オ〇ニーはどちらで
THE適当
ぺちゃりぺちゃり。
“彼”は歩いていた。普段から付いているチン〇コを意識している様だった。服を着ていないだけで、そこまで気になるものなのか。幸か不幸か、寒そうにしていないから、気候は過ごしやすいのだろう。
「えーと、こういうのって神隠しとか、異世界転移ってことだよな」
おお、どうやらあまり動揺はしていない様だし、多分合っている。関心する。そうは思った矢先、普通という反応はどういったものなのか、と疑問に思う。だが大抵は同じく状況把握をするのだろう。とりわけ彼が特別な行動をしている訳ではないか、と思い直した。
「大抵はさ、おじいちゃんか、巨乳美人のおバカ女神が登場して、チート貰うのにな」まあ、ハード系だといきなり最果てのヤバいとこからスタートか、そんな事をぶつぶつと呟くのであった。
何を言っているのか、すべては分からないけれど、彼の知識からはこの状況は困った事になっているのは分かった。もしこれが映画やアニメなら、さっさと服を着てほしいものだ。しかし、深夜のスーパーもなければ、町や村なんてありそうにない。加えて彼の貧相なチン〇コなんて拝もうとする人影すらないのだが。そんな事を思っていたら、彼は木に登り始めた。ああ、そうそう、石鹸は持ってなかった。カミソリは地面に置いてた。
「都会出身だから木になんて登ったことないけど、意外と何とかなるな」
ケツの穴丸見えで上る姿は野生の猿の真似でも始めたと思った。そんな私の思いとはうらはらに、彼の目的が達成されたのだろう。彼はオワタ、と呟き、彼の眼前には異世界が見えていたようだ。
紫の空は、薄紫の雲が漂っており、時折緑色の閃光がきらめく。雲の中を泳ぐように雷が走り、地平まで紫と緑が広がっていた。あまりに遠いからか、近いからか、切り立った山々が他を威嚇するようにそびえたち、深い森は延々と続いていた。
「これは救出イベ発現しないな……。さよなら俺TUEEルート。こんにちはハードサバイバル原人ルート……」
ああ、可哀そうに、なんて思わない。彼はきっとそれに見合うだけの事をしてこちらに落ちてしまったのだと勝手に思うのだ。因果応報。それは異世界でも通じると思うのだ。だが、これから起きる事は少し、可哀そうかもしれない。だって、因果応報なんて言葉は関係なく、理不尽に振るわれるモノはあるのだから。
彼は問題なく木から降りると、ようやく舐める様な視線に気づいた。
「げべら、げべら」
のしりのしり、と歩きずらそうに彼の前にソレは現れた。狼の様に見える。大きな汚らしい人間の鼻が頭である。その鼻孔にはそれぞれから細かいのこぎり状の歯が見える。鼻毛だろうか。もしそうなのであれば、この魔界の空気に漂うばい菌はずいぶん強敵なのだろう。目はなく、前足はカエルの様である。ああ、先述した狼と言う発言は体は、と言い換えるべきだ。
「……! キモい」
私も同意だ。
「そ、そこはゴブリンかスライムっしょ……」
悠長なものである。ああ、もう気づかれてしまった。彼は踵を返して走り出す。
「げべ? げべべ! げら!」
ん、餌? と言わんばかりにその狼の様な、いいやゲベラで。少し可愛い反応をしたゲベラはバタバタと足を動かして大きな鼻、もとい頭を左右に揺り動かしながらスンスンして追いかける。
「ひ、ひ、ひ」
彼も随分と変な走り方をしている。緊張からか、もう妖怪の様に走っていた。ああ、もともと三本足か、と冗談を言っている暇はない。
ああ、迫り来るゲベラ。逃げるフル〇ン。木々は後ろへ飛んでいく。滑稽に見えるのは私が第三者目線で見ているからだろうか。気づけばゲバラはもう真後ろ。
ざざぁあ。
彼はタイミングよく横に飛んだ。ドタバタとゲバラはまっすぐ進む。何に満足したのか、気づいていないのか、そのまままっすぐ。関心した、ただのフル〇ンではなかったか。
けれど、爪が甘かった。
「はぁっ、はぁっ、やばかったっ、原人でもいいから誰かたすけ、て?」
両腕で顔を覆うつもりだったのだろう。目の前には左腕しかない。右腕の半ばからぴょろりと飛び出た血管。びゅっびゅっと忙しなく鼓動とともに溢れる液体。無くなったその先。
「ああ、あああああああ!」
彼のお望みか、とりあえずイベント発生である。