第53話 三重の美芸 霊霧竜への反始
不定期投稿ですがよろしくお願いします。
「リィラ、ラヴァ!忘岩の矢に触れるんだ!恐怖を出来る限り忘れさせる!」
ログは岩の矢をリィラとラヴァの方向に撃つ。
「ありがとな、ログ!」
「分かったわ!ログ!」
リィラとラヴァは矢に触れた。
「恐ろしい、何という荒技だ、そうやってわたしの過燃群照楽を解除するとは...いや...操憶の龍神だからこそ為せる技なのか....」
ログの宣言通り、リィラとラヴァから恐怖を忘れさせた。
が、しかし。
...震えが止まらない、何故!気のせいよね?
腰が...上がらないんだけど! 気のせいよね!?
「くそっ!立てねぇ! 何でだ!」
ラヴァは倒れる姿勢から一行に立ち直す事が出来なかった。
ログはストーラルに弓を構えるが引けないままだ。
「ダメなのか..."記憶を消す"だけでは...」
「恐れていたが、どうやらどうにもならないようだ、恐怖を忘れたところで、"吸い込んでしまった"という結果は変わらない...息を吐いても治せぬ呪いの煙だからか...つまり攻撃は出来ないという事...さてログ...また能力を使わせてもらうよ今度は確実に、全員の記憶を消し去る。」
「保留魂素機流」
ストーラルは青白く光る魂の形に変わりログの忘岩に取り憑いていく。
「やめろ! 離れろ!」
...だめだ!恐怖のせいか、抵抗が出来ない!
忘岩は1人でに動き、リィラを狙う。
「忘岩古付」
ストーラルは透明状に透き通る紫色の岩の矢をリィラに放った。
リィラの肩に矢が刺さる。ログとの一件とは違う、直撃だった。
リィラは攻撃を受け気を失った。
「リィラぁぁぁ!」
...やめろ!俺の目の前で記憶を奪うな!
...もう...やめろ!何で俺は....俺の力は記憶を奪う事しか出来ないんだ...
ログは手を伸ばすが、足は動かず恐怖で身動きが取れない。目と鼻の先にいる記憶を失った落ち葉に崩れ落ちるリィラを見つめる事しか出来なかった。
リィラ...
「ストーラル、もうやめてくれ....これ以上は 」
「ぐぁ!」
ストーラルは時炎怒を握りしめ必死に抵抗しているラヴァの足に矢を当てた。
...嘘だ...こんなあっさり....
「ここまでなのか...」
ログが最後に見たのは空だった...夕焼けだった...静かだった...誰にも気にも止められなさそうな、ひっそりとした森の中。
ログ自身も矢を受けゆっくり倒れる。
瞬間的に記憶がエレベーターを降りるように、昔の事から消えていく。
走馬灯の様な記憶が流れている。
今まで戦ってきた封刃一族の者たち。
自分の竜技を修行で高める日々。
三重の美芸の面々。
それから1人単独に旅立つ自分。後に森にて自身の記憶を封印する自分。
洞窟で灰色の龍に追われる自分。そして、気を失っていたた自分を助ける、茶髪に赤毛の混ざった優しい少女。
それから、朱色の龍から命からがら逃げ。
龍治院にて元気を取り戻し。色んな龍と人と出会った。
そして、再び記憶を取り戻そうと1人旅を引き止め付いてきてくれた、少女リィラ。ラヴァもその後付いて来てくれた。
そして流れる記憶はそこまでだった....
暗い、暗い闇の様な底だった。
「ログ、あなたは命の恩人よ!」
何処からか聞いた様な声が断片的に聞こえる。
「忘れるわけないじゃない、助け合った仲じゃない!」
「これは、ありがとう、これからもよろしくって言う握手でいいんだよね」
...そうだ...この声は
俺は絶対忘れない...と誓ったはずだ
そうだ...君は確か...
ああ、思い出せない...優しい子だった、思いやりのあふれる子だった
「...君の事は絶対に忘れない」
誰をだ?
「君の事は絶対に忘れない」
だから誰だ!
そして、鈴の音が鳴り響いた。
この音は!?...そうだ!この音に俺は助けられた!
あの子は....
「............リィ....ラ.......!?」
...そうだ!!俺は!
「リィラ!俺は絶対に君の事は忘れない!なにがあろうとな、たとえ、記憶を奪われても!俺は!何が何でも何度でも思い出す!」
目の前の視界が開いた。
目の前に驚きの表情を見せる龍がいる。
「何!?忘岩から弾き出されただと!?ログ、何故お前は立ち上がれるんだ!?恐怖を吸いこんだはずだ!」
決意を新たにしたログは立派な岩の刃を構える。これまでよりも更に強硬な見た目になって...それは伝承に伝わる剣の様な聖なる形を見せている。
「砕練刀!」
「何故か、教えよう!霊幻の龍神よ!俺は"操憶の龍神だからだ!俺は自分の記憶を上書きした!恐怖を乗り越える精神力を身につけさせた!」
「リィラとラヴァの記憶は返してもらう!お前が操る忘岩は、この俺が壊す!」
「恐ろしい、やはり"操憶の龍神の記憶は消せないのか...」
待って欲しい、リィラ、ラヴァ、君達の記憶は俺が取り戻す。全く問題ないからな。




