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第1話 入寮

 誕生パーティーの翌日、僕達は王立学園のあるヴァーウェンへと戻ってきた。

 辺境伯領へ向かった時は、リアナに僕とローラが、ギル達にリリーとレイラが乗っていたが、帰りはリアナに僕と兄さんが、ギルに残りの3人が乗り、ヴァーウェンの街門の手前まで運んでもらい、今は僕と兄さんの二人で王立学園の正門前まで来ていた。


「送ってくれてありがとう。ここでいいよ」

「わかりました。……そう言えば兄さんたちはどちらに住まわれるんですか?」

「学園長にお聞きするまではまだよくわからないんだけど、学園の敷地内に教師用の寮があるから、多分そこに行くことになると思うよ?」

「寮では自炊されるのですか?」

「いや、王立学園の教師用の寮には専任のコックやメイド達がいたはずだから、僕達は教育や自身の研究に没頭できることになっていたはずだよ」

「婚約の印に自作のチョーカーまで渡したくせに、数日で単身赴任。ソシアさんも可哀そうですね。兄さん。綺麗なメイドがいても、浮気だけはしないでくださいね?」

「するわけないだろ。ジェリド、君、誕生日から少し僕に対する当たりがきつくないか?」

「気のせいですよ兄さん。兄さんが心配する僕を騙してニヤニヤ笑っていたんだとしても、僕は気にしていませんから」

「相変わらずだね? 嬉しかったのなら嬉しかったとだけ素直に言えば良いのに。そういうところ、余計に子供っぽく見えるから直した方が良いよ?」


 兄さんのその助言に、僕は笑顔で答える。


「わかりました。アウラ先生」


 ――コツン――


「君は勉強よりもまず、性格を直すべきかもしれないね」

「……そうかもしれませんね。」

「またね、ジェリド。これからは教師として接していくから、そのつもりでいてね」

「わかりました。兄さんの授業、楽しみにしています」


 兄さんはニッコリ笑いながら手を振ると、そのまま正門をくぐって校舎の中へと入って行った。


「……また、言えなかったな」


 今回辺境伯の屋敷からヴァーウェンへ戻る際、リアナに乗るのを僕と兄さんの二人にしてもらったのも、その後兄さんを王立学園まで僕一人で送りに行ったのも、全ては自分の中にいる誰かのことを兄さんに話すためだった。

 僕の中にいる彼のことは正直怖いけど、彼の感情をあの時感じることが出来たから、それ以上に僕のことを大事に思っていてくれていることはなんとなくわかった。だから勇気を出して兄さんに話そうと思ったんだけど――。


《結局言えなかったんだ?》

「来ないでって言ったのに……」

《良いじゃない。ジェリドがいないと私達、寮にも入れないんだから》

「そうだったね。ローラは今どうしてるの?」

《リリー達と話してる。ライ達は先に受付済ませて自分達の部屋に行ったわ》

「そうなんだ。じゃあ待たせるのも悪いし、さっさと戻ろうか」



 ▽



 学園寮に行くと、寮の前にはローラだけがポツンと立って待ってくれていた。


「ごめんね、待たせちゃって。リリー達は? 一緒じゃないの?」

「うん。一緒に待っててくれるって言ってくれたんだけど、悪いから先に受付済ませてって頼んだの」

「そうなんだ。待たせてごめんね? それとありがとう。じゃあ僕達も行こうか?」

「うん」


 観音開きの寮の玄関を開けると、左側には6人掛けのテーブルとソファーのセットが6組ほど並んでおり、右手には受付カウンターのようなものと、そこに入るための扉がある。そして正面には階段があり、受付カウンターの先には右へと曲がる廊下があった。その廊下に張られた紙には、男子と女子のお風呂の使用時間について書かれているので、おそらくあの先にはお風呂があるらしい。

 そんな風に辺りを見回していると、廊下から20代半ばの綺麗な女性が現れ僕に声をかけてきた。

 身長は170㎝前後とかなりの長身で、柔和な笑みを浮かべた腰まで伸びる綺麗なストレートヘアの女性だ。


「あら、新入生?」

「はい。ジェリド=ブラッドリーと言います。そしてこっちはリアナとローラといいます。あなたは?」


 リアナを抱いているローラが、リアナの頭を手で一度下げさせ、リアナを床におろしてから自分も綺麗に一礼した。リアナは僕にブーブー言ってきたが、もちろん無視だ。


「私はこの寮の管理人のオリビア=ディザイア。以後よろしくね? 入寮手続きでよかったかしら?」

「はい。お願いします」

「あなたはこの子のメイドさん?」

「はい。先ほど主からご紹介いただきました、メイドのローラと申します。お世話になります」

「その中にいるとき以外、私は優しい寮母さんだから大丈夫よ? 仲良くしましょうね」


 オリビアさんがドアを開けてカウンターの向こう側へと回ると、一転。真面目な表情で説明を始めた。


「王立学園の学園生に適応されるポイントシステムと、この寮についてのご説明をさせていただきます。質問は後程まとめて伺いますので、まずは私の説明をお聞きください」

「わかりました」

「まず、学園生は全員各クラスごとに寮に入寮していただくこととなっており、こちらは選抜コース専用の寮となりますが、ジェリド様は選抜コースの学生様でお間違えございませんでしたか?」

「はい」

「では始めます。ヴァーウェンにいる間、王立学園の学園生はお金を使うことが禁止され、これからはポイントシステムを利用して頂くことになります。これは、この学園の目的の一つが貴族育成であるためです。テトラ王国は自分で働いて稼ぐことの大変さを知らぬ者が上に立つことを良しとしておりません。ですのでもし現在現金をお持ちでしたら、今ここで私にお渡して下さい。なにかお持ちですか?」

「はい。お金を少し」


 僕が巾着袋を取り出してオリビアさんに手渡すと、オリビアさんは名前を書いた紙を張り付け、金庫の中にしまってカギをした。


「こちらは退寮時のお返しとなります」

「わかりました」

「ではこの寮についてご説明いたします。この寮の寮費は、一人毎月2000ポイントとなり、これを月末にお支払いいただくこととなっておりますが、もしお支払い頂けなかった場合は退寮。そして退学処分となりますので、お気を付けください」


 料金滞納者は即退学ということか、なかなか厳しい条件だ。


「お風呂は無料ですが、飲食代は有料です。そちらの食堂でお食事をなさる場合、一食10ポイントでパンが食べられ、15ポイントでスープが付き、25ポイントで日替わり定食がお代わり自由で食べられます。

 ご自身で料理をなさる場合、各部屋にキッチンがございますのでそちらをお使い下さい。

 ポイントの支給についてですが、選抜コース以外のコースは毎月学園から3000ポイント支給されますが、選抜コースは傷病時などを除き月ごとの支給はありません。今回は入学祝いとして2000ポイント。試験での評価ポイントをジェリド様は――上限値である10000ポイントと、次席合格によるボーナスで2000ポイント獲得されており、こちらがポイント管理用の腕輪となります」


 オリビアさんから6桁のダイアルがついた大きめの青い腕輪を渡される。

 腕輪の側面にはカギ穴があり、現在ダイアルの数字は[014000]となっており、ダイアルの上には[S-35]と書かれている。


「この腕輪は色が学年、ダイアルの上の番号が持ち主、ダイアルの数字が残りポイント数を意味しています。使用方法や注意事項については、後程お渡しする冊子をご覧ください。そちらにも書いてありますが、不正は必ずバレるうえ、即退学になりかねないのでお気をつけ下さい」


 僕の現在のポイントが14000だから、寮費だけなら7ヶ月分。あと『不正は必ずバレる』か。


「次に、ポイントの獲得方法ですが、ポイントの獲得方法は大きく分けて3つあります。1つ目は冒険者として稼ぐ方法。こちらが基本となるポイントの獲得方法です。冒険者ギルドに登録し、依頼をこなし、その依頼に応じたポイントを得る。

 2つ目は学園主催のイベント等でポイントを獲得する。こちらは学園祭や武術大会、研究発表などでポイントを獲得する方法となります。

 3つ目が自力で入手した物や、それを元に自作した物を販売し、ポイントを得る方法。これは寮内であれば私が、それ以外ではこの学園の教師か各ギルドの買取担当者が良いと判断した場合のみ販売可能となります。学園領を使用人やペット・魔獣(一時的な召喚獣除く)などが使われる場合、その費用はそれらの主が負担する決まりとなっております。使用料は一生物につき1000ポイントとなりますのでお気を付けください」


 ……つまり僕の場合、寮費だけで毎月4000ポイント必要になるってことか。


「最後に寮の規則などについてお話しします。こちらをどうぞ」


[祝・入寮おめでとう! 絶対順守! オリビア寮の寮則]と、可愛らしくカラフルな丸文字で書かれ、3枚の紙に纏められた冊子を渡される。


「そちらの内容は1枚目がポイントの説明ですので、そこを除き簡単に説明させていただきます。

 王立学園の学生寮は、学年・家柄・性別などは関係なく、そのコースごとに建てられております。これは爵位の高低などにとらわれることなく交流の場を設けることで、学園生達が生まれ育ってきた地の文化を共有したり、生徒達が友となり、卒業後に協力して互いの領地を繁栄させることが目的の一つとなっているからです。ですが、異性と同じ寮で暮らしていると、極まれにですが、おいたをしてしまう方達がいらっしゃいます。その場合、もしその場でバレることがなかったとしても、後程確実に厳しいご沙汰を受けていただいておりますので、あらかじめご了承下さい」


 それは現行犯じゃなくても後で確実にバレるっていう意味だよね? なんらかの魔法でも使うのかな?


「お風呂は女性が16時~20時まで。男性が20時半~24時まで利用可能です。もし覗きや夜這いを行った場合、バレた時点で全ポイント剥奪となり、王国中に覗きを行った生徒の精巧な似顔絵と名前、出身地、身長、動機などの情報が出回ることとなっております」


 ……社会的に絶対死ぬよね? それ。


「以上で説明は終了となります。ご質問はございますか?」

「……過去、覗きを行った生徒はいたんですか?」

「はい。現在のキルヒアイゼン公爵が、『女性用下着をデザインするために脱いでくれと言ったのに、脱いでくれなかったから覗いた。後悔はない』と、現在の奥様で当時は婚約者だった方の着替え中に脱衣場に侵入し、この寮初の覗きとして、保護者や貴族、当時のキルヒアイゼン公爵子息の個人情報が送られたそうです」


 なにやってるんですか辺境伯!


「他にご質問は?」

「『不正は必ずバレる』と言われましたが、どのように調べられるんですか?」

「それは各寮の寮長が見破るからです。最後に寮長を紹介します。リジー。お仕事よ。リジー?」

「……」

「……」

「あの日当たりの良いソファーの辺りを確認してきてくれませんか? もしそこに女の子が寝ていたら、起こして挨拶をしてあげてください」

「? わかりました」


 僕はローラとリアナを連れて、そのソファーを見に行った。そしてそこで寝ている者をみて、不正がバレると言われた理由を理解した。


「……ZZzz。ZZzz」


 辺境伯の屋敷にいた、妖精のシェリアそっくりの女の子が寝ていたのだ。

 違いがあるとすれば、シェリアは髪も服も水色だったけど、この子は緑色の髪に緑色の服を着ている。髪の長さはどちらもショートカットだ。

 妖精には人の心を読む力がある。つまりこの子が見破る。ということらしい。


「リジーさん? 起きて下さい。リジーさん?」

「むにゃむにゃ、……ちょっと待って。あと、6時間……ZZzz」


 いやいや、どんだけ――


《いや、どんだけ寝るのよ!?》


 ――ぺチン――


 僕の言葉を代弁しつつ、ソファーに飛び乗ったリアナの尻尾ビンタがリジーさん(?)に炸裂した。


「くぎゃ!? なになに!? どわぁー!? 食べないでぇ!!!!」

《食べるかぁ!》「ガオォ」

「ふにゃん……」


 跳び起きたリジーさんは、吠えたリアナを見て気絶した。


「……リアナ?」

「……リアナちゃん。お馬さんの時に続いてまたなの」


 リアナは一瞬固まった後、ぎこちない動きで僕らの方を振り向き、僕達の冷たい視線を浴びて、お座りしたかと思うと起用に前足を曲げながら頭を下げて土下座しながら思念波でこう言った。


《ごめんなさい》

現在1話から【?】の後に空白を入れたり、誤字脱字や読みにくい文章の手直しを行っています。ストーリーに関係の有る部分で直した場合、後書きにて報告させて頂きます。


現在ストーリーに関係有る部分で直した部分。


海までの開拓が2年→数十年に変更。

海までの開拓にかかると書いた期間を誤認していました。

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