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第5話 王立学園

 朝食後、僕は一度部屋へと戻り、真新しい学生服に袖を通す。

 上下黒のしっかりとした生地の5つボタンの服で、着ると心も引き締まるようだった。

 着替える間、外で待ってもらっていたローラとリアナに入って貰い、感想を聞いてみる。


「どう?」


 リアナはその問いに、


《あんなに小さかったジェリドが、立派になって……》


 と、どこで覚えたのかよくわからない小ネタで返され。ローラには、


「スッゴく似合ってるよ! 七五三みたい!」


 と、あまり嬉しくない言葉で褒められた?


 その後、僕はローラとリアナに別れを告げ、ギルとリリーとの待ち合わせ場所である寮のホールへと向かった。


「おはようジェリド」

「おはっ!──よう。リリー」

「どうしたの?」

「な、なんでもないよ。ギルはまだ?」

「えぇ。それよりジェリド。その制服。よく似合ってるわよ」

「リリーこそ」


 リリー達が着ている女子生徒用の制服は、白いワンピースに黒いベルト。裾や袖には黒いラインが幾つか入り、銀色のボタンが5つついている。ワンピースの丈は膝上までとかなり短い。

 可愛らしいのにきっちりした印象を受けるデザインの制服で、とてもリリーに似合っている。というか似合いすぎている。


 この制服のデザインは、男女ともに辺境伯が行っており、来年入学する生徒の制服からデザインがまた変わるらしいので、この制服はリリーの為にデザインしたものであり、来年からの制服はアリシアちゃんとエリシアちゃんの為にデザインしたものだと、僕はこの時確信した。


 制服のデザインについては、辺境伯がデザインするようになってから、数年毎に変更されてきたらしい。

 王国貴族には露出の多い服装を破廉恥と見る風潮がある。その為、ラフな服装を好む獣人族や、ドラゴニールの人達のことを、服装だけで見下し、トラブルに発展。というケースも未だに多い。

 この数年毎の制服のデザイン変更は、王国貴族の緩やかな思考改革の一環なのだそうだ。


「そ、それにしてもギル遅いね」

「えぇ。あぁ見えて彼、約束は守るタイプだと思うのだけれど……」


 正直リリーが可愛すぎてリリーをあまり直視出来ない。

 ギル。早く来て!



  ▽



 結果的に僕は、リリーと2人でかばん片手に登校した。このかばんは、教科書を貰った時に一緒にもらったもので、中には教科書や筆記用具が入っている。

 ローラ達を置いてきたのは、授業に使用人を連れていくことも出来るんだけど、今年使用人を連れてきたのは僕とリリーとアルベドさんだけらしく、リリーはレイラを連れて行く気はないらしいので、僕もそれにならった形だ。


 昨日ヒュウム君達も一緒にと誘ったんだけど、ギルやリリーとも一緒に登校する予定だということを話したら辞退されてしまった。

 在学中は原則、爵位などによる差別は禁止されている。とは言え、公爵家。特にテトラ王国の象徴たる四大公爵家と、初対面でいきなり一緒に登校なんてしたら、緊張で倒れるかもしれないとかなんとか。

 僕から見たギルは、確かにとっても強いけど、それ以上に陽気で優しいヘタレの印象が強い。そのため、今では緊張とは無縁な存在だ。


 ちなみに一緒に登校するはずだったギルが居ないのは、ギルが寝坊したからだ。あの後緊張のせいか間が持たず、すぐにギルを呼びに行ったのだが、ギルはライと一緒にまだ寝ていたのだ。

 起こすと今から着替えて朝食を食べると言い出したので、仕方がないのでリリーと二人で登校したのだった。


 王立学園は、その敷地の全周を、高さ2mを超える大きな壁で覆われている。

 出入口は学園の南側にある大きな正門と、北側にある裏門だけだ。そしてこの壁には特殊な魔法が込められていて、中から壁を越えて外に出ることも出来るが、外からは正門と裏門以外からは入れないようになっているらしい。もっとも、壁を越えて校外に出たりするのは校則違反だからする人はいないと思うけど。


 学園の敷地内には、広いグラウンドと大きな校舎、昨日使用した大きな会場に立派な屋敷などが立っている。

 校舎の中は綺麗に清掃が行き届いており、建物自体は古い木造のはずなのに、あまり古さを感じさせない。

 校舎は2階建てで、僕達生徒の教室や特別教室の一部は2階にあり、職員室や理事長室、特別教室のほとんどは1階にある。ちなみに、特別教室のほとんどは使用人教育の為の教室だ。


 教室の並びは西側から、1S・1A・1B・1Cで中央階段を挟み、2C・2B・2A・2Sの順に並んでいる。

 Sクラスが両端にあるのは、将来的にここで学んだ生徒をスカウトする貴族が現れやすくするためらしい。学園は就職先の斡旋などは基本的にはしない。優秀な生徒に声をかけることはあるらしいが、一人の一人の就職の面倒などは見ないのだ。面倒を見ない代わりに、自ら実力を示し、貴族となる生徒や商人に、アピールする場と機会を提供するのだそうだ。


 階段を上ってから自分達の教室に着くまで、他の教室も歩きながら覗いてみたが、どの教室ものつくりは同じで、机や椅子も簡素なものだ。クッションや肘置き等はなにもなく、使われている木も一見して安物だとわかるものだ。そしてそれは、僕達の教室も同じだった。生徒の何人かは不服そうにしていたが、僕らの少し前に来ていたらしいアルベドさんが席に着いたことで、渋々席に着いた。


 教室の出入り口は、階段から見て手前と奥の二つがあり、奥の方に黒板があり、その黒板に向かって机と椅子が2組1セットで3列並んでいる。これは他の教室も同様だったのだが、他の教室とは違う所が一点。


「席は決まっているようだけど、僕たちはみんな近いみたいだね」

「えぇ、どうやらそのようね」


 黒板には座席の番号がランダムに書かれていた。

 それによると僕の席は、一番窓際の列の右側で、黒板からは3番目の席。アルベドさんの斜め後ろの席だ。リリーは僕の2つ前の席で、ギルがその左隣の席。廊下側の最前列に座るヒュウム君やレミアスさん。3列目の最前列に座るフェデラー兄弟とは離れてしまった。フレイヤさんはまだ見ていないのでわからない。


 僕達はそれぞれ一旦席に付き、かばんを置いて机の引き出しに教科書をしまう。黒板の横には高さ2m程の大きな時計が置かれており、それによると現在の時刻は8時10分。授業は8時30分からだけど、連絡事項がある場合もあるので、8時20分までに登校するようにオリビアさんからもらった冊子には書かれていた。


 ――ギル、間に合うのか?


 そしてそんな心配をしていると、僕の隣に座る生徒がやってきた。


「おはようアルベド。えぇっと、私の席は……窓際の3列目。アルベドの――ゲッ! ブラッドリーの隣?」


 『ゲッ』と失礼なことを言ったのは、受験番号31番のステラさんだ。正直僕も、座席表を見た時同じことを思ったけど。『ゲッ』て口に出すなんてひどくない? ステラさんが席に着こうとかばんを置いたので、とりあえず隣の席の人間として、僕からステラさんに話しかけることにした。


「おはよう。ステラさん。これからよろしくね?」

「……ねぇアルベド、寮のご飯食べた?」

「食べてない。全部リザが作ってくれる」

「あぁ、メイド連れてきたんだっけ?」

「うん。リザに頼んでついて来てもらった――」


 ステラさん。今、僕をわざわざ一瞥してからアルベドさんに話しかけた。

 これ見よがしな無視ですよ無視! そんな姿を見て、リリーが僕を廊下に連れ出し、しょうがないなぁ。という感じの、優しい口調で話しかけてくれた。


「嫌われてしまったみたいね」

「……でもあそこまで露骨に態度に出さなくても良いと思わない?」

「ステラさんとアウラさんの間に、昔なにかがあったらしいわ。私もステラさんのブラッドリー嫌いの噂は聞いたことがあるし」

「でも兄さんは覚えがないって言ってたよ?」

「そうなの? 変ね、少なくともなにかはあったのだと思うのだけれど……」

「あっ、おはようヒュウム君」


 そんな感じで話していると、僕達がいる黒板側とは反対の出入り口からヒュウム君が出てきたので、彼を呼び止め、リリーに紹介することにした。


「あぁ、おは――」


 ヒュウム君はリリーが僕の横にいるのを見て、凍ったように扉の前で動きを止める。


「リリー、紹介するね? 彼はヒュウム君。昨日の演舞の時に出来た友達で、同じクラスのフレイヤさんの恋人? ナチュラルに失礼なところがあるけど、根は良い人だと思うから、仲良くしてあげてね?」

「は、初めまして。リリアーナ=キルヒアイゼン様。僕はヒュウム=スリンガーと言います。リリアーナ様の叔父上にはいつもお世話になっています。ってジェリド! ナチュラルに失礼な奴ってなんだよ!?」

「初めましてヒュウムさん。リリアーナ=キルヒアイゼンです。ジェリドと仲が良いのね。私とも気軽に接してもらえると嬉しいわ」


 そんな感じでお互いに自己紹介をしてもらった。ヒュウム君は最初緊張していたみたいだけど、僕の起点の効いた紹介もあってか、幾分緊張はほぐれたらしい。

 ヒュウム君はどうやらトイレに行くところだったらしく、僕も付き合うことにした。記憶にある中では初めての連れションだ。


 トイレは中央階段の1年生側に男子トイレが、2年生側に女子トイレがある。

 男子トイレには、小便器が12個と個室が6個あった。僕はヒュウム君と並んで小便器の前に立ち、ズボンのチャックを開いて用をたそうとし、不意にどこからかの視線を感じて辺りを見回すが、ここには僕達以外誰もいない。


「ん? どうしたんだ? 小便しながらキョロキョロして?」

「なんだか視線を感じた気がして……」

「視線? 女顔だからほんとに男かどうか覗かれたんじゃないか?」

「でも僕達以外誰もいないし……というか失礼だよ!」

「まぁ良いじゃん? それよりそろそろ時間だから急ごうぜ?」

「あっ、うん」


 そしていざ出そうとして下を向いた時、僕は便器の中にキラキラしたつぶらな瞳で僕(正確にはあれ)を見つめる生物を発見し。


「うをわあぁぁあ!?」

「あっ、馬鹿あぶない!」


 僕は思わず一歩後退り、用を足している真っ最中のヒュウム君に僕の腕が当たり、ヒュウム君が焦ったのだ。


「なにしてんだよ!? 小便してる時に暴れんな! 危うくかかっちゃうとこだっただろ!?」

「まだ出してないよ! それより便器になんかいる!」

「なんかって……あぁ、スライムじゃん?」

「『スライムじゃん』って? なんで普通にしてんの!?」

「なんでって、最近じゃ珍しくもないだろ? うちにもいるし」

「なんで!?」

「生ゴミは食べて分解するし、トイレも勝手に掃除してくれるから、ここも人が掃除するよりよっぽど綺麗で臭いもしないだろ?」

「た、確かに綺麗だけど……」

「早くしないと触手で搾り取られるぞ?」

「なにを!?」

「その小さいのを」

「見ないでよ!」

「見ないでって出したままで言われても――」


 ……それは確かに僕が悪かったかもしれない。でもそうか……僕のは小さかったのか。人のを見たことがなかったから知らなかった。

 ちょっぴりショックを受けながら別の便器をチラリとみたが、そこにもスライムさん達がスタンバっていたので、僕は諦めてその場で用を足すことにした。終わった後のスライムさんは幸せそうだったけど、僕はなるべく学園内のトイレは使用しないことを心に決めるのだった。

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