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アウラの爵位

【嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語】

という作品も書いています! 自信作ですので、そちらの方も良ければ下のリンクからお願いします!

 闘技場の武舞台上、僕は途方に暮れていた。

リアナが時間停止を解除した途端、ステラさんは時間停止直前に放った僕の剣をかわそうとしていたらしく、観客席の壁を突き破る勢いで飛んでいってしまい、瓦礫に埋もれてその姿は確認できない。

 あれだけ強いステラさんのことだから。まず間違いなく怪我については心配ないはずだ。良くはないけどその件については一旦置いておこう。

 問題は周囲から僕とリアナに向けて突き刺さる、この場にいるほぼ全員の視線と、その後に待ち受けるであろう詰問だ。ステラさんに殴られすぎたせいか、それとも『彼』の影響か? 物理的な意味でも比喩的な意味でもとても頭が痛いし胸まで痛い。

……本当にどうしよう?


「それまで! ジェリド。勝敗を宣言する前に確認させてもらう。その獣が例のフェンリルであり、今回の試験において、お前が召喚したのではなく勝手に入ってきた。という認識で間違いないな?」

「ヴぁ……」


『はい』と答えようとしたところで、自分の喉が潰れて声が出ないことを思い出し、アウル様に対して失礼かとは思ったが、首肯で返す。

 おそらく僕はこれで反則負けだろう。それは仕方がないし、あのまま『あの誰か』が出てこなければ、僕は間違いなく負けていたと確信できているので、それについての異論はない。

 問題はただの反則負けだけで済ませてもらえるのか? ということだ。


 今回の試験は自由参加だった。とはいえ、この国最高峰の教育機関たる王立学園の入学試験の一つであることにかわりはない。つまり最悪の場合、不正を行ったとして不合格にされるかもしれないということだ。


「……そうか、ではこの勝負、ジェリドの反則とし、勝者――」

「引き分け!」


 観客席から瓦礫を蹴飛ばし姿を現したステラさんの声が、勝敗を宣告しようとしていたアウル様の言葉を遮った。


「この試験に勝者無し! よってこの試験は引き分けよ」


 その言葉を聞いたアウル様は、面白そうな、それでいて少し嗜虐的な表情を浮かべながらステラさんに問いかけた。


「ほう? それはどういう意味で言っている?」

「……父さんなら見えてたんでしょ? そういうことよ」

「ふんっ。それはお前は勝負に負け、ジェリドは試合に負けた。よってこの試験においての勝者は無し。そういう意味で良いのだな?」

「……」

「答えろ」

「……わざわざ言わせようとするなんて、本当に性格悪いよ?」

「ふんっ。良いだろう。魔法による召喚以外で、途中から自身が使役する魔物や魔獣を含む第三者の支援を受けることは禁止されている。今回はその神獣による攻撃を直接受けわけではないが、その神獣が結界を破壊したことにより、試験の続行が出来なくなってしまった。しかし、介入がなければステラが負けていた可能性は高いと、ステラ自身が認めている。よって今回の試験は引き分けとし、ステラに5000点。ジェリドには反則の罰則とし、マイナス5000点を与える。ジェリド、今回のような甘い判定は二度とない。以後、自身の使役する物の管理はしっかりするように。これで今年度の入学試験を終了する。結果発表は明後日だ! 解散!」


 アウル様が発した試験終了の掛け声とほぼ同時、リリーが僕の下へと駆け付けて来てくれた。その後ろには、笑顔でゆっくり歩いてくるギルとライの姿もある。


「ジェリド! 怪我を見せなさい! 結界が消えて傷が治ってないんでしょ?」

「だびじょう――ぶっ!?」

「全然大丈夫じゃないじゃない!? なによその声! おとなしくお姉ちゃんの言うことを聞きなさい! かの者の状態を我に教えよ。パルペーション(触診)


 リリーは僕のそばまで来ると、大丈夫と言おうとした僕の襟を掴み、それと同時に足を払って仰向けに倒し、頭・首・胸・両腕・腹・両足の順に掌を当てていき、治癒魔法をかけてくれた後に僕の手を取り、起こしてくれた。ちなみに僕は、夕焼けに染まる赤い空を見上げるまで自分が何をされたのかは分からなかった。


「骨は折れてないし、腱や靭帯も無事ね。かの者の傷を癒せ。ヒール(治療)

 ……問題は喉と肺。特に肺ね。これは今の私の魔力量じゃ治せないから、魔力が回復次第治してあげるわ。それまではこれで我慢してね? かの者の痛みを和らげ、苦痛から救え。ペインキラー(痛み止め)


 リリーのお陰で胸の痛みがなくなり、外傷もすべて消えていた。


「ぁりがとうリリー」


 僕は起き上がりながらリリーに礼を言ったが、痛みも違和感もないというのに、風邪を引いたような擦れた声しか出てこなかった。


「喉と肺は一時的に痛みを感じないようにしただけで、まだ治っていないから無理して話さないでいいわ。特に肺にはかなりのダメージがあるから、走ったり力を入れるのも控えなさい。いいわね?」

「ぅん」

「で、そろそろ良い?」


 振り返ると、僕のすぐ後ろにはいつの間にかステラさんが僕を睨みながら立っていた。


「あんたの前であんたの兄のことをクズと言ったことについては撤回してあげる。ただ今回の試験はあくまで引き分け。だから謝罪もしないしあんたの実力は評価してあげるけど、あんたのことは認めない。次の機会があれば、最初から本気で叩き潰す。もし謝罪やなぜ私があんたの兄のことをクズと言ったのか、その説明が欲しければ、その時に私に勝ってみなさい」


 ステラさんはそれだけ言い終えると、僕の返事を待たずにアルベドさんの下へと歩いて行った。

 僕はその背中を眺めながら、今度手紙か何かで兄さんに聞いて、くだらない内容だったら、その『次の機会』とやらを避け続けてみるのも面白いかもしれない。と考えてしまった。やっぱり僕は性格が悪いらしい。

 そんなことを思いながらステラさんの後姿を見ていると、その先にいるアルベドさんが、僕をとても真剣な目で凝視していることに気付いた。殺気こそないが、軽い敵意のような感情は混ざっているかもしれないほどの視線だ。


「惚れたのか?」

「なっ!? なんでいきなりそうなるの!?」

「いや? あの板胸見てんのかと思ったら、その後ろのチビと見つめあってたから、あのチビに惚れたのかと思ってよ?」

「そんなわけ――うぐっ!?」

「そうなの!? ジェリドはあんな幼女みたいな女が良いの!?」


 リリーは両手で僕の胸倉を掴んで持ち上げ、僕を前後に揺すりながら僕を問い詰める。


「――リリー……苦し――」


 僕の呼吸は荒くなり、ほどなくして――


 ――ドクン――


 という音を聞いたのを最後に、僕の意識は闇の中へと落ちていった。






「あっ。やっと起きたんだね? おはようジェリド様」

「おはようローラ。やっと起きたってどういうこと?」


 体はよほど疲れていたのか、僕が次に目覚めたのは試験の2日後。4月5日の夕方だった。試験の結果はすでに発表されており、アルベドさんが主席で、僕が次席だったらしい。

 というか、魔力量がそのままポイントになり、魔力量3位のギルと2位の僕にも250000近い差があったんだから、その時点で主席と次席は決まったようなものだったのだろう。


「それで最後にリリアーナさんからの伝言なんだけど、『無理をするなと言っておきながら、乱暴な真似をしちゃってごめんなさい。怪我は完治しているから、安心して良いわ。それと、寮に入るのは12日にしましょう。学園入寮時、所持金も預けることになるから、一度入ると遊ぶお金までなくなってしまうの』だって」

「あぁ、そういえばそんなことが学園の資料に書いてあったね。確かお金や荷物は学園に預けるか、自分で実家に送るなりなんなりしないといけないんだったよね? 僕は特に送りたい物はないし、馬車はこの学園にあるキルヒアイゼン家の屋敷の人が乗って行ってくれるらしいから問題ないよ。ローラはなにかある?」

「私も大丈夫だよ?」

「なら問題ないね」


 そんなこんなで、僕達はしなくてはいけないことも特にないので、その日からみんなで毎日たあいもない話をしつつ楽しく過ごした。

みんなと言うのは、リアナとローラ・リリーとレイラ・ギルとライに僕を入れた7人? だ。


 最初のうちは、少しギルに対するリリーの当たりが強かった気もしたけど、今ではそれもなくなり、仲良く話すようになっていた。……もっとも、ギルはリリーがアリシアちゃんの大好きなお姉ちゃんであることを気にしてか、嫌われることのないように気を使って接している感が多少あったけど。

 何も考えずに仲の良い友達と楽しく遊ぶ。記憶をなくしてから今までで、一番楽しい時間だったかもしれない。


 しかしその楽しい時は、僕達が朝食後、お茶を飲みながら今日はどうするかと話しあっている時に、僕とリリーの下へ、早馬で届けられた一通ずつの手紙によって破られた。

 僕への手紙の差出人の名前はアウラ=ブラッドリー。僕の兄さんから。

 リリーへの手紙はアルバート=キルヒアイゼン。辺境伯からだった。

 僕の手紙にはこう書かれていた。


『僕に対する子爵位の継承が却下され、しばらくブラッドリー領を離れることになった。休みに帰ってこいと言っておきながら、ブラッドリー領を離れる僕を許してほしい。ジェリドの今後の活躍を期待している』


「……なんで? どういうこと? なんで兄さんに対する子爵位の継承が却下されないといけないの? それにいつどこに兄さんは行くっていうの? この手紙にはなんにも書かれてない……」

「……どこかはわからないけど、いつ出発予定かはわかったわ。出発日は4月10日――今日よ」

「……今日? それはいつまでなの?」

「……ごめんなさい。そこまでは書いてないわ」


 リリーは僕に辺境伯の手紙を渡してくれた。

序盤のリリーへのあいさつは読み飛ばし、兄さんに関する記述を探すと、そこにはこう書かれていた。


『先日、王家の使者がブラッドリー家に訪れ、アウラ君に対する子爵位の継承が却下され、別の地に向かうようにと伝えられたらしい。4月10日からブラッドリー領で再開される、海側へ向けての開拓開始のあいさつを最後に、彼はブラッドリー領を出るそうだ。彼には私にあいさつをし、私の屋敷で一泊してから出て行くようにと伝えてある。この手紙が届いた時には、もう遅いかもしれないが、もし間に合うようなら私の屋敷に来るようにと、ジェリドに伝えてくれ。当日であれば、ギルバート君に頼めば間に合うかもしれない。彼がまだ入寮していなければ、彼には私からの願いだと伝えて協力を仰いであげてくれ。では、間に合うことを祈っている』


 手紙を読み終えた僕は、リリーを見てこう言った。


「ありがとうリリー。行ってくるよ」

「俺達はもちろん構わねえぜ?」

《仲間のために頑張るのは、竜として当然だな》

「私もアウラ様が心配だから行きたい」

「おじさまの屋敷に行くなら、私も行くのが当然よね?」

「主人が出かけられるのであれば、お供をするのが専属メイドの務めです」


 いつの間にかリリー以外の全員が僕の背後から手紙を覗き込んでいたらしい。

ローラの肩に乗っていたリアナが、そこから飛び降り巨大化し、僕とローラをその背に乗せた。


《私がそいつより遅いはずないでしょ? さっさと行くわよ!》

「……ありがとうみんな」

「じゃあそっちの2人は俺らが乗せてやるよ。風をもろに浴びることになるから、適当なところに摑まって落ちないように気を付けろ」

「なによそれ!? 風をやわらげる魔法とか、落ちないように固定する方法はないの!?」

「俺は乗り物じゃねぇんだからそんなのねぇよ!」

「使えないわねぇ」

「文句があるなら乗るんじゃねぇよ!」


そんなやり取りがありつつも、僕達は兄さんに会うため、辺境伯の屋敷に急ぐのだった。

多分長くなるので2・3話に分けると思いますが、第二章ももうすぐ終わりです!


それと、こちらの作品を書けなかった間に、

【嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語】

という作品を書き始めました。自信作ですので良ければそちらも、下のリンクからご覧下さい!

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『嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語』下記のリンクから読めます。自信作ですのでこちらもぜひお願いします

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