第100話 vs封刃主天 魔頂龍グラマリア
不定期投稿ですが……よろしくお願いします
岩龍ログは知らなかった。以前 魔頂龍グラマリアと闘った時、勝負は呆気なかった。
というのもログが先手を取っていたからである、忘岩によってグラマリアの記憶を奪い闘う意思すらも損失させた。
しかし今となっては記憶を取り戻したグラマリアは忘岩に対し厳重な警戒を置いている、記憶を奪われていた事に自覚があるためである。
絶対に岩龍の攻撃には当たってはいけない、グラマリアの脳に明確な前提が置かれると黒い龍は腕を地と水平になるまでゆっくりと上げた。
「魔軸」
落ち着いた声色で発するとグラマリアの手から一瞬蒼色の炎の木漏れ火が出たように見えた後横長に伸びてその形状を変え少し細めの茶色の筒状の杖へと形を整える。
「すまない、リペア、ラヴァ、俺は奴と闘った事があるが……どんな手を使うか分からない……」
「問題ねぇ、俺達なら勝てる!」
「分かったわ、ログ、リィラは私が守る……少しここから離れさせないと危険だわ」
「ああ、頼む」
リペアはログからリィラを受け渡して貰うとラヴァとログに背を向ける。
「必ず後から来るわ……」
「あぁリペアも気を付けろよ!」
ラヴァの視線を受け止めたリペアは頷き走った。
「行くぜ! ログ!」
「あぁ!」
岩龍と火龍はそれぞれ得意の竜技を発動させる。
「時炎怒!」 「砕練刀!」
グラマリアは頭に被っていたとんがり帽子を掛け直すと階段の上からゆっくりと降りてくる。そしてラヴァとログの燃え上がる刃と岩の刃を興味深げに見ていた。
ーー中々いいですわね、時炎怒の使い手がまだいたのですね……それと砕練刀ですって?あの時とは違うものを……これはまた未知数で厄介なことですわ……
ーーだけれど、私の成長の糧には充分以上ですわ!
「ところで、そこに倒れてる龍と人間の事何ですけれども……」
「あぁ? 何だよ?」
「私がやった事ですの」
「だと思ったぜ! 許せねぇ!」
ラヴァは憤慨する、少し唸った後口から火花を散らした。
「グラマリア、やはり君は危険だ……忘れてもらう!」
ログは砕練刀を力強く握ると足に力を入れて走り出した。
「危険なのは貴方達のことですわ……」
その時ラヴァとログの周りを爆発が途端に襲いかかる。
「くっ! ログ! 大丈夫か!」
「あぁ……」
ラヴァは少し咳き込むと周囲の状況を確認する。
ーー嘘だろ……今爆発したのは……
その時ラヴァは気付いた先程倒れていたはずの龍や人が居なくなっていた事に気付く。
「てめぇ、やりやがったな!」
「あら、危険だったけど大丈夫だったようね」
グラマリアが使用したのは魔軸によって一定時間触れたものを爆発物に変える竜技触空。
ラヴァは元々爆発が効かない体質だったのとログはグラマリアの元へ走り込んだのが幸いして致命傷は免れた。
「せっかく、時間を掛けて仕掛けたものですのに……」
「何でだ! 何でてめぇはこんなことを!」
「あれらは私の竜技の糧になったのよ……竜技が無いならそれで終わり、可愛そうだから私の竜技にしてあげたのですわ……それに貴方だって封刃一族だからこの気持ち分からないかしら?」
「……!」
ラヴァは絶句した。そして静かなる怒りが火龍の心を燃え上がらせた。
「もういいぜ……」
ラヴァは瞬時にグラマリアに間合いを詰め炎の刃を垂直に振り下ろす。
グラマリアは杖を横にして透明な空気の膜を宙に発現させた。
「場利亜」
空気の膜と炎の刃が衝突し青白い火花が散る。
ガラスが割れる様な音が響いた後グラマリアが貼った空気の膜が消滅した。
「少し空と遊んでなさい」
グラマリアは杖を後ろ手に構えてそのまま右斜め上に振り払う。
「浮一致」
妖しげな紫のもやを纏った不意打ちを受けたラヴァは勢いよく空へと吹き飛ばされた。
「なっ!?」
「ラヴァ!」
ログの視界からラヴァの姿が夕闇へと消えた。ログは突然の事に立ち止まり、グラマリアへの接近を止める。そして砕練刀を解除し岩の弓を生成した。
「忘岩!」
ログは弓を引き絞り放った。岩の矢がグラマリアの頭部目掛けて発射される。
「来ましたわね、お得意の」
グラマリアは杖を振るい空に弧を描いた、すると青色の魔法陣が浮かび上がる。
「支者」
ログが放った弓は魔法陣から突如現れたそれに止められた。
それは全身が柔らかい綿の様な龍だった。目は完全に閉じていて生きていない人形のような人型の龍。
その龍の身体に岩の矢がめり込む様にまるで体の一部となるかのように吸い込まれた。
「さぁ、行きなさい 吸収龍パペット」
グラマリアの指示によってパペットは動き始める。
ーーん、何だ? 俺はどこかで見た事があるような気がする……気のせいだろうか?
一瞬ログの思考に既視感がよぎったが相手の凶暴な攻撃によってすぐさま中断される。
「くっ!」
パペットはその柔らかい見た目とは裏腹に威力の高い拳で殴りかかった、避けたログの地面を抉る。
ログは左右壁に囲まれた一本道へと飛び避け地面を引き摺り膝を突き体勢を立て直す。
すかさずパペットがログへドシドシと地面を鳴らし近づくと殴打を1発1発重めに打ってくる。
ログは砕練刀で無音の衝撃を飛ばし相手の攻撃を受けているが、パペットは怯む事なく攻撃を続ける。
ーーおかしい、さっきから全く衝撃が効いていない、竜技のせいか?
次第にログは息を切らした、パペットの休む事なく続く殴打の雨を受け続け体勢は悪化していた……
「……!?」
ついにログの砕練刀が弾き飛ばされた。
そして重厚な音が響き渡る。
間一髪だった……とっさに下へと避けたログの頭上を凶悪な柔らかい拳が壁にめり込んでいる。
「砕練刀」
ログは地面へと衝撃を発生させそれを利用しパペットから遠ざかった。
パペットの背中を叩く妖しげな紫のもや。
「浮一致」
ログのとった距離は容易く詰められた。グラマリアはパペットを竜技によって勢いよくログ目掛けて飛ばした。
まずい!とログが思った時にはすでにパペットの柔らかい拳がログの腹へと直撃し数メートル先の壁まで叩きつけた。
地面に倒れるログへとパペットを後ろに従えたグラマリアはゆっくりと歩みよっていく。
「さぁて、あの時の復讐キッチリつけさせてもらいますわ? その前にあなたの竜技を私の糧にしなくてはね」
ログは倒れ身動きが取れなかった、砕練刀の自傷と浮一致によって勢いを強化されたパペットによる強烈な一撃が痛恨だった……ログは立ち上がろうと必死に手足を動かすが虚しくも積もった雪を掻くだけだった。
ーー忘れるな……やる事があるだろう……俺にはまだ……助けたい子がいる……俺の恩人……リィラの目を覚まさせないといけない、他にもまだ……ある!
「時 園 土 憶 岩」
ログは我を忘れる事で痛みを克服し立ち上がった。
「ガァァァァァ!」
突然吠えたログに異変を察知したグラマリアは驚き目を丸くした。
「何ですの?それ……本気ってこと?」
しかしその後グラマリアはその表情を一変して笑みを見せる。
「いいですわ、私はまだ不完全だけれど……使いましょう!死んでしまっては意味がないですものね」
そういうとグラマリア自身が発現した杖を三等分に折ると地面に突き立てる。
「三 者 利」
何も起こった様には見えなかった、ただ3本の折れた棒がグラマリアの足元に突き立っているだけの光景。
だが、グラマリアは言った。
「成功ですわ」