第7話 銀髪の幼女
ヒュウム君が合格した後、僕達は隠れてヒュウム君と待ち合わせをしていたらしいフレイヤさんとも合流し、皆で一緒に寮に帰った。
本当は、リリーやギルを前にすると緊張してしまうヒュウム君の緊張を解す為、その後ローラやレイラを連れて買い物に行き、みんなで夕食会を! と思っていたのだが、王立学園の規定で『ポイント関連の援助の禁止』という項目があり、それに引っかかるかも知れなかったので今回は見送ったのだ。
その後寮の自室に戻ると、部屋の中には昼食が食べられず、お腹を空かせたローラとリアナが待っていた。なぜお腹を空かせていたのかというと、寮の僕らの部屋に食材はなく、食材を買うポイントを握っているのは僕だけだったからだ。
リアナはスズメの大量捕獲に成功し、それをローラと食べようとしたらしいが、ローラがスズメを食べることに難色を示したためスズメを逃がし、空腹のまま耐えたらしい。
2人のことをすっかり忘れ、僕だけ15ポイントの学食弁当を食べていたことなど言えるわけもなく、追及が始まる前に『僕もお腹減ってるし、みんなで軽くなにか食べに行こ? 夕飯の食材やそれ以降の食材や日用品も必要だし』と言って2人を連れだし、事なきを得たのだった。
フライパンや包丁、鍋や食器に食材にと、かなりの量を買い込み、ポイントは【8360】ポイントまで減ってしまった。明らかに使いすぎだったが、ローラが買い物をするのはこれが人生初だったらしく、楽しそうにしていたので今回は大目に見ることにした。
その分次回からは気を付けつつ、僕がこれから頑張れば良いんだから。
そして現在、本日の夕食としてローラの手料理を初めて食べたのが、多少問題はあったものの、味や見た目は思っていたよりもかなり上だった。
「ローラ、ご飯作ってくれてありがとう。美味しかった。これからもよろしくね?」
「うん。そのための私なの! これからも美味しく作るから任せて!」
「うん。期待してる」
《卵の殻は入れないで欲しいけど、美味しかったわ》
……僕のだけじゃなく、リアナの目玉焼きにも殻が入っていたらしい。
「授業初日はどうだったの?」
「楽しかったよ。ステラさんとも仲直り出来たし」
「ステラさんって子と仲直り出来たんだ? よかったじゃん」
「うん。それで父さんとアウル様が昔この学園で狩り勝負をしてたらしくて、今度僕達も同じ狩り勝負することになったんだ」
「そうなんだ? 倒した数で勝負するの?」
「うん。その予定だよ」
《なら私も行く》
「でもそうするとあの時の事追及されそうで怖いんだよね」
「あの時?」
ローラは僕がローラに言ったのかと勘違いし、首を傾げたのでリアナに言ったのだと説明する。
「あぁ、ごめんねローラ。今のはリアナに言ったんだ。今日はローラに思念波送れるように頑張るって言ってたけど、多少なりとも進展はあったの?」
「あったよ」《あったら私の声もローラにも聞こえてるわよ!》
「……どっちなの?」
「リアナちゃんがなんて言おうとしているのかわかるようになったよ! ジーっと見つめてきた時は構って欲しい時なの! お水のお皿を見た時はお水が飲みたい時で、ご飯のお皿を見た時はお腹が減った時!」
「……」
《……》
「……リアナ、あってる?」
リアナは視線を逸らしながら答えてくれた。
《た、たまたまよ》
合っていたらしい。
《そんなことじゃなくて、私はちゃんとローラと話したいの!》
「うん、わかってる。リアナはローラに理解されるのは嬉しいけど、やっぱりちゃんとローラと話したいんだよ」
「きっとすぐ出来るようになるよ! 今日リアナちゃんはスズメと話せるようになったんだよ!」
《話せてないわよ! わらわら集まってきたけど、あいつらの声なんて理解できないわよ!》
……リアナ、どこ目指してるの?
そんなこんなで楽しい夕食も終わり、また明日朝食を作りに来てもらう約束を交わし、ローラにリアナのお風呂を任せて今日は別れた。
そして僕も男子の入浴時間になったので、少し憂鬱ながらお風呂に入る。なぜお風呂が憂鬱なのかというと。
ガラガラガラ
「うわっ!? あれっ!? 時間!?」
これである。
「こんばんわ」
「女の子の時間は――」
「男です」
昨日は同級生に驚かれ、この人は初めて見る顔だったので上級生であろう人物に驚かれる。
女の子が入ってきたと思われて!
僕が浴場に入った途端、下半身を隠すのはどうかと思う。もちろんそんなものは見たくもないので、隠してくれるのは良いのだが……。
そして自身の物を隠した人は、たいてい僕の方をチラ見する。その視線の動きが、胸・下半身と動くのが分かってしまい、とても不快なのだ。その為、湯船に入るまでは下半身にタオルを巻き、しっかり隠してお風呂に入るのだ。
しかし、それを除けばこのお風呂は素晴らしかった。お湯は天然の温泉らしく、浴場の外で沸き出している60℃近いお湯を水車で汲み上げ、浴場内に設置された水路に流し込むことで、湯船に行くまでに適当な温度まで水温が下がるようになっているのだ。
そしてその水路のお湯を汲んで使うことで、体を洗う時わざわざ湯船までお湯を取りに行く必要もない。
十分な広さもあるし、正直ブラッドリー家のお風呂より断然良いのだ。
お風呂から上がって翌日の準備を終え、僕が寝ようと思った頃、リアナが僕の部屋に帰ってきて、僕の布団に飛び込んできた。
「今日も僕の部屋で寝るんだ?」
《今日ローラと一緒に寝たら、またローラが変な夢見て私の尻尾をかじってきそうだもん》
「あぁ、なるほどね」
基本的にローラはちょっとだけ食い意地が張っている。そのローラが数年ぶりに昼食抜きになってしまったのだ。夢に料理が出てくる可能性は少なくないだろう。
「じゃあ寝ようか。お休みリアナ」
《うん。お休みジェリド》
▽
「ん……ぅああ」
窓から差し込む太陽の光で目を覚ます。
……眩しい。どうやら今日も天気は良いらしい。
「起き……ん?」
起きようとしたのに胸の辺りをなにかに押さえられていたらしく、上手く起き上がれなかった。
どうやらリアナが胸の上に乗っているらしい。でもそれにしては重い。
僕は不思議に思い、布団を捲って確認してみることにする。
「………………え?」
コンコンコン
ノックの音が聞えた気がしたが、僕の頭は状況を理解しようと必死で、ノックに反応出来なかった。
「……まだ寝てるのかな? 入るよ?」
入る? 入ると言うことは、この状況を見られるってこと? 見られたらどうなる? ……うん、マズい。
「あっちょっ待って!」
僕は声で必死に静止したが、それは少し遅すぎた。
「おはようジェリド。起きて――」
ローラが扉を開けたまま静止する。そして僕も、上半身を起こし、必死に手を伸ばした状態のまま静止する。
「……」
「……」
互いに固まったまま、言葉を発することすらない時間がしばらく流れる。
先に動いたのはローラの方だった。
ローラは扉を閉めるのも忘れて僕の下まで歩いてくると、僕に抱き着き眠る、裸の銀髪美幼女を指さして、平坦な声と瞳孔の開いた眼で僕に問い詰めた。
「ねえジェリド。この子は誰?」
「だ、誰だろう?」
僕の方が知りたいよ!
さっさと狩り勝負に行きたかったのですが、この後どうしてもこの幼女が必要になるのでご勘弁を。
次話は明日4/14(土)の昼に投稿します。