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第21話 実戦試験7

 結局、行方不明者は誰も出ていなかったと言うことがわかり、ギルが闘技場の舞台から下りると、舞台が1度消えてからまた新たに同じ舞台が同じ場所に現れた。

 いったいどれだけ魔力を使うのかはわからないけど、どうやら舞台自体も魔法で何度も具現化出来るらしい。

 あの魔力測定に使った部屋で管理しているのかな?


「はぁ、本当にやっちまったのかと思って焦ったぜ」

《あぁ、普通結界が壊れるなんて思わねぇしな……》


 ギルがライを抱えて愚痴りながら僕達の方へと歩いてきた。


 今回ギルにより治癒室送りにされたのは49人。1番には代わりの人が入ったけど、シャルさんに倒された2番はそのまま抜け番だった為、ギルが相手にしたのは元々49人だったらしい。


「ギル、試験お疲れさま」

「あぁ、試験中より試験終わってからの方が疲れたけどな」


 ギルは僕ではなく、アルベドさんを見ながら僕に返事を返した。どうやらアルベドさんがギルを見ていたらしく、その視線に気付いたギルがアルベドさんを見返したらしい。


「で、アルベド、なんか用か?」

「別に用なんてない。ただ見ていただけ」

「あっそ」


 ギルはライと共にアルベドさんの横を通り過ぎ、僕の横に座ろうとしたが、先程は用がないと言ったアルベドさんが振り向き、ギルに声をかけたためギルは一瞬動きを止めた。


「……あなたの魔力が回復すると、竜の魔力は同じだけ減るのね」

「……俺達は魔力を共有してるからな」


 それだけ言うと、ギルは僕の横に腰を下ろし、アルベドさんは薄い笑みを浮かべながら前を向き直した。

 すると今度は、アルベドさんと僕らの間に座っていたリリーが立ち上がりながらギルに声をかけた。


「アルベドにもバレたみたいね」

「わざわざ言う気もねぇけど隠す気もねぇからどうでも良いさ。それより次だろ? 50人、倒せなかったら笑ってやるよ」

「そうね。手紙のネタにしても良いわよ?」

「……アリシアちゃんの手紙によく出て来るお姉ちゃんって、やっぱりお前なのか?」

「どうかしら? あぁでも、そちらで流行の劇作家の言葉を引用するのは、あまりお薦めしないとだけ言っておくわ」

「な、なんでそれを知ってんだよ!?」

「アリシアはとっても真面目で頭の良い子なのだけれど、その分服飾関係以外の芸術面はあまり得意ではないの。アリシアにあてた恋文のような詩の内容はとっても素敵でしたけど、それを受けて意味を理解できなかったアリシアの裏に、それを解読してアリシアに問題がないように伝えなければいけなくなった人がいたということも、是非知っておいて欲しかったので」

「~~っ! わるかったな! 今後気を付ける」

「じゃあジェリド、行ってくるわ」

「うん。でも50人なんて大丈夫なの?」

「大丈夫よ。10分で戻ってくるわ」


 そう言うと、リリーはそのまま何も持たずに舞台へと向かって歩いて行った。


「50人なんて、ギルでも最初苦戦したのに本当に大丈夫なのかな?」

「はぁっ? 別に俺は苦戦なんてしてねぇだろ?」

「……試験中のライの思念波、僕にダダ漏れだったんだよ?」

「……」

「……」

「にしてもあの石の舞台が消えてもう一度同じ舞台が出てきたのにはビビったな! 魔族の技術ってどんだけ高ぇんだよ」

「そうだね。ギルが舞台を壊すからこの後はどうするのかと思ったよ」


 とってもわざとらしい話のそらし方だったけど、自らの恋文(?)にダメ出しされたギルを、僕はこれ以上追い詰めるほど非情にはなれなかった。


 リリーが舞台に上がると、試験菅達も反対側に対峙する形で舞台に上がり、先程のギルの時と同じ陣形で隊列を組んで武器を構えたが、リリーは何も持たず、構えもせず、自然体で開始の合図を待っており、それに対して試験官の1人がリリーに問いかけた。


「キルヒアイゼン公爵のご令嬢。1つ聞きたいのだが、憑依もせず、武器も持たず、そのまま始められるおつもりか?」

「えぇ、でもすぐに武器は出すし憑依も始めるから大丈夫よ」


 試験官達は侮られたととったのか、幾人かの顔には怒りが見て取れた。


「では双方準備は良いな? 始め!」


 開始の合図と同時に、リリーが10m近く後方へと跳躍を決めたが、試験官達はそれを予想していたらしく、躊躇いなく追いかけながら様々な魔法を放ち。


「壁よ。全てを隔てる光の壁よ、私を守る盾となれ」


 その全ては薄い闇色の壁に触れた瞬間に消失した。


「ギルバートさんが最初、同化せずに戦っているのを見て、私はこの魔法を使うと決めたわ」


 その後も様々な魔法が結界に撃ち込まれるが、その悉くが結界に触れた瞬間消失する。


「私がキルヒアイゼン家の血を引いていると知ったのは2年前。それまではお母さんの意向で、私にはそのことを知らされていなかった」


 リリーが右手を伸ばすと、手首から先が突然消えた。


「だから私は、5歳の頃からお母さんの家系が代々得意としてきた光系統の結界魔法や、治癒魔法の修得を目指した。でも私には、治癒魔法はともかく、光系統の結界魔法の才能はなかった」


 リリーが右手を振り下ろすと、その手には銀色の刀身を持つ、一切装飾のされていない、長めの片手剣が握られていた。


「従姉妹がすぐに修得できた魔法を修得するのに、私は数日かかった。他の魔法もそう。今思えば、キルヒアイゼン家の魔法特性と真逆だったからだってわかるけど、当時の私にはわからなかった。

 でもそんな私にも、魔力量という取り柄があった。だから私は、それを活かす事の出来る魔法の修得を目指し、10年近く毎日魔力が空になるまで訓練し、従姉妹(レイラ)にもまだ使えない結界魔法を1つだけ習得できた。それがこの魔法。これが私の10年近くをかけた意地の集大成」


 右手に持った剣を胸の前で横向きに水平にすると、刀身の根元部分を握り、ゆっくりと刃先の方まで手を滑らせ、最後にその刃先を親指と人差し指で抓んでまた話し出す。


「5分以内に私の結界(いじ)を越えられれば、私はその時点で敗北を認めるわ」


 リリーは剣を抓んだまま膝をつく。


「5分間結界を破られなかった場合、私は今から呼び出す3代目キルヒアイゼン。リュミアーナと共に貴方達と戦い、更に3分後、それまで残っていた全員を吹き飛ばすことを約束します。出来ることなら、私の結界(しゅうたいせい)を、本気で砕きに来て下さい」


 刀身にリリーの血がベットリと付着し、見るからに痛々しいが、リリーは構わず詠唱を始める。


「نحن في العالم النادر، والدتي.(冥界に坐す我等が母よ)」


「何語なの? あれ」


 ステラさんが座っているアルベドさんに、この聞きなれない言葉のことを聞いたので、僕も気になって耳をかたむける。


「わからない。でも、キルヒアイゼン家の人が降霊魔術や特殊な魔法を使うとき、特殊な言葉を使うらしいから多分それだと思う」


「اسمي ليليانا كيرش إيسن(我が名はリリアーナ=キルヒアイゼン)」


「キルヒアイゼンの人間は、普通の魔法にも願いを込めた……祈りのような言葉を紡ぐからな。それで威力があがるわけでもねぇのに、キルヒアイゼンの人間は、それをとても大事にする」


「أنا سليلك(我は汝の血を引く者なり)」


「ギルはキルヒアイゼン家の魔法に詳しいの?」


「وسوف تكرس دمي إلى سيفك(汝の剣に我が血を捧げ)」


「いや、全然だ。数回アリシアちゃんの魔法練習に付き合っただけで、その練習もその時は失敗に終わったからな」


「وسوف تكرس جسدي لك(我が身を汝に捧げます)」


「ただ、その祈りをあげる姿が、今のあいつみたいにめちゃくちゃ真剣で」


「أنا أهدف لنفس الحلم والمثالية كما كنت(我は汝と夢や理想を同じくする者)」


「めちゃくちゃ綺麗だと思った」

「لجعل أحلامنا تتحقق(我等が夢を叶えるために)」


 綺麗……か、確かに、僕の角度からではほとんど後ろ姿しか見えないけど、


「لتحقيق المثل العليا لدينا(我等が理想を叶えるために)」


 祈るようなその姿は、背中からでもとても真摯な姿勢が見受けられ、時折見えるその横顔に、


「يرجى تأتي روميانا(来たれリュミアーナ)」


 僕は思わずドキリとしながら目を奪われた。


「تعال وتظهر القوة الخاصة بك(来たりて汝の威を示せ)」


 そして、リリーの祈りが終わったとき、彼女の剣が光り輝き。直後、彼女は現れる。


「おはよう。リュミア」

アラビア語の後ろの訳は、リリー以外にはわからないという設定です。


アラビア語は文章変換アプリで変換してみました。

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