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第9話 狩り勝負

 僕はリアナを連れ、ステラさんとの約束通り天安門へと向かった。

 リアナを連れて行ったのは、ゴブリンの森に一人で入るのを、シャルちゃんが許してくれなかったからだ。

 僕が着いた時、すでにステラさんはアルベドさんと共に天安門に居て、他にも数名の生徒達が集まっていた。


「やっと来た」

「まだ約束の10分前。ステラが楽しみにし過ぎ」

「そ、そんなことないし!」

「ステラはいつも時間ギリギリ。なのにここに着いたの30分前。そんなこと今までなかった」

「た、たまたまよ! それに授業初日は10分前についたし!」

「あの日だけ」


 どうやらステラさんはかなり楽しみにしてくれていたらしい。


「そんなことより、ギルドでゴブリン討伐の登録はちゃんとしてきたんでしょうね?」

「うん。ちゃんと登録してきたよ。時間は10時からにしてきたけど、それでよかったよね?」


 ゴブリンの森を含む学園周辺のダンジョンや森に授業以外で入る場合、ギルドを通し、なんらかの依頼を受けなければならないという決まりがあった。そのかわり失敗してもペナルティはない。

 依頼を受けなければならない理由としては、森やダンジョンに入ったものがそこでなんらかの事故にあった場合、それを学園やギルドがすぐに察知するためだ。そのため、各森やダンジョンに出入りする予定の時間をギルドに報告し、そこから出た後もギルドに報告する義務があり、チームで依頼を受けることが推奨されている。


 報告を忘れると1度目は500ポイントの減点。2度目は3000ポイントの減点。3度目は退学だ。しかし授業以外で森やダンジョンを訪れる場合、基本的にはポイントを稼ぐためらしいので、受付がまともなら報告さえ忘れなければ問題ない。


 なんとか受付をしてくれたシャルちゃん曰く『ゴブリンの森のゴブリンは、洞窟のダンジョンにいる魔王が作った魔力溜まりから毎日生まれて増えているのです。一般的なゴブリンとは違って知性や感情が無く、武器を持つこともほとんど無いのですが、死を恐れて引くこともないので注意が必要なのです』ということらしい。


「じゃあお互い昼の3時までにギルドに帰還報告しないといけないし、あんまり長くやっても仕方ないから、勝負は1時までにどちらの方が多く倒せるか? それでどう?」

「うん、わかった。それでいいよ」

「ステラ」

「なに? アルベド」

「私も参加する」

「……なんで?」


 ステラさんと一緒に立っていたアルベドさんが、いきなりそのような提案をしたかと思うと、リアナを指差し話し始めた。


「その獣に興味がある。ステラも試験で邪魔された。だからタッグマッチにしよう」

「タッグマッチ?」

「私とステラ。こいつと獣で勝負する」

《私は神獣よ! それをわかってて言ってんの?》

「これは? ……そいつが喋ってんの?」


 リアナの声がステラさんに聞こえてる?

 僕は咄嗟に周囲を見回すと、周囲にいた他の学生たちはキョロキョロと辺りを見回したり、頭を抑えたりしていた。

 どうやら他の学生たちにも聞こえているらしい。


「リアナ! ちょっと待って!」

「獣は獣。もし謝ってほしいなら私に勝てば謝ってあげる」

《良いわよ。勝負してあげようじゃない》

「リアナ!」

「ステラも良いよね?」

「あぁもう良いよ! でもあいつ、あぁ見えて神獣なんだからね? わかってる?」

「大丈夫。神獣でも私達なら勝てる。多分」

「……多分って」

「勝ったらその獣に一つ教えて欲しいことがある」

「教えて欲しいこと?」

《良いわよ? 私に勝てたら教えてあげる》

「その言葉、忘れないでね?」


 そんなこんなで、結局僕達はアルベドさんの挑発をリアナが受ける形で、2対2の狩り勝負をすることになった。


 僕がブラッドリー家から持ってきた片手剣を腰に差し、勝負の準備をしていると、リリーが僕の傍らまでやってきた。


「ねぇジェリド。実技試験の時から思っていたんだけど、自分の剣はどうしたの?」

「自分の?」

「月虹のことよ。あの剣はどうしたの?」

「あぁ、あれのこと。気を失った時に一度どこからか出したみたいなんだけど、その後空間魔法かなにかでしまい込んじゃったらしくて、それから一度も出していないんだ」

「どうして?」

「暴走するといけないから、魔法の制御を習うまでは魔法を使うなって言われているんだ」

「……そういうことね。なら問題ないわ。そのくらい大丈夫。私がちゃんと見ていてあげるから、自分の剣で戦いなさい。その剣も悪くはないけれど、やっぱり自分の剣の方が良いでしょ?」

「うん。でも本当に大丈夫なの?」

「大丈夫よ。出したい物をしっかりと思い浮かべて掴み取るイメージでやれば出せるはずよ」

「うん。やってみる」


 出し方についてはギルからもらったボタンとあまりかわらないらしい。

 ソシアさんから魔力を使うのを止められていたし(身体強化はしていたけど)、とっても気にはなっていたけど、出すのをやめていた僕の剣。

 僕は目を閉じその姿・を思い出す。リアナにたった一度見せてもらっただけのその姿・は、思っていたよりも鮮明に、そして一瞬で思い出すことが出来た。しかしその姿・は、なんとなく不貞腐れた時のリアナのような雰囲気だ。


 久しぶり、待たせてごめんね? おいで、月虹。


 その瞬間、僕の手に冷たく硬い物が触れたような気がし、僕はそれを握って目を開ける。すると僕の手には、想像したままの姿の月虹が握られていた。

 ただ握っているだけなのに、少しずつ魔力を持っていかれるこの感覚。魔力を吸われているのに、なんだかすごく落ち着くし、懐かしい気がする。


「ね? 問題なかったでしょ?」

「うん。リリーありがとう」

「良いわよ。頑張ってきなさい」

「うん。リアナもありがとう」

《私? なんで? 私はなにもしてないよ?》

「そんなことないよ」


 僕はリアナの頭を撫でながら感謝する。

 リアナがあの時のことを見せてくれなかったら、もしかしたら月虹の事を忘れたままだったかもしれないから。


「そういえば、他にはなにが入ってるんだろ?」


 僕は先ほどのように目を瞑り、今度は中になにがあるのか? 手を入れるのではなく、カーテンを潜って中に入る自分をイメージする。すると見えてきたのは、薄暗い小さな部屋。広さとしては5㎡と言ったところだろうか?

 中にあったのは木製の小さな盾と小さな剣。4人の子供と思われる人物が描かれた絵に、ゲーム中と思われるチェス盤が一つ。他にもいくつかおもちゃやボードゲームが置かれており、奥には空の木箱と大きな扉が――


「そろそろ時間ね」

「――うん。わかった」

《ジェリド、先手必勝よ。この近くにゴブリンの臭いはないわ。乗って》

「わかった」


 リアナの言う通り、僕はリアナの背に乗せてもらう。

 開始の合図は、先にここに来ていた上級生らしき人がしてくれるらしい。


「じゃあいくよ3・2・1・スタート」


 ステラさん・アルベドさん・僕を乗せたリアナは一斉に走り出す。

 ステラさんとアルベドさんは真っすぐに、リアナは斜め右方向に。

 リアナに乗って十秒ほど走ると、最初のゴブリンを発見した。


「リアナ、僕が――」


 ――ドカッ! グシャ――


 リアナの右前足がゴブリンを踏み潰し、リアナはそのまま駆け抜けた。


《えっ? なにジェリド?》

「……リアナ、今のゴブリンのところに戻ってくれる? それとさっきみたいな倒し方は禁止。というか見つけたら僕が倒すよ」

《なんで? 私ならさっきみたいに走ってるだけで倒せるよ?》

「一応この勝負、僕とステラさんとの勝負が元だから、基本的には僕が倒すよ。それと倒すだけじゃなくて、あの潰れたゴブリンから耳も取らないといけないの、わかってる?」

《……あ》


 その後すぐ先ほどのゴブリンのところに戻ってもらい、月虹で討伐証明部位である耳を切りに行く。

 月虹、初仕事がこんな潰れたゴブリンからの耳の発掘でごめんね?

 そして、ゴブリンの耳を月虹で切ろうとすると、月虹が勝手に僕から魔力を吸い取り、赤い紐のような物を伸ばしてゴブリンの耳を切り、僕の収納魔法の中に放り込んだ。


「――なに……これ?」

《触りたくなかったのかな?》

「触りたくない?」

《ジェリドがやろうとしたわけじゃないんでしょ? ならやったのはその剣ってことでしょ?》

「でもこれ、聖剣のはずだよ?」

《だから?》

「意思を持つのは魔剣でしょ?」

《そんなの知らないわよ》


 僕は月虹を眺めながら月虹に問いかける。


「……君、魔剣なの?」

《……》

「……」


 返事はなかった。

 さっきとは違って口に出し、本気で剣に話しかけてしまった僕。なんとなくリアナの無言が痛かった。


 その後しばらく色々試してみた結果、3つのことがわかった。


 1つは、月虹の刀身から出てきた赤い紐の様な物の正体は、おそらく僕の血と魔力であるという事。これについては鼻の良いリアナが、この紐からは僕の血の匂いがすると言っていたこと。そして収納魔法では直接自分が触れた物しか中に入れることが出来ないはずなのに、それが出来たことから間違いないだろう。


 2つ目は、この赤い紐のような物は、さほど早くはないが、僕が思った通りに動かすことが可能であり、鞭のように扱うことも出来て切れ味もかなりのものだということ。


 3つ目は、この剣は僕の血と魔力を吸っているはずなのに、僕の手に外傷はなく、魔力はともかく血を吸われている感覚は全くないと言う事。 


「リアナ。これ使えると思わない?」




 ▽




 その後もリアナはゴブリンを難なく見つけ続け、僕はどんどんゴブリンを倒していった。なにも考えずに調子に乗って……。


《こっちにはもうゴブリンいないみたいね》

「……全滅したの?」

《うん。多分》

「……それってかなりまずくない?」

《なんで? 討伐数を競うんでしょ?》

「うん。僕達はそれでポイント稼げて良いかもしれないけど、そのせいで他のみんながポイント稼げなくなっちゃうんじゃ……?」

《それで?》

「そうなると、下手したらみんな、ポイントを払えず退学に……」

《ダメなの?》

「ダメだよ! リアナ! 悪いんだけどステラさん達のところに向かって!」

《勝利宣言ね!》

「違うよ!」


 僕達はステラさん達の下に急いだが、その時にはもうすでに、ゴブリンはほとんど残っていなかった。




 ▽




 勝負を中断した僕達は、天安門で僕達の勝負の終了を待っていた野次馬を引き連れギルドへ向かった。

 僕とステラさん。というよりステラさんが勝負をするという事で、ギルドや一部の学生からは一種のイベントのように捉えられ、納品作業はギルド職員立会いの下、お互いに1枚づつゴブリンの耳を箱に入れていき、先に尽きた方が負け。というルールまで決められていた。


「予定より早く終わったのね? お昼を食べて戻ったら、もう終わってギルドに向かったって言われて驚い――どうしたのジェリド? 顔色が悪いわよ? どこか怪我でもしたの?」

「心配してくれてありがとうリリー。そういうわけじゃないんだけど、ちょっと困ったことに……」

「困ったこと?」

「で、では、ジェリドさんの担当受付の私が、ジェリドさんの分の納品チェックを行います!」

「俺がステラちゃんとアルベドちゃんの担当だから、2人の分を確認する」

「では、お互い1枚目をお願いします!」


 そんな感じで納品チェック兼集計が始まった。

 数が60枚を超えたあたりから周囲が段々ざわつき始め、100枚を超えたあたりから、『まだあるぞ!?』とか、『すげぇ!』という声で盛り上がり。200枚を超えたあたりから徐々に静かになり。300枚を超えたあたりになると、ギルド職員がゴブリンの森にゴブリンがどれだけ残っているのか? その調査員を派遣するべきではないのか? という話し合いを始め。400枚を超えた時には、すでに周囲の視線が痛かった。


 結果としては、僕・リアナチームが636枚で【190800】ポイント。

 ステラさんが305枚で【90150】ポイント。

 アルベドさんが372枚で【111600】ポイント。

 2人合わせて677枚の【203100】ポイントとなり、僕の敗けとなった。

 そしてこの大量討伐の結果、ゴブリンの森にいるゴブリンの数が激減し、【ゴブリンの森でのゴブリン討伐1カ月禁止】という判断が下された。


 なんでも、魔力溜まりから生まれるゴブリンの数は、そこにモンスターが多ければ多いほど活性化し、ゴブリンの出現数が増えるのだとかなんとか……。


 あぁ、大変なことになってしまった。

 ゴブリンの森でゴブリンを狩れないと言うことは、先輩に上位の森やダンジョンに連れて行ってもらうかポーションを作って売るしかない。しかし、ポーションはそんなに高い物ではなく、そう簡単に量産できるものでもないし、僕みたいに先輩がいない担当受付を選んだ人もいるだろうし、いても連れて行ってもらえるとは限らない。

 ポイントが足りなくなれば即退寮。つまりは退学だ。


 僕は一体どうやって責任を取れば……。

 その時リリーが僕の肩を叩き耳元でこう囁いた。


「明日私がなんとかしてあげるから、明日の朝みんなにちゃんと謝るのよ?」

「なんとかできるの!?」

「えぇ、多分ね。そのかわり、私の提案をちゃんと受け入れるのよ?」

「うん。ありがとうリリー!」




 ▽




 そして今。


「終わったことを言っても仕方がないわ。そのかわり、この3人にはちゃんと責任をとってもらう。それでいいにしましょ?」

「キルヒアイゼンさん。責任って言ってもどうとってもらうんですか? ポイントの譲渡は出来ませんし、節約すれば今月退学になる人はいないかもしれませんが、それでも僕みたいに節約を強いられる人は少なくないんですよ?」


 そうなのだ。先ほどリリーがクラスのみんなに聞いたところ、……僕が言うべきセリフではないが、不幸中の幸いというか、今月で退学になるような人はいなかったらしい。しかし、節約しなければゴブリンの森での討伐依頼解禁まで乗り越えられないという人はかなりいたのだ。


「えぇ、だからその分、皆のためにポイントを稼いでもらうの。この3人に」

「ポイントを稼いでもらう?」

「えぇ、この学園には4月と10月に学園祭があるでしょ? 4月の学園祭は新入生歓迎の意味合いも強いし、準備費用として出すポイントにも余裕がないから、お店を出したクラスは今までほとんどなかったみたいだけど、出して成功したクラスも過去にはあるわ。だから余裕がある人達にポイントを出してもらってお店を出すの。クラスで獲得したポイントは、クラスで均等に分けられるから、その準備費用の提出と、学園祭での貢献で責任をとってもらうの」


「待ってください。クラスの出し物のポイントを、個人に提出させるのは大丈夫なんですか?」

「えぇ、それは前例もあるし大丈夫よ」

「……でもそんなに稼げるんでしょうか?」

「それもきっと大丈夫。この3人が協力してくれれば。協力してくれるわよね?」

「うん。もちろんするよ!」

「私もする!」

「……話を聞いてか――」

「……アルベド。私達、そんなこと言える立場じゃないと思うよ?」

「……わかった」

「それで、出し物はなにをするんですか?」

「コスプレ喫茶よ」

「「「「「コスプレ喫茶ぁ!?」」」」」

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