表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/75

第6話 授業初日

 ゴーン ゴーン


 8時20分になると、校舎に鐘の音が鳴り響き、それとほぼ同時にギルがライを抱えて窓から入ってきた。そしてその数分後、教師と思われる人物が教室へと入ってきた。

 赤い髪に黒い肌、金色の瞳をした20代半ばの170㎝前後の、おそらくは左腕がない、隻腕の男性。


「マルコという。このクラスの担任を任されたものだ。教師の経験はない。基本的には攻撃魔法を教えることになっている。今のお前たちの席順だが、これは学園がお前たちにつけている評価の順になっている」

「私は主席だったのに、なんでここ?」

「この学園の入学試験では、武術や魔法が得意でなくとも、魔力量が高ければ入学出来るよう、魔力量に関する採点が高く設定されている。これは武術や魔法は後から身に着けさせることが出来るが、魔力量を伸ばすのは難しいからだ。しかしこれは先にも述べたように、あくまで門戸を開く為の措置であり、学園の評価とはまた別となる。わかったか?」


 アルベドさんは不満そうに視線を窓の外に向けたが、特に反論する意思はないらしい。


「以降質問がある者は勝手に発言せず、俺達教師から質問された場合を除き、必ず挙手を行い、許しを得てから行え。わかったな?」

「「「「はい!」」」」

「今日は午前中に薬草学とモンスターについての授業、午後からはゴブリンの森にて簡単な演習と試験を行う。試験合格者にゴブリンの森での活動許可を与える。合格するまで付き合ってはやるが、落ちれば落ちた分だけ学園からお前達への評価も落ちることになる。質問があるものは挙手しろ……いないな」


 ゴーン


「ふむ、では引き続き授業を始める」


 マルコさんは教師経験がないと言っていたが、授業の速度自体はゆっくりなのにテンポが良く。教科書を隻腕で持ちながらも、ほとんどそちらに目を向けず、僕達生徒がちゃんと理解できているか? 顔を見ながら授業を行う。しかも文字を書くときは、黒板やチョークを見もせず触れもせず操り、チョークで黒板に文字を書く。


「お前たちがこれからゴブリンの森で活動するにあたり、最も注意すべき植物の一つがユウリカという植物だ。ユウリカはポーションと麻酔、両方の原料になる実を宿す植物だ。ユウリカの実はポーションの原料となるが、ある程度枝を折ったり木を傷つけると、この木は葉や実に弱い神経毒を流し込む。この神経毒は麻酔の原料ともなるのだが、一度毒を流し始めた木からは当分ポーションの原料足りえる実は取れなくなる。毒があるか確かめる方法は3つ。葉の色と臭いと味覚だ」


 マルコ先生はそう言うと、前列の生徒に葉っぱと木の実を幾つか渡し、葉と実をそれぞれ1組ずつ取って後の生徒に渡していくようにと指示を出した。実は同じ物のようだったが、葉の方は片方がツルんと丸みを帯びているのに対し、もう片方は少しギザギザしている。


「今お前たちが持っている実は、隣の者が持つものか自分が持つ物、そのどちらか一方が正常な物で、どちらか一方が神経毒に侵された物だ。まずはその実を割り、隣の物と交換して見比べろ」


 言われたように実を割ってみると、中には白いドロッとした液が入っており、匂いを嗅いでみるとほんのり甘い匂いがした。逆にステラさんと交換した実は、外見は全く一緒だったが、臭いを嗅いでみると少しだけ鼻にツンとする感覚がある。


「見ての通り外見上は全く一緒だ。神経毒に侵された物からは弱い刺激臭がするらしい。とは言え嗅覚に優れた種族の獣人であれば嗅ぎ分けられるらしいが、普通の人間には不可能だ。そのため、味覚によって判断――そこのお前。どうした?」


 マルコ先生が人間には嗅ぎ分けられないと言ったのに対し、僕が反応したのを見られたらしく、マルコ先生が僕に発言を求めてきた。


「あ、はい――」

「発言は立って行え」

「はい」


 僕は言われたように立ち上がり、先生に応えた。


「僕に配られた実からは甘い匂いが。ステラさんに配られた実からはツンとする匂いがしたのですが……」

「では他の実でも試してみろ」


 全ての列の実の匂いを嗅ぎ、刺激臭のする物を答えていく。


「……お前、名は何という?」

「ジェリド=ブラッドリーです」

「ということはお前か。件の獣をテイムしたというのは。ならばおそらくはその影響だろう。ドラゴニールの倅はどうだ?」

「今の俺に――」

「発言は立って行え」

「へいへい」


 ギルが立ち上がりながら先生に答える。


「ライはわかったらしいが俺には無理だ。ライと同化すれば感覚もライ並みになるからわかると思うが、今の状態じゃ人よりちょっと鋭い程度だから、細かい臭いの違いなんてわかんねえよ」

「そうか。座って良いぞ。他に臭いの違いがわかる者はいるか? ――いないようだな。では全員、その実の汁を少量舐め、味を比べてみろ」


 言われたように味を比べてみる。甘い匂いがした方からは甘い味が。刺激臭のした方は舌に触れた瞬間ピリッとした刺激が走った。


「味が違うのはわかったな? 甘い方が本来の物。舌にピリッとした刺激が走る方が神経毒に侵されたものだ。先ほども言ったようにポーションに使えるのは甘い方で、ギルドからの採取依頼が来るのもだいたいこちらだ。基本的には実の味で比べるしかないが、神経毒に侵された実を食べすぎると、体の免疫が間に合わず、痺れを感じるようになるらしい。食べ過ぎても死ぬことはまずない。今日は毒消しの実をやるが、普段は10本で当たりを引けなかった場合はやめておけ」


 少量なら問題ないとしても、毒とわかっているものを平気で食べさせるとは。


「一緒に配った葉の方だが、丸みを帯びている方がユウリカの葉だ。この葉に赤い色が混ざっている物は、数日内に実に神経毒が流されている。この成分が消えるには1か月近くかかるので参考にしろ」


 赤みを帯びたものはその時点でアウト。赤みを帯びていなくても、実に成分が残っている可能性があるから、葉の色は参考程度に。ということか。


「ギザギザしている方がユウリカモドキという植物系モンスターの葉だ。ユウリカモドキはユウリカに酷似した植物系モンスターで、近づきすぎると無数の蔓で攻撃し、捕食しようとしてくる。かなり強いうえ葉以外の外見的相違はなく、倒してもメリットは特にない。葉を見比べ、ユウリカと勘違いして近づかないように注意しろ。あとポーションを作るのに必要な――」


 そんな感じで、ゴブリンの森に自生するユウリカや薬草などの植物とポーションの作り方。ユウリカモドキやゴブリンなどのモンスターについて教わり、午前中の授業は終了した。


 そして午後。僕達はマルコさんの引率の下ゴブリンの森へと向かい、野外演習を行う事となった。


「この演習の合格条件は2つ。1つはポーション作成に使用可能なユウリカの実の採取。2つ目はゴブリン一体を討伐し、その耳を持ってくることだ。1体以上は極力狩るな。そしてこの試験はペア、又はチームで行うものとし、試験中の別行動は許さん。窓側2列はブラッドリーまでが隣同士でペアその後ろ6人は3人ず――」

「はぁ!? なんで私がブラッドリーなんかと!」

「レッドリバー。授業中の発言は求められたとき、又は挙手の後教師に指名されたうえで行え。これは二度目だぞ? 俺は同じこ――」

「そんなことよりなんで私がブラッドリーなんかと組――」

「黙って聞け」


 マルコ先生がステラさんに静かな、それでいて強い口調で注意を促したその瞬間。僕の全身の毛が総毛立ち、呼吸が乱れて思わず膝をついてしまった。そしてそれは僕だけではなく、クラスのほぼ全員が同様かそれ以上の状態だった。一部は過呼吸に陥ったり、その場で嘔吐したり気絶してしまった生徒もいる。


「おいおい、すげぇなこりゃ」

《寝起きのオヤジくらいやべぇ》

「えぇ、こんな怒気。あの子クラスだわ」

「へぇ? お前もこんなの出す奴他にも知ってんのか?」

「……」


 平気そうにしていたのはギルとリリー、アルベドさんだけで、それを向けられたステラさんは……


「……やる気?」


 むしろステラさんの方がやる気満々の臨戦態勢に入っていた。


「この学園において、爵位を笠に着た行動は禁止されている。そして授業においては教師に従うのがこの学園のルールだ。お前とブラッドリーとの関係など知るか。文句は許さん。……もし俺とやりたいのなら、退学するか卒業してからにしろ」

「笠になんか――」

「ステラ」

「っち、わかったわよ」


 アルベドさんに窘められ、ステラさんは渋々と言った感じで引いた。


「俺は同じことを何度も聞かせるのは好まない。――それはそうとアルベド。すまないが気絶した者や体調を崩した者達を起こして治療してやってくれないか? 報酬は300ポイントだ」

「わかった。だけど教師になったのなら、ちゃんと後先考えて行動して?」

「善処する」

「先生」

「なんだキルヒアイゼン」

「私も治癒魔法が使えるので、お手伝いします」

「いや、アルベドだけで充分だ。先ほどの説明の続きだが、ブラッドリーの後ろ6人は、前3人後ろ3人で1組。真ん中の列は前から4人ずつ。廊下側は前5人と後ろ6人で試験に臨んでもらう。合格条件は1組に付き1つずつ制限時間は30分。合格した持ってくること。合格者には証明書を渡すので、それを受け取り次第帰って良い。この証明書をギルドに提出することで、ドラゴニール、キルヒアイゼン。試験開始だ。行け」

「わかりました。行くわよギルバート」

「へいへい。行くぞライ。実の方は任せた」

《任せろ!》


 そんな感じで試験は始まり、リリー達はものの数分であっさり合格し、アルベドさん達も10分ちょっとで合格した。

 ……問題は僕達だ。


「よし、ではレッドリバー、ブラッドリー。試験開始だ。行け」

「はい」

「……」


 僕とステラさんはただでさえ関係が微妙なのに、さっきの騒動でステラさんはあからさまに気が立っている。


「ステラさん。ゴブリンがどこにいるのかわからないし、まずはユウリカの実を探しつつ、ゴブリンが居たら狩る。っていうことで良い?」

「……」


 また無視ですよ無視。……どうしろっていうのさ?


「はぁ。ふっ――」

「えっ?」


 ステラさんがいきなりすごい速度で走り出し、僕を置き去りにしようとする。


「はぁ、本当に……なんなのさ!」


 ステラさんを必死に追いかけると、ステラさんは意外とすぐに止まってくれた。


「試験はペアで――」


 追いつきステラさんに一言言ってやろうとすると、ステラさんの足元に一体の絶命したゴブリンが転がっている。


「ゴブリンは私がやったから、実はあんたが探して」


 なるほど、試験であっても僕と協力する気はないと。そのくせ面倒な木の実探しは全部僕にやらせると。


「なんでそんなに僕。というよりブラッドリーが嫌いなの?」

「一回家に戻ったんでしょ? 大好きなお兄ちゃんに聞いてないの?」

「聞いたけどわからなかったよ!」

「……あぁそう。弟に嫌われたくなくて隠したんだ」


 僕が少し声を荒げて問いただすと、逆にステラさんは寂しそうに声を細めた。


「……本当に兄さんがなにかしたの? ステラさんの勘違いとかじゃなくて?」

「……驚いた。私が悪くなるんだ?」

「……ごめん。本当になにがあったのか僕は知らないんだ。僕は兄さんからの話しか聞いていないし、本当に兄さんが悪かったのなら僕も謝るから。だからお願い。なにがあったのか教えて?」

「……じゃあ私と勝負しない?」

「勝負?」

「父さんとあんたの父。ブラッドリー子爵は、学園生時代に色んな勝負を繰り返してたみたいなんだ」

「うん。その話は父さんから聞いてる」

「その時の最初の勝負が槍での勝負。二回目がゴブリンの森でのゴブリン討伐数勝負だったらしいの。槍での勝負は剣でしたし、ゴブリン討伐勝負をしてみない? なにがあったのかは勝っても負けてもその後教えてあげる」

「……なんでいきなりそんなに優しくなったの?」

「実は私、元々あんたのことは嫌いじゃないんだ。どっちかって言うと、あんたの話を父さんやアルベドから聞いてワクワクしてた」

「ワクワク?」

「小さい頃から父さんに、あんたの父親と父さんの話を聞いてきて、私にもそんな相手が現れたら良いなって、ずっと思ってた。入学が近づいた時、ブラッドリー子爵に庶子がいることがわかって、その庶子があんたの兄とは違って誠実な上、私達並みに強いらしいって聞いてワクワクしたんだ」

「聞いたって誰から聞いたの?」

「アルベドと父さんから。アルベドの方は『お姉ちゃんからの手紙に書いてあった』って言ってた。本当は仲良くしたかったんだけど、ドラゴニールにい、板胸って言われてムカついて最初の挨拶は失敗するし、あんたが父さんが聞き耳立てて見てる前でアウラのことを好きとか言うから、思わず……」


 あぁ。リリーが有名だと言うくらいブラッドリー(兄さん)嫌いを公言していたのなら、親の前でそのことを持ち出し、兄さんを好きという僕と仲良くはしづらかった。と。そしてその後も引っ込みがつかず、あんな態度を取っていた。と。正直色々言いたいこともあるけど、反抗期ってやつだったのかな? 意外と可愛いところもあるじゃん。


「ならなんで今教えてくれないの?」

「もうすぐ10分経つ」

「なるほど。じゃあ狩り勝負が出来るように、さっさと合格しちゃおうか」


 僕がそう言いつつステラさんに手を差し出すと、ステラさんがその手を弾く。


「……なんで?」

「いきなり仲良くなったら変でしょ? 私たちは勝負を繰り返し、徐々に仲良くなるの。わかった?」

「………………うん」


 これも、お年頃ってやつなのかな?


「じゃあ行くわよ? さっさと木の実を探しなさい」

「結局僕が探すの?」

「私に毒を食べさす気?」

「木を探すくらいは――」

「頑張れ犬鼻」

「リアナが聞いたら怒られるよ?」

「そう言えばあんた。あんたこそあのと――」

「さぁ頑張ってユウリカの木を探そうか」

「あっ!? 逃げるな!」


 そんなこんなで僕達は、無事に試験に合格した。その後、仲良くなったステラさんと仲の悪い演技をしつつ、喧嘩のようなやり取りで休日に狩り勝負を行うことを他の生徒の前で約束して別れた。そして今は、僕がヒュウム君を待ちたいと言ったため、2回落ちたヒュウム君の合格を、ライ・ギル・リリーと一緒に待っているところだ。


「よかったわね。ステラさんと仲良くなれて」

「えっ!?」

「え? じゃねぇよ。演技するなら脚本くらい決めとけよ。喧嘩の流れが不自然すぎだったぜ?」

「えぇ、どちらが言い出すかくらいは決めておくべきよね?」

「……みんなにバレたと思う?」

「チビにはバレてたな」

《あとあの陰気なイケメンにもバレてたと思うが、他の奴らはそれどころじゃなかったみてぇだから大丈夫じゃねぇか?》

「えぇ、気付いていたのは私達だけだと思うわよ? でも次はダメでしょうね」

「……どっちの演技がダメだった?」

《「お前」》「ジェリド」


 僕、演技派だと思ってたのに……。ごめんねステラさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語』下記のリンクから読めます。自信作ですのでこちらもぜひお願いします

https://t.co/OdPYRvFC5n

上のリンクをクリックすると読むことができます。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ