5.天狗の鼻をへし折りに行く行為
学院に来た二日目からが本番である
そういった兄の顔は険しく、どうしてそのそうなお顔をなさるのかと不思議に思っていた当初
しかし、今はあのいつもは優しくもあり、騎士道を地で行くような兄が険しい顔をしたのか今なら理解できる
リジニアことリジーという少女は私の目から見ても、とても良い子だしツキヒサも彼女のことを良い子だと判断した
というのも、私は普通に喋るのが凄く苦手なのだ
単語で区切ったような喋り方をしてしまうことから貴族によるパーティーでは何か病気なのではと噂されたりするし、一部のメイド達からも気味悪がられたりするのだ
それなのに、リジーは楽しそうに笑いながら私とお喋りしてくれる
家族や一部の執事やメイド以外には苛立たせてしまう喋り方である私にとっては、そのような反応をする彼女のことは凄く評価できる
しかもその単語だけでは汲み取れないようなちょっとしたことも出来る限り読み取ろうとしてくれる彼女との会話は私にとって楽しくて、先生が来るまで二人でお喋りをしていた
そうしてやって来た男の先生はダルそうに教卓の上に何かを包んだ大きな風呂敷を置いて、広げて見せた
風呂敷の中には様々な魔法杖が入っていた
どうしてそのような物を出してきたのだろうかとリジーと一緒に首を傾げていたら先生は一言
「取ったら広場に集まれ」
と言ってさっさと教室から出て行ってしまった
余りの適当さに唖然としていたら他の生徒たちから不満の声が上がりだす
内容としては大半が先程の教師の態度に対するもので、その気持ち分かるわぁーと呟くリジーと一緒に魔法杖を取りに行き、学院付属の広場へと脚を運んだ
広場へと集まったのは今年、学院に入ってきた一年生のみだった
どういう状況だろうかとリジーと一緒に首を傾げていたら、優しそうだけど何と無く裏がありそうな女性の先生が私たちの前に立ってにこやかに説明を始めた
「皆様初めまして、私は魔法学、通称魔学を担当しているリシアン=サリョーセルです。まだ学院に来て一日と少ししか立っていない皆様にこの学院に慣れ、身分関係なく仲良くなっていただくために普通では有り得ない。寧ろ不躾だと言われ、不敬罪として罪に問われるようなことを我が学院は致します
この行為は親御様にもキチンと説明をして、承諾を得ておりますので思う存分その無駄に高い矜持をへし折って、皆様の学院生活をより良いものへとして下さいね」
楽しそうに語った彼女の横に並ぶ他の先生方もにこやかに笑っているのでリシアン先生の言葉は本当だということだろうと推測する
余りにも突拍子もない発言に口をあんぐりと開ける皆と一緒に私も先生たちを見て、一体何をしようとしているのかを見極めようと目を凝らす
先程、教室にやってきたダルそうな先生と目が合ったと思えば、ニヤリと含みのある笑みを浮かべた後にその隣にいた筋肉質の男性に何やら言っているのが見て取れる
そうするとその筋肉質の男性もまた、意地の悪そうな笑みを浮かべて、二人揃って楽しそうに笑いだした
一体、何が起こるのだろうかと緊張していたらリシアン先生が高らかに宣言した
「これより皆様にはサバイバル訓練を行っていただきます!死なないようにはしますのでご安心を」