドクドクと流れ落ちる。
ログは遠くにいる、いつの間にかパイソンの周りには刃状に尖った岩がいくつも浮かんでおりその内の1つが飛んできたのだろう。
早……ぇぇよ、まじ……かよ
ここまでか、たったの一瞬……遅れたから……俺は……切り札を出す前に
「くそが……」
銀色の竜は倒れる。六模流場が手から離れ。カランッと乾いた音を立て跳ね転がる。
パイソンの胸の方へと。




