6.突然放り投げられた少年少女
気が付くとそこは森であった
周りを見渡してみたら三人、私と同じように突然飛ばされたのであろう学生がいた
一人はリジーだ。彼女が居るだけで心細さはだいぶん和らぐので居てくれてよかったと心底思う
もう一人はクラス内に居た王族の一人、確か第四王子バラック=メレ=レーシディアン様だ
そうして最後の一人、貴族のパーティーで見かけなかったので多分、技能関係が特殊なのだろう黒髪黒目の少年だ
リジーと他二人は全く起きる気配がないので仕方なく私は、彼らの周りに魔力障壁を張ろうと思い魔法杖を空中にかざす
「【我が名はヒツキ 魔力を操りし奏者が命ずる 彼の者達を守護する障壁をここに展開せよ 魔力障壁】」
そう呪文を唱えて、魔法杖に魔力を流すも何も起こらず首を傾げた
一体どうしてだろうか、まさか整備がちゃんとなされていなかったのだろうか?そう思いながらもう一度、呪文を唱えようと口を開いた瞬間、ツキヒサが叫んだ
≪うわっ!あぶなっ!!≫
魔法杖を持っていた方の腕、左腕が突如として勝手に動いて魔法杖を草むらの方に放り投げた
何が起こったのか分からず唖然としていたら、今度は体全体が勝手に動き、耳を塞いでしゃがみ込んだ
その後すぐに爆発音が周囲に響いた
「ひぃあっ?!何?何かあったの??」
「うわあっ!て、敵襲?!」
「うおっ!な、なんだ?何が起こった?」
私にも理解できずに唖然としていたら、体は勝手に動いてそのまま立ち上がり、周囲をまるで警戒するように見渡し始めた
「周辺区域の地図のダウンロード…クリア。及び周辺の危険生命体の反応…OK」
突如、張り巡らされた薄く細い魔力の糸がどこかに伸びて行ったのを感じた
言葉に合わせるように魔力の糸は伸び、しまいには一定距離内の魔物といった危険な生物の反応がないことを告げる
それよりも、一体これはどういった状況なのだろうか
まるで私が私ではないような、いやきっと私ではないのだろうと理解する
それでは、私の身体で思考し喋っているのは一体誰なのだろうか?何となく誰かは予想できるが本当に合っているのか不安が存在した
もしかしたら私は今、魔族の誰かに体を乗っ取られてしまったのではないかと言う一抹不安を抱えながら、自分の声をこうも自分ではないような形という、奇妙な状態で聞く
「ウィンドウ起動…展開」
そう言葉を発した瞬間、目の前に水色の透明な板が出現する
その光景を見て、私が先程まで感じていた不安がまるで氷が水になるように溶けて消えてなくなる
――ああ、今この体を動かしているのはツキヒサなんだ
ほっと一息ついたところで何か忘れているような気がすると思っていたら、リジーの声が聞こえた
「い、一体何が起こってるのよ!!」