ちゅちゅちゅ
ずんどこずんどこ。
どこからか太鼓の音が聞こえてくるようだ。あ、決して聞こえてくる訳ではないけれど。そんな雰囲気だったのだ。ア太郎はくねくね、ぎゃあぎゃあと。トカゲ男はばたばた、ぎゃはぎゃはと。
ア太郎の目は虚ろで、左目はお空を、右目はくるくると。
トカゲ男は手足を不器用に振って、尻尾もぶんぶん、ばんばんと振るって地面を叩く。
「ア、ア、ア」
突如ア太郎の踊りは止まり、震えだす。自分の名前を胃の奥から押される様にして呟く。同時にトカゲ男も、「オ、オ、オ」とそれを楽しそうに見つめて首を動かす。
きゅっぽおん。と瓶の蓋が取れる様な音がした。
「やった、やった!」
トカゲ男は新たに出現したそれを祝う。
ア太郎の無くなったはずの右腕から大きなキノコが生えていた。それは先ほどア太郎が食べたキノコに似ている。というより、大きいだけだ。
「うっほおおおお! たべものたべもの!」
トカゲ男は飛び上がり、肩から落ちる上着も気にしない。ア太郎は衰弱したように木にドッと背中を預けて座り込む。
「うんうんうん、よくできまちゅたねー。はいはい、ばいばい、さいばいばい」
何度も相槌を打ち、ア太郎の右手もといキノコを手に取る。そうして、右手に持っていた鉈を思いっきり振りかぶり茶色いキノコの傘をダンッと叩き切った。
「う、だああ、あああああああ!」
「う? だああああ~、あ~、ぎぎぎ、ぎゃはぎゃは!」
ア太郎はキノコの茎の断面を抑えて血尿泥溜まりに頭からばしゃりと落ちた。
「しゃくしゃくしゃくしゃく」
トカゲ男はア太郎は洋ナシとばかりに後ろを向いてキノコをむしゃむしゃしゃくしゃく食べ始めた。
「……! うっはああああああああ! うまあああああああああい」
うまうま、彼は涙を流しながら食べていく。しょっぱさはいい塩梅。
ア太郎もひっぐひっぐ、と涙を流す。
「な、こんな、ひどひことお」
ア太郎は必死になって残った痛みを噛みしめながらトカゲ男のはだけた背中に訴える。
「ん? ああ、おまあかあ、うるふぁいお!」
トカゲ男は尻尾でア太郎の顔面を叩きつけた。どっぶっしゃ。地に舞い戻るア太郎の頭。
「な、な、な、なあんでえ、こ、こ、こ、こんなあ、ひ、ひ、ひどいことお……ぎゃはぎゃはぎゃは」
トカゲ男はテラテラした顔面を悲壮に歪ませてア太郎を真似て笑う。流れるア太郎の涙。ごっくんとトカゲ男。とがった爪で歯を掃除。狂う様子はない。
きょろきょろしてア太郎に。
「お、うんうんうん。ごっちになったあ。おなかいっぱあいだあ」
トカゲ男はしゃがみ、ぱちり、とア太郎に手を合わせる。そして、
「ごっちんこ!」
そのままトカゲ男はア太郎の頭に頭突きした。
ア太郎の意識は飛びながら。ア太郎の目ん玉は半分液体に浸かりながらも見ていた。ア太郎のぼわぼわする耳は聞いていた。
「オケトにならなきゃあ、また食べさせてくれよお。ギャハはこの辺にいる」
ギャハは立ち上がり、ア太郎に声を掛け、ぺたりぺたりと去って行った。
原人チュートリアルイベントの終わりの様だ。ア太郎の物語始まり始まり。もっとも、コンテニューはア太郎次第だが。
りあーる