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プロローグ

「知らない天井だ」


 生涯に一度は言ってみたいランキング上位常連のセリフを吐きだす。本当に知らない場所だ、どこだここ。天井も床も一面真っ白な部屋の中で俺は目を覚ました。


「自分の部屋でも病院とかでもないよな」


 そう独りごちながら辺りを見渡すが、壁すらも見当たらない不思議な空間だ。


「なんのドッキリだよ。こんなとこに一般人連れてきたところで……」


 俺、味岡 良太は普通の男子高校生だ。日本人の両親の元に生まれて黒髪黒目、顔もまぁ普通だ。イケメンでもなければ、二目と見れぬようなものでもない。これといった特技もなく部活も帰宅部、勉強も平均点前後。そんな人間をこんな所に拉致する理由なんて思いつかないぞ。まさかの人身売買とかか?


「おっはようございまーす!」

「!?」


 ビックリした! 誰もいなかったはずの背後から突然声をかけられる。慌てて振り返ると、赤髪の少年が立っていた。古代ローマ人なんかが着けてそうな布(トーガだったか?)を身にまとっていて、何故か派手なハート型のサングラスをかけている。パーティグッズとして売ってそうなチャチな感じがやけに腹立たしい。


「どうも、神tuberの僕ちゃんです!」


 謎の少年がいきなり切り出してきた。


「……え? 神tuber? え?」

「Y○utuber知らない? あれの神様版だよ」

「はぁ。……あなた神様なんですか?」

「そうだよ。頭が高すぎるぞーパンピー」

「言葉のチョイスに神様らしさが欠片もない」


 思わぬ指摘にちょっとショックを受けたのか、少年は苦々しい顔を浮かべた。沈んでいたのも束の間、自称神様は営業スマイルを浮かべ、どこかしらに向かって喋り始めた。


「さっ! というわけでね! 今回はこちら行きましょう、ドドン! 死者に加護を与えて異世界送って見た!」

「ちょ、ちょっと待って。展開速すぎて追いつけてない」

「えー? 視聴者さん飽きちゃうから早く進行したいんだけど」


 自称神様が唇を尖らせてぶーたれる。でもそれどころじゃない。死者に加護を与える? 死者って、誰だ? 俺か? 俺意識あるよ?


「俺、死んだの?」

「そこから覚えてないの? うん、君は間違いなく死んだよ。遺体あるけど見る?」


 そう言って少年は何もない空間に手をかけて、窓を開けるかのように横にスライドさせた。そこには見覚えのある家が写っている。紛れもなく我が家だ。視点は家の中へと入っていき、布団の上に”俺”が横たわっているのが目に映る。顔は土気色をしていて、その傍で両親が泣いているのが見えた。


「これは……」

「うん。あれが君。味岡 良太の元の体。今は末期の水を取っているところかな」


 何もないところに遠隔地の映像を写しだすような不思議能力に加え、両親たちの悲壮な顔。ドッキリや仕込みではないと確信できた。両親のあれが演技だったら俺は人間不信になるし、アカデミー賞間違いなしだろう。


「というわけで、理解してもらえた?」

「実感はないけど、俺は死んだみたいだってのは分かった。あと、あんたが神様ってのも、信じざるを得ないな」

「そこから疑ってたの? やだねー最近の子は。神を疑うなんて罰当たりな」


 この神様、すごいんだろうけど発言がやけに軽いんだよなぁ。折角会えた神様が威厳の欠片も感じられない姿にやや落胆しつつ、気になっていた疑問をぶつける。


「ところで、全然覚えてないんだけど、俺って何で死んだの?」

「バナナの皮で足滑らせて後頭部ぶつけて」

「ベタすぎるだろ!」

「最近の子にしてはコテコテな死に方するなーってちょっと感心しちゃった。久々に見たから今期のハプニング大賞に応募していい?」

「放送事故になるわ!」


 あまりもの自分の死亡理由に愕然とする。そういえば、確かにボーっとしながら歩いてたような気はするけど、それで死ぬとは……友人たちに死因がバレていないことを祈るしかない。


「さて、大した理由も見せ場もなく、間抜けな死に様を晒してしまったわけだけど」

「やかましいわ!」

「君は最高にラッキーだ! こうして神様から加護をもらえることになったわけだし!」


 確かにそうだ。俺はそれなりにオタク趣味であり、異世界転生して俺TUEEEEE!する小説なんかも良く読んでいた。今のこの展開はまさにそんなテンプレ展開まんまである。これには期待せざるを得ない。


「これから異世界に飛ばされるんでしょ?」

「そうだね! 一応事前にリサーチして、君の好きそうないわゆる剣と魔法のファンタジーっぽい世界をチョイスしてあるよ。あぁ、僕ちゃんってなんて気が利く優しい神様なんだ」

「あーはいはい、神様ヤサシイデス」

「気持ちがちっとも伝わってこないね。最近の子は神様を前にしても全然怯まないから参っちゃうよなぁ」

「ところで加護って何をくれるの?」

「よくぞ聞いた! 君が異世界に行ってチート無双ハーレムできるかどうかはこれ次第! 加護選択ダーツ!」

「これまたベタな……」


 何か布を取り払うような所作をすると、何もない空間からダーツボードが現れた。放射線状に区切られた各マスには、色々な単語が書かれている。


「ダーツが刺さったところに書かれている加護をプレゼントするよ。チャンスは一回きりだから頑張って面白いのを選ぼうね!」


 なるほど。ルールは分かった。分かったけど肝心の加護の内容が……幸運(当社比)はまだしも、フローラルな香りとか静電気耐性、とか微妙なものが多すぎる。何より中央にあるのは”たわし”である。


「たわしって。神様、俗世にまみれすぎじゃない?」

「ちなみにたわしは過去三人くらい当選したよ」

「驚愕の事実すぎる! たわし片手に異世界に放り出されるの?」

「いや、たわしに変身する能力とたわしへの異常な執着心を身につけるよ」

「そこだけ斜め上だな! ベタベタで行けよ!」


 絶対にたわしだけは避ける! 唸れ! 俺の集中力!

 俺がダーツを受け取るとダーツボードが回転を始める。こんなとこまで再現するのか……覚悟を決めてダーツを投げつける。狙い通り、中央からは外れてたわし以外に当たったようだ。


「えーと、なになに。味覚操作、の加護をプレゼントします。おめでとう!」

「たわしじゃなくてほっとしたけど、もらったものも全然イメージわかねぇ」


 味覚操作、ねぇ? 神様はめでたそうに拍手をしているが、あれは何が当たってもやっているやつだろう。この加護がアタリかどうか、それが問題だ。


「とりあえず加護のプレゼントはこれにて確定!張り切って異世界へいってらっしゃーい」


 唐突に天井から現れたロープを神様は引っ張った。その瞬間、足元に真っ黒い穴が開き、俺は先の見えない穴の中へと悲鳴を上げながら落下していくのであった。

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