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第10話 コスプレ喫茶

前話、学園祭の日付を土日になるように変更。

「「「「「コスプレ喫茶ぁ!?」」」」」


 とみんなと一緒に驚いたものの、僕にはその言葉の意味すら分からない。そしてそれは他の生徒も同じだったらしく、そのことについてリリーに質問を始めた。



「キルヒアイゼンさん。コスプレ喫茶というのはどのような物なのですか? 喫茶ということは、お茶会のようなものですか?」

「いいえ。お茶会のような硬い物にするつもりはないわ。キルヒ――……うちの店で服を仕立ててくれたことがある人達は、職人に採寸された後、メイドか執事にお茶とスコーンを出されたのではないかしら? そしてそれを飲みながら服について話し合ったはず。あの時のようなイメージよ」



 どうやらほぼ全員に覚えがあったらしく、口々に『あぁ、あのような感じか』などと言いながら頷いている。



「ならコスプレというのはなんですか?」

衣服を着て(コスチューム)演じる者(プレイヤー)の略称よ。実はうちの店で採寸の時にお茶を入れている使用人は、貴族の家に派遣される人達以外、本物の使用人ではなくコスチュームプレイヤーズと呼ばれる人達なの」

「コスチュームプレイヤーズ?」

「叔父様が自身の夢のために作った役職なのだけれど、今その話は置いておくわね。つまり、この3人と他の希望者には衣装を着て接客をしてもらうの。学園祭にはヴァ―ウェンの住人みんなが参加可能だし、学生よりは市民をターゲットにした出し物ね」



 つまり今の話で行くと、僕と他の男性希望者が執事。ステラさんとアルベドさん。それと他の女性希望者がメイドの格好をして接客をする。ということかな? そしてその売り上げを皆で分配する。ターゲットはこの大都市に住まう人達。頑張ればそれなりの売り上げは見込めるかもしれない。もしそうなれば、多少なりとも罪滅ぼしになるかもしれない。



「3人には布や裁縫道具の購入費用を出してもらい、みんなでそれを縫って服を作れば大丈夫なはずよ。ただ学園祭が終われば作った服の所有権は3人の物になるはずだから、譲渡は卒業まで出来ないと思うわ。それでどうかしら? 他になにか良い案があれば聞こうと思うのだけれど、どうかしら?」



『本当にそれで何とかなるのか?』とか、『貴族として使用人の真似事なんて……』と囁くような声は聞こえたが、代案があるわけではないらしく、表立って反対する人はいなかった。


「ありがとうリリー。出来る限り全力で頑張るよ」


 正直、それでは十分だとは思えない。でもリリーが考えてくれた方法だし、僕には他の方法も思いつかない。だから僕は、リリーが考えてくれたこの方法で、出来る限り頑張らないと!



「わ、私も頑張るわ」

「……私は接客なんてしない」

「ア、アルベド……。気持ちはわかるけど」

「えぇ、それならそれでも良いわよ?」

「……良いの?」

「えぇ、接客は出来なくても歩くことは出来るのだから、その場合メイド服を着て宣伝に行ってもらうわ。でもそれすらしないというのなら、みんなが納得する代案を出してね?」

「………………だい――」

「――ソシアさん」

「!!?」



 アルベドさんが凄い勢いで反応した。そう言えばソシアさんは、アルベドさんから姉のように慕われていたって父さんが言っていたっけ。



「――と私、数日前にたまたま会ったのだけれど、彼女、学園祭に来るそうよ? あなたと会うのを楽しみにしていたけど、問題を起こさずに学園でうまくやっていけるか? 心配もしていたみたいよ? 学園祭で頑張る姿を見せれば、安心してもらえるんじゃないかしら?」

「……やる」

「はぁ」



 ステラさんはアルベドさんの変わり身の早さに対してか? それともそのことを持ち出したリリーに対してか? ため息を一つ吐き出した。そして当のアルベドさんは、ほんの少しだが口が緩んでおり、とても嬉しそうだった。



「ですが今は4月の21日。学園祭は28日と29日です。授業もあるのに今から布を買って縫い始めて間に合うのでしょうか?」

「もちろんそれもありますが、はたしてそれで十分なポイントが稼げるのでしょうか? 現在最もポイントが少ない者は、残り2500ポイントしかありません。食費と寮費を考えると、今月はなんとか過ごせても、ゴブリンの森での狩猟許可が出るまでもたせるには、毎食パンだけを食べたとしても400ポイント足りません。それに1カ月後というのはあくまで目安でしかなく、本当に森に入れるのかはわかりません。そう考えるとやはり来月分の寮費も考えて3000ポイントはないと……」



 そう。時間の問題もあるけど、このクラスの人数は全部で35人。もし仮に1人3000ポイントになるように山分けするには、105000ポイントの利益が……いや、費用は考えなくても良いのか。……とはいえ収入でそれだけのポイントが必要になる。



「時間に関しては少し厳しいけど、みんなが協力してくれるのなら大丈夫よ。私達にはレイラもいるのだし。間に合いそうにない人の分は、制服で構わないわ」

「……ですが、そんなにうまく売り上げを上げることが出来るのでしょうか?」



 そう問われたリリーはニヤリと笑うと、「大丈夫よ」と言って指をパチンと鳴らした。するとそれを合図にレイラが僕達のいる黒板側の戸を開けて中に入ってきた。



「レイラ?」

「皆様に納得していただけるよう、ジェリド様には実際に今ここでコスプレをしていただきます。目を閉じていただけますか?」



 他の貴族家の子女がいるからか、レイラは猫かぶりモードだが、目はとても輝いていた。この目はあれこれ楽しんでソシアさんとローラのコーディネイトや、化粧をしている時の目だ。

 ……なぜそれを僕に向けるの? 正直嫌な予感しかしないんだけど?



「……なんで目まで閉じるの?」

「リリアーナ様が服と髪を、私がメイクを担当します。コスプレは出来上がってからのお楽しみです」

「ジェリド、みんなにこれでいけると思ってもらわないといけないの。協力してくれるわよね?」

「う、うん」



 自業自得もあるんだけど、リリーに言われるとなぜか断れない。僕が目を閉じると、レイラ()が僕の目元に筆のようなものでなにかを書き始め、リリー()は突然僕の上着を脱がし始めた。



「リ、リリー!?」

「ダメですよ? 今は目元のメイクをしているのですから、目を開けられたら困ります」


 僕が思わず目を開けようとすると、レイラが僕の目蓋を抑えて目が開かないようにしながらダメだと言い、目の下の辺りを筆でなぞった。



「で、でも!」

「今更何を気にしているの? 去年まではよく私が着替えを手伝ってあげていたじゃない?」

「そうなの!?」



 衝撃の告白をされてしまった! 僕は15・6歳まで着替えをリリーに手伝われていたらしい。

 そしてリリーは、その証拠とでもいうかのように手慣れた手付きで僕の服を脱がしていった。そして僕が肌着1枚になるまで脱がされたころ、周囲から『うっ』とか『きゃっ』という声が聞えてきた。

 自分でも自分の体になれるまで少しドキドキしたし、その気持ちはなんとなくわかるんだけど、声に出すのはやめてくれないかな?



「ジェリド様。大丈夫ですか? 顔が真っ赤ですよ?」

「ッ――!?」



 レイラが僕の耳元で囁くような、それでいて妖艶さを伴う声でそう言い、僕の耳に息を吹きかけた。レイラは確実にこの状況を楽しんでいる。しかし僕に打開するすべはない。

 正直とても恥ずかしいが、周囲からは「おお」とか「わあ」という、好意的な色の声しか聞こえないことから、どうやらおかしなことをされているわけではないらしい。しかしギルとライのとても楽しそうな笑い声は聞こえてくる。

 僕は2人に変なことをされているの? それともライとギルが勝手に笑っているだけ? どっちなんだ?



「ジェリド、ちょっと足を上げてくれるかしら? まずは右足から」

「良いけど、ズボンの上からで良いの?」

「あら、良いの? みんなの前で下着姿になっても良いのなら脱いでくれても構わないのだけれど?」

「……ごめんリリー。そのままでも良いのならそのままでお願いします」



 みんなの前で下着姿になるとか絶対無理!

 その後、上下ともに薄い服を着させられ、頭にもなにかを被せられ『こっちは良いわよ?』という言葉が聞えた数秒後、鼻歌交じりでメイクを担当していたレイラからも『完成です』という声が聞えてきた。


「……もう目、開けても良いの?」

「えぇ、良いわよ?」



 さっきまでどうなっているのか? 気になって気になって仕方がなかったんだけど、いざ見ても良いと言われると、何故かためらってしまう。ライとギルはなぜ笑っているのか?



 そして――



「なんで僕は腕を縛られているの? それになんでリリーは僕の足を掴んでいるの?」

「気にしなくても良いわ。大丈夫。きっと恥ずかしいのはほんの少しの間だけだから」

「恥ずかしいことなの!?」

「いいえ! そんなことありませんわ! だってとっても似合っているんですもの。まるでお人形さんみたい」

「あ、あぁ。似合いすぎていて怖いくらいだよ。なぁ兄さん」

「あ、あぁ。執事のワトソンがいれば、今の君を絵画として残せと命じていた自信がある。君のその格好も含めて、正にこれこそ『絵になる』というものだ。それほど似合っているよ」


 フェデラー3兄弟に絶賛されてしまった。

 というか、足を拘束されて両手を縛られているのに『絵になる』って、いったいどういう構図なの!?



「良いから早く目を開けて? 急がないとチャイムが鳴っちゃうわよ?」

「う、うん」


 僕は意を決して目を開ける。最初に飛び込んできたのは、ロープで縛られた僕の手と、制服のズボンの上から白いスカート? を履く僕のあ――。


「じゃあ仕上げね。はい、収納」


 ……リリーの声と共に、ズボンの下に隠れていたはずの僕の細くて綺麗な足が見え、涼しく気持ちの良い風が僕の下半身を撫でる。



「「「「「きゃーーーーー」」」」」

「え?」



 クラスの女の子達の悲鳴が教室中に木霊した。しかし僕にはなにが起きたのかがわからない。悲鳴をあげる子達を見てみると、悲鳴を上げているのにみんなどこか楽しそうな表情で、バッチリこちらを見ている。



 ……なにが起きているんだ?



 僕はもう一度自分の姿を冷静に確認してみる。

 僕が着ている服は、黒いラインがいくつも入った白いブレザー。その中には白いシャツを着ており、下半身は白いスカート。……ってなんでスカート!? しかもブレザーのボタンは全て外れており、中に着ているシャツも少し乱れているし、サイズも少し大きい気が……。あっ、これ女子生徒用の制服だ。ということは、ワンピーススカートっていう――いやいや、そんなことはどうでも良い! それより僕は今、スカートを履いていてズボンを履いていない!



 ――ヒラリ――



「……黒。男物?」

「ヒ――――――ッ!?」

「「「「「キャーーーーーーーっ!!」」」」」



 アルベドさんが僕のスカート(?)を捲り、周囲から再び悲鳴があがる。僕はスカートを必死に抑えて下着を隠し、アルベドさんを睨むが、睨まれたアルベドさんとその間にいたステラさんは、それぞれ目を丸くして、『おぅ』『か、可愛い』等と言っている。

 今度は悲鳴をあげた女の子達ばかりか、男子生徒も何人かが顔を赤らめており、ヒューム君などはフレイヤさんに締め上げられていた。



「こんな子達がお茶を入れてくれる喫茶店。例えば1回10分10ポイントだとしても、来たいと思わない?」

「思いますけど、それでもおそらく必要なポイントには――」

「例えばあなたが来賓貴族として来たとして、この服を着たジェリドやステラさん、アルベドさんをレイラが描いた白黒の絵画が金貨5枚で買えるとしたらどう? これを逃せばおそらく二度と出回らないわよ?」

「「「「「買ったぁ!!」」」」」



「ちょっと待って! そんな恥を残すようなこ――」

「私、ステラさんは制服も似合っているし、可愛い服も絶対似合うと思うの。私が責任をもってメイクとコーディネイトをしてあげるから、1度お姫様のように可愛く着飾ってみない?」

「えっ? わ、私がお姫様?」

「えぇ、そしてそれをレイラが描けば、きっと一生の宝物になると思うの。キルヒアイゼン家のお抱えモデル兼画家レイラの名前は聞いたことがないかしら? 嫌なら無理にとは言わないのだけれど……」



「べ、別にその程度のことで嫌なんて言わないわよ。クラスのみんなのためなんだから」

「そう? ありがとう」

「……ステラ、チョロい。でも私は断る」

「アルベド様。実は私、ソシアさんとはつい先日まで一緒に働かせていただいていたのですけれど、ソシアさんは不意にアルベド様のお顔が見たくなる時があったみたいなんです。ですので、もしよろしければソシアさんの為にも、アルベド様の絵をソシアさんにプレゼントさせていただけないでしょうか?」

「お姉ちゃんに? 良いよ。描いて」

「どうせならアルベド様がクラスの為に頑張っている姿や、当日一緒に二人で一緒にいるお姿を描いて送った方が喜ばれると思います。ですので、もしよろしければ当日のお姿を描くことをお許しいただけませんでしょうか?」

「ん。許す」



 レイラが言質を取ったとばかりに、ニヤリと心の中でほくそ笑んでいるのが手に取るように分かった。



 ――アルベドさんも十分チョロいよ?



「と、まぁそういう事ね。それでも足りないようなら、着ている服を売れば良いのよ。レッドリバー家とストラーダ家両次期当主のコスプレ衣装。それにジェリドの女装衣装。これらはおそらく二度と手に入らないから、オークション形式で販売したらどうかしら?」

「「「「「これはいける!」」」」」

「ちょっと待って! 僕の女装衣装ってどういうこと!? 僕は当日も女装なの!?」



 ゴーン ゴーン ガラガラ

 チャイムが鳴り、そのすぐ後にマルコ先生が教室に入ってきた。もちろん僕達が集まる黒板側の扉から。



「なにを騒いでいる。チャイムはもう鳴っ――」

「あ……」

「……」

「……」



 マルコ先生と僕の目が合い、空気が一瞬で凍りつき、他の生徒も含めて全員が沈黙する。

 マルコ先生は僕の顔から徐々に視線を下へとおろし、再度僕の顔まで視線をゆっくり上げたあと、無言で僕の着ている服のボタンを留めていき、魔法で水の姿見を出してこう言った。


「……ブラッドリー。お前の趣味を否定する気はないが、制服は鏡を見てちゃんと着ろ」

「これはリリー達、が……。か、可愛い」



 なに、これ? これが僕? すっごく可愛い女の子にしか見えない。



 腰まで伸びる亜麻色の髪。

 薄くピンクに塗られた唇。

 いつも以上に大きく感じる綺麗な瞳。

 恥ずかしそうに朱に染まっている僕の頬。

 体制はアルベドさんからスカートの中身を守ろうとした時に上体を乗り出したせいか足は崩れて女の子座りの姿勢になっている。

 なんというか……すっごく色っぽい?

 しかもつい先程までは、これでさらに衣服が乱れていたの? そう考えると、僕は顔から火が出るような恥ずかしさを感じた。



「チェックは終わったか? では全員席に着け。ホームルームを始めるぞ」

「すっ、すません。今すぐ着替えてきます」

「気にするなブラッドリー。これから先、大変なこともあるかもしれんが、俺はお前のそういうところを否定するつもりはない。今日は特別にそのまま授業を受けさせてやる。だから席に着け」

「「「「「え?」」」」」

「人にはそれぞれ、言いにくいことの1つや2つはあるものだ。ブラッドリーは授業が終わってから職員室に来い。今後のことについて話し合おう。しかし今はゴブリンの森や学園祭についての伝達事項が先だ。全員席に着け」



 教室内に再び数秒間の静寂が訪れる。

 そして――。



「くっ、ははははははははは!」

 《こりゃあ良い! 良かったじゃねぇかジェリドちゃん》

「えぇ、大丈夫よジェリド。私達は幼馴染じゃない? あなたの女装についてはずっと前から知っていたから、気にしなくも良いのよ? ねぇレイラ」

「えぇ、私ももちろん大丈夫です。ブラッドリー家でジェリド様には、一発で男も落とせる悩殺スマイルを見せていた大こともあります。ですから今更驚くようなこともありません」

「……ん。私も大丈夫」

「なんていうかその、ちゃんと似合ってるよ? フレイヤがいなかったら、僕もジェリドちゃんに惚れてたかも知れないくらいに」

「えぇ、本当に。ジェリドちゃんは女の私も嫉妬するくらい可愛いと思いますわ」



 と、マルコ先生が誤解しているのを良いことに、ギル・ライ・リリー・レイラ・アルベドさん・ヒューム君・フレイヤさんが口々に追い打ちをかけてきた。

 表情の乏しいアルベドさん以外はニヤニヤ笑いながら言っているので、確実にわざとだ。そしてそれ以外の生徒の反応も、なんだかやけに好意的なのが多い!



「だそうだ。ではホームルームを始める。席に着け」

「いや、でも……」

「同じことを何度も言わせるな。座れ」

「は、はい……」



 僕は再度席に着くようマルコ先生に怒気の孕んだ声音で注意を受け、渋々席に着き、結局着替える間もなくそのままの姿で午前中を過ごすことになるのであった。

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