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暗いとこ

ア太郎



 ア太郎は沈んでいた。血尿泥溜まりに頭を埋めて。けれど、違う。彼は思考の海に沈んでいた。無くなって、キノコになったはずの右腕は元に戻っていた。

 それは眠っていると言ってもいいし、意識が飛んだその先にいると言ってもいい。一言で言うと生死の迷いか。


 私がここを見れている。と言うより、ここしか見れていないと言う事は、ある種の発見であったと同時に、焦ってしまう。それすなわち、ア太郎の死が訪れる瞬間を記す事が出来ないと言う事になる。いや、それならそれで良いのかもしれないが。ア太郎は宙に浮いている様にぽわぽわとした暗闇に漂っていた。包まれる様に。


 彼はぼうっとした目をして流れに身を任せる様に深い黒に近づいていく。もう怖いゲバラや、トカゲ男はいない。羊水に包まれる安心感を彼は貪っている。生まれたと言うのに。

彼はそれでいいのだろうか。それならそれでいい。どうせ彼は英雄にはなれないだろう。チン〇コ丸出しで、逃げ回る姿は実に無様であった。起点を効かせたものの、再び災に見舞われる。彼は罰か何かを受けているのだろうか。……この話はやめよう。


 黒に近づいていく。それはア太郎の身体を覆い始める。覆われた先から見えなくなる。その先に行けば彼は帰って来れないだろう。そうしたら、私はまた次に賭けるだけ。私にとってア太郎はその程度の存在だ。


 ア太郎の虚ろな目に弱い光が見えた。黒に覆われた右腕に目をやった。ハッと気づいた様に左手でその黒を振り払う。それでも黒がア太郎を求める様にしがみつく。

「やめろ、やめろ」

 ア太郎は必死になってもがく。地がないから踏ん張れない。踏ん張れなければ力が出ない。地に生きるものの性である。


「ああ、ああ!」

 ばたばたと踊る様にもがくア太郎。少しは踊りが様になっている。しかし、笑う様に黒はア太郎を見えなくしていく。


 最後。ア太郎の顔を覆い、黒で埋まる間際、涙が零れる。

「し、死に、たく――」


 その時のア太郎の目は、私を見ている様に思えた。



 ……気のせいだろう。ゲームオーバーだ。


ああ、この感覚。二回目か。じわりじわりと私の視界が狭まっていく。恐怖は感じない。次の回への準備はいらない。すでに私は、……いや記すのはいけない。なんにせよ。焦る事はない。ただ、次はもっとかっこいい対象者を――。






「っ、はっはっ」





 ……、……コンテニュー。


ア太郎の冒険が、始まる?

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