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第4話 勧誘

 コンコンコン


「どうぞ」

「おはようジェリド。昨日はどうだった?」

「……うん。部屋に入ったら3人とも土下座してた」

「土下座!?」

「うん。しかもあれから消灯間際まで約1時間、僕がいくらもう良いって言ってもずーっと正座で頭下げっぱなし。参ったよ。あれが本当の誠心誠意ってものなんだろうね。『これからは自然に接してくれないと僕が困る』って言ったんだけど、あの感じだとどうなんだろうね?」

「あはは……。朝食はジェリドがここの料理を食べてみたいって言ってたから、ここの食堂で食べるけど、夜は私が作るから任せてね!」

「うん。期待してる。じゃあ行こうか? リアナも起きて。さ、行くよ?」

《……いつもより1時間は早いじゃない。もう少し寝かせてよ》

「そうしたら僕達は食堂を離れてリアナは朝食抜きになっちゃうよ?」 

《……鬼》

「リアナ。朝食抜きね」

《……行く》


 そんな感じで、僕達は食堂が始まる午前6時に合わせて食堂へと向かった。

 なぜそんなに早くから食堂へ向かったのかというと、それは周りの目を気にしたからだ。

 食堂の料理がどれくらい美味しいのか? それを確認するため、一度一番高い25ポイントの料理を3人で食べることにしたからだ。


 この学園で生活するうえで、ポイントというのはかなりシビヤなものとなるだろう。その為、ポイントに余裕があるからと言って豪遊すると、節約しようとする人から見て、あまり良くは思われないはずだ。だから初日に一回だけ、まだあまり人が集まらない時間にこっそり皆で食べてみよう。ということだ。


 あと、ローラが僕に対して『様』を付けなくなったのも、僕がやめてくれと言ったからだ。

 本年度の入学生の中で、使用人を連れてきたのは僕とリリーとアルベドさんだけだったのだ。そしてこの学園では、生徒間の敬称は基本的にあまり好まれない。


 将来的には誰かの派閥に入る者もいるだろう。誰かの家に仕える者もいるだろう。しかし、『学園の生徒である間は対等』というのが、貴族や商人・優秀な使用人を育て、新たな貴族の発掘を目的に作られたこの学園の設立当初からの方針だからだ。とはいえ、まだあまりよく知り合ってもない下位の貴族が、いきなり『やぁアルベド。君は本当に学園で一番小さいね?』とか、『やぁステラ。君の胸は本当に洗濯板みたいだね』という感じで、フランクに話しかけられるわけではないが。寮と学園で一緒に生活していくうえで、徐々に取り払われていくらしい。そんな中、使用人からとは言え、『様』付けで呼ばれているのは浮いてしまうことになる。その為、ローラに『様』付けを禁止したのだ。僕としてもその方が性にあうっていうのもあったしね。


 食堂につくと、そこにはすでに上級生と思われる男子生徒が5人と女生徒2人が、食事を取るわけでもなく3・4に分かれて席に着いており、その全員が、食堂に現れた僕達に、観察するような視線を向けてきたので、僕達はとりあえず会釈で応じた。


 4人のグループは、男3人女が1人で、なぜか僕達を見て悔しがり。対照的に男2人と女が1人のグループは喜んでいる。

 ちなみに全員美形だ。貴族というのはなぜか美形が多い。


「ねぇジェリド。あの人達ずっとこっちを見てるよ? なんだろ?」

「さぁ? なんだろうね? 考えてていも仕方がないし、とりあえず朝食を貰いに行こうか」

「はぁい」

「ZZzz」


 配膳所の前には、オリビアさんが鍵の束を持ち、ニコニコしながら立っている。

 僕達はそこまで行って朝の挨拶を済ませると、オリビアさんに「どれにする?」と聞かれたので、「25ポイントの食事を3つ」と答えた。するとオリビアさんは、鍵の束の中から25と書かれた物を選び出し、僕の腕輪マネーリングの横にあった鍵穴に、その鍵を差し込むと、右に90度回しては戻すという行動を3度繰り返し、オリビアさんの横に積まれていた赤白黒の3色のトレイの中から、黒のトレイを取って僕達に渡してくれた。


 リアナは元々トレイなんて持てず、そもそもまだ器用にローラの肩で寝ているので、僕がトレイを2つ、ローラが1つ受け取った。

 腕輪を見ると[13925]と表示が変わっていたので、どうやらポイントはああいう鍵を使って使用するらしい。


 今日の日替わりランチのメニュウは、ハンバーグとサラダ、コーンスープに白パンというラインナップで、とってもおいしそうだ。

 配膳してくれたのは、シャルちゃんとはまた別の獣人の女の子でクムと言い、この寮の配膳係と冒険者ギルドの受付も行っているらしい。

 どんな人が料理を作ってくれているのだろうと思い、クムちゃん越しに調理場を覗いた。


「……ポルターガイスト?」


 そこに人の姿はなく、フライパンやオタマ、包丁などが、ポルターガイストよろしく独りでに飛び回り、忙しそうに調理を行っている。


「そだよ。ここの料理は全部精霊さんが作ってくれてるから、材料置いてあとは全部精霊さん任せ。なにを作ってくれるかは精霊さん次第だけど、すっごく美味しいよ! ここで毎日3食食べ続けてる私の保証付きだニャン!」


 そう言ってクムさんは、あざといポーズをとるのであった。


 席に着こうとした時、先程の3人の方のグループから手招きを受けた。

 無視するわけにもいかず、僕達は呼ばれたその3人と同じ席に着いた。


「初めまして。アルベドさん。私はエレナ。こっちの2人はリュックとサック」

「初めまして。リュックです」

「サックです」

「実は私達――」

「ちょっと待ってください! 僕、アルベドさんじゃないですよ?」

「「「えっ?」」」

「まず第一に、僕は男です!」

「「「……」」」


 3人は僕の足の先から頭の天辺まで、舐めるように視線を上下させ、その後僕に聞こえないように小声で話し始めた。もちろん、耳の良い僕には筒抜けなんだけど。


「誰よ! この子がアルベドだって言い出したの!」

「エレナだよ! 今年メイドを連れてきた女の子は、着せ替えRのリリアーナさんとアルベドさんだけだって言ってたじゃないか!」

「じゃあこのチビがブラッドリーなんじゃないか?」


 おいサック! 今なんて言った!?


「そ、そうね! 男で使用人を連れてきたのはブラッドリーだけだって聞いてるわ」

「確かあいつ、ブラッドリーはレッドリバーと引き分けたって言ってたよな? 流石に手を抜いたんだろうけど、それなら十分欲しい人材だ。つかなんでこいつこんななりで男なんだよ……。はぁ、こいつが女だったら。いや男でもこれなら――有りだな」


 女だったら何なの!? というか男でも有りって何!?


「気持ち悪いこと言わないでよ」

「男色は貴族の嗜――すいません」

「とりあえず勧誘するわよ? 成功しても変なこと考えるのは禁止だからね!?」

「あぁ」


 3人が僕に向き直り、改めてエレナさんは僕に向かって話し始めた。


「ごめんなさいね。あなたがとっても綺麗でメイドまで連れていたから、てっきりアルベドさんだと思っちゃったの。あなた、もしかしてブラッドリー家の方?」

「はい。僕はブラッドリー家次男のジェリド=ブラッドリーです」

「昨日あなたの同級生に、あなたの話も聞いたわ。あのレッドリバーさんと引き分けたんですってね?」

「……いえ、手加減されたうえ反則負けになるところを、引き分けにしてもらっただけです」


 事実そうだ。あの時ステラさんが止めなければ、アウル様は僕の反則負けをコールしていたはずだった。


「でもあなた、魔力はアルベドさん並にあって、しかもレッドリバーとのその試合も大善戦だったって聞いたわ。そんなあなたに一つお願いがあるの」

「なんでしょうか?」

「私たちのチームに入ってくれないかしら?」

「チーム?」

「この学園では、年に数回5人1組のチーム対抗で行われる試合や、チームで参加可能な行事があるの。そのチームメイトに優秀な新入生が欲しくて、声をかけているの。あっちの4人もその口ね」


 エレナさんの話を纏めると、エレナさん達も去年、今の僕のように上級生に声を掛けられ、上級生とチームを組んだ。そしてギルドの受付を上級生と同じ人物に変更。新入生だけでは試験に合格するまで入ることすら許されないダンジョンに連れて行ってもらい、上級生と一緒にポイントを稼いだり、魔法や技術を教えてもらった。そして現在では、成績は3人とも上位になれたのだそうだ。


「それで、どうかしら?」

「申し訳ありませんがお断りさせていただきます」

「どうしてかしら?」

「受付になってくれた子のことを気に入っていますし、チームを組むなら一緒に入学した友達や、新しく出来た友達と組みたいので」


 それに僕をチビと言った奴のこともあるし、なにより男色さんに狙われたくない!


「そう。気が変わったらまた言ってね?」

「はい」


 その後、もう片方のグループからも声を掛けられ、謹んで辞退したのだが、気付いた時にはもう皆食堂に集まり始めていた。


 早くに来て目立たないようにコッソリ食べよう。という僕の作戦は見事に失敗し、すっかり冷めてしまった朝食を、僕はお代わり3回目のローラと共に、食べ終わってからまた幸せそうに二度寝したリアナを太股に乗せながら食べるのであった。

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