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東の帝国①

南の異民族との戦、と呼んでもいいのか疑問が浮かぶほど圧倒的な戦闘を終え、ランドの魔法師団とイーサ率いる騎士団は王都グリュエルへと帰還していた。


そして軍の最高責任者である2人は現在、横並びで地面に膝をつき頭を下げていた。この国で彼らよりも立場が上な者など数える程しか存在しない。ごく一部の貴族と、王族だ。ここが王の私室であることを考えれば、その選択肢はさらに限られる。



「此度の戦、大儀であった。」


「勿体なきお言葉。」


「ありがとうございます。」



目の前の男から告げられた重々しい言葉にランドとイーサはそれぞれ答える。すると、先の堅い言葉から打って変わってくだけた様子で男が言葉を返す。



「そんじゃまあ、めんどくさい挨拶はここまでにするかの。2人とも頭あげて楽にせい。今回も余裕だったらしいの〜。」


2人は慣れた様子で素直に言葉を受け入れ立ち上がる。


「まあ、そうですね。ろくな魔法士もいませんでしたし。」


「将も大したことありませんでしたわ。」


「情報の少ない異民族相手ならば少しは苦戦するかとも思ったが、本当にお主らは頼もしいの。頼もしすぎて敵が可愛そうじゃわい。さて、2つ伝えて置くことがある。まずは今回の戦功じゃが……」



そこまで言いかけたところで、2人は素早く、そして少々大袈裟なまでに反応する。



「はっ、我が魔法師団が敵に壊滅的な被害を与え戦を決定づけました!」


「いえ、私が騎士団のみで残った敵本陣へ切り込み将の首を討ち取りました!」



2人は横目で互いを睨みつけ、自らの軍の手柄が上だと牽制する。そして互いに言い合いを始めてしまう。



「ダッハッハ、お主ら相変わらず仲が悪いのう!此度の戦は〈光龍師団〉と〈銀狼騎士団〉の両方の軍に同額の金品を与えよう。それでよいか?」


「陛下がそう仰るのならば。」


「仕方ありませんわね。」



2人はしぶしぶといった様子で引き下がる。このような態度を取るのにはもちろん理由がある。騎士団と魔法師団の仲の悪さは公然の事実だ。そんな中、いくら相手が想い人だからといって王の前であっさりと負けを認めては団での立場に関わる。表面上とはいえお互いに譲る訳にはいかないのだ。……もっとも、2人は相手の気持ちを知らないので王がいなくともその態度を変えることはないのだが。


そんな事情など知るはずもない王はいつものことだと軽く流し、話題を進める。



「では、南の戦の件はそれで。そして、別件じゃ。帰ってきてそうそうなんじゃが、東の帝国に動きがあると報告は受けていたじゃろう?それがいよいよ本格的になりそうでの。」


「一応聞いてはいたため今回の戦も早々に終わらせてきましたが、まさか本当に戦を仕掛けてこようとは。あそことは半年前にも小競り合いをしたばかりです。我々の魔法で十分痛い目を見せたのでしばらくは攻めてこないと思っていましたが……」


「あなたたちの戦い方がぬるかったのではなくて?やっぱり騎士団が出ていればよかったのよ。」


隙あらばと、イーサは憎まれ口を挟む。自分が密かに思いを寄せる相手であるからもちろん本心ではそんなことを思っていない。常日頃から騎士団長としての立場を守るために必死に意識を作っているため、もはや条件反射で言葉が出てしまうのだ。


しかしながら、むろんそんな事情など知らないランドからすればイーサの言葉は文字通りの意味でしか受け取れない。そしてまた、ランドも立場ある者。言われたまま黙っていては自身の魔法師団の価値を下げることになってしまう。当然返す言葉も……。


「我が〈光龍師団〉の圧勝だったとはいえ、敵将の作戦はなかなかのものだった。猪突猛進しか知らん騎士団ではそもそも勝てたかも怪しい話だ。」


「なんですって?」


「おや、失礼。ただの正直な感想だ。忘れてくれ。」


「頭ばかり使っていると妄想がうまくなるようね。たまにはその貧相な体でも鍛えてみたらどうかしら?戦場でそんな筋肉では耐えられないでしょうし。」


ご覧のありさまである。言葉だけでなく、目つきも相手を蔑むような厳しいものであるが、二人の内心は態度の強さと反してボロボロであった。



(好きな人に面と向かって暴言を言われるのはなかなかくるものがあるな……。やっぱ貧弱な見た目のやつなんか眼中にないよな。もっとゴリゴリのマッチョになれってか?ハハ、これから毎日筋トレでもしてみようか。無駄だろうけど。)


(うう、またやっちゃった。なんで、すぐ突っかかるような言い方をしちゃうんだろう。こんな野蛮な女好かれるわけないよね……。もっと知的な会話ができるようにならなきゃ。フフ、本でも読んでみようかな。今さら手遅れだろうけど。)


こんなことを考えながら表面ではぎゃあぎゃあとお互い文句を繰り返す。悲しい立場である。そんな様子は王が二人を止めるまで続いた。



「これこれ、そこらへんにしておけ。それより今は帝国への対応じゃ。」


「「はっ、失礼いたしました!」」


普段憎まれ口ばかり叩きあう二人は、こんな返事が被っただけでもちょっとうれしくなってしまうのだが、それは互いの心の中に秘められることである。



「帝国はどうやら前回ランドの大規模魔法にやられたのが堪えた様子での、軍を三つに分けて進軍してくるらしい。」


「なるほど、やつらは数だけは多いですからね。三軍でもそれぞれに十分な人員は当てられるでしょう。」


「うむ、偵察の話では左翼、右翼の軍がそれぞれ2万、中央の軍が4万程らしい。こちらは魔族が住む北方への守護隊や西の都市国家群への防備も残さねばいかんのでな、東へは出せて4万じゃろう。」


「兵の質は私たちの方が上ですから、私とまあ一応そこの魔法師団長がいれば単純に4万で8万を迎え撃つことは可能でしょう。」


「ああ、それはできるだろうが問題は敵の軍が分かれていることだな。まとまってくれていれば楽だがこちらの軍も人数を分けて対応すれば俺と騎士団長がいない所ではさすがに押されるだろう。陛下、敵の軍の予想進路は?」


「左軍がシュタイン、右軍がフェルス、中央がオニキスじゃな。一月後に同時に攻め入るつもりらしい。」


「三都市同時だと、やはりこちらも軍を分けざるを得ないわね。中央のオニキスは東側の主要都市だし、やはりそちらに多く戦力を残すべきかしら。」


「だが、それではシュタインとオニキスに被害が出るのではないかの?できればこの二つの都市の民にも損害を与えたくないのものだが……。やはりそれは難しいか。」


王が悩むそぶりを見せる。いくらランドとイーサが並外れていると言っても二人の体は一つしかない。3つの戦場には対応することができない。進展が見えず会話が途切れるかと思ったその時、ランドが口を開いた。


「イーサ団長、少し話がしたい。陛下、一度お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


王の許可を得た後、ランドはイーサを連れて王の私室を退室した。



――そして一か月後、戦が始まった。

ものすごく久しぶりの投稿で申し訳ないです。

覚えてくださってる方はいないと思いますが、更新していこうと思いますので読んでいただけるとうれしいです。

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