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第20話 実戦試験6

 ギルの放った重力魔法によって石畳に倒れた試験官達は、重力魔法による物か、はたまた悔しさからなのかか、顔を上げることすら出来ずに下を向き、立ち上がろうとする者どころか顔を上げようとする者すらいなかった。……たった1人を除いては。

 その1人は、片膝を付いたままではあるが顔を上げ、胸を張って誇らしげに仲間の騎士達に声をかけた。


「顔を上げよ! 何故下を向く? 今、我らの努力は無駄では無かったことが証明されたのだぞ!? 我らの槍は、皆の力は、確かに最強に届いたのだ!」


 試験官達はその言葉を聞いた直後、届いたというその証を確認しようとするが、ギルの魔法の影響下にあるため、アンドレセンさん以外には、顔を上げることすら出来る者はいなかった。

 そんな試験官達の姿を見たギルは「フンッ」と鼻を1つ鳴らし、自分の顎の下……喉元の辺りの鱗を指差すと、その後黒いカーテンのような幕が霧散した。


 黒い幕が霧散したと同時に、試験官達は重力の檻から解放されたらしく、皆一様に顔を上げてギルの喉元を凝視する。


「見えるか!? たかが鱗1枚と、うっすらと血がにじむ程度の小さな小さな掠り傷だ……彼にはダメージですらないだろう! だが、だが確かに私の聖槍、土竜槍(モールスピアー)は彼の者に届いたのだ!

 皆のお陰で彼の者に一矢報いることに成功したのだ! かつて一軍をもってしても傷1つすら付けることの叶わなかった。

 3騎士がかりでも倒せなかった、あのドラゴニール家に、我々だけで傷を負わせたのだ! 胸を張れ。これは我ら皆で手に入れた功績だ! 立てる者は立ち上がれ、胸を張って皆で笑って逝こうではないか!?」

「逝くってどこにだよ……」


 アンドレセンさんの演説に軽く引いてしまっている感が流れるギルの問いに応えたのは、やはりアンドレセンさんだった。


「仲間達は皆倒れ、残っているのは私だけだ、だが私も土竜槍(モールスピアー)を全力で使用したことにより、既に魔力が底をついているので勝負にすらならんだろう。しかしこのまま敗北を認め、降参してしまえば大変なことになってしまう者達が多数現れることになる。故に悪いのだが、仕上げを頼みたい」

「仕上げ?」

「全力のブレスを我らの身にに刻んでいただきたい」

「……は?」

「我らにはこのヴァーウェンの都を犯さんとする者達が現れたとき、その者達からこの都とここに住まう全ての者達を守る責務がある。その為に我らは日夜訓練に励み、アウル様から定期的にご指導も頂いてきた。我らなら、同じ人間が相手であればそうそう遅れを取ることは無いだろう。しかしこのヴァーウェンの仮想敵となるのは、なにも人間だけではない。

 このヴァーウェンは、元を辿れば魔族の都。

 現魔王は即位後に、この地に居た魔族達を連れてこの地を去ったが、その理由は不明とされている、そのうえ次代の魔──」


──ドゴォンッ──


 突如観客席から発せられた音に驚きそちらを見ると、アウル様が腰かけている石段の後方にあったはずの石段の一部が粉々に砕けとんでいた。


 アウル様は、自らにこの場にいる全ての人の視線が集まった事を確認すると、ゆっくりと腰をあげてアンドレセンさんとギルに話しかけた。


「アンドレセン。噂の域を出ていない未確認の情報だ。余計なことは言うな。そしてドラゴニールの倅、そこの馬鹿が言おうとしたことの意味はわかるな? そいつらの不安が杞憂であると示す意味も込め、この場でお前の(ブレス)を見せてやれ」


 アウル様は苛立たし気な声音でそう言うと、先程まで座っていた石段に乱暴に腰掛け足を組み、静観の姿勢を取った。


「てめぇは引っ込んでろ。撃つかどうか決めんのはこの俺だ」

「クックック、私に牙を剥くとは、良い度胸だな小僧。気に入ったぞ」


 ギルは親指で自らを指差し、獰猛そうに牙を剥きながらアウル様に吼え、アウル様はそれを嬉しそうに笑って流した。

 そしてそんなやり取りに、今年の受験生の女の子達の一部から、ギルに向けた黄色い声がとぶ。

 そう言えば、今年は女の子の受験生が例年より多いらしく、その理由はギルとブラックスミスさんにお近付きになるのが目的なんだっけ?


《おいギル。別に啖呵切んのは良いけどよ……元々撃つ予定だったじゃねぇか? この流れだと撃てなくなるぜ?》

「……」

《はぁ? ど派手に終わらせるんじゃなかったのかよ?》

「……」

《なら転がってる奴らはどうすんだよ? 自爆とはいえ後味悪いぜ? 久し振りに楽しめたん──》

「……」

《啖呵切ったのはお前じゃねぇか?》

「……」

《知らねぇよ! 泣き言言わずに自分で考えろよ!》


 ギルの声は聞こえないけど、相変わらずライの思念波は僕にダダ漏れだ。

 ギルは格好つけながらも、実はライに泣き言を漏らしているらしい。

 ……このギルとライとのやり取りを、黄色い声を上げている女の子達に聞かせることが出来たら、いったいどんな反応をするんだろう? 僕がそんなことを考えていると、僕の前に座っているアルベドさんが、隣に座っているステラさんに話しかけた。


「ねぇステラ。あの土竜槍(モールスピアー)って槍の威力と能力を教えてくれない?」

「んっ? いきなりどうしたの? あんたが他人の武器に興味を示すなんて珍しいわね?」

「興味があるのはドラゴニールの方。だからドラゴニールの鱗を割った、あの槍の能力が知りたいの」

「もしかして、突破口見つけた?」

「たぶん。その確認の為に知りたい」

「良いけど、私にも教えなさいよ?」


 アルベドさんは、チラリとリリーを一瞬盗み見てからステラさんに答えた。


「良いけど、種明かしは後。それと多分、私の推測が合ってても、ステラじゃ相性的に無理だと思う」

「あっそ。まぁ、アルベドはどうせこれからも変わらず私の同盟者のまま、裏切ったりしないでしょ? なら私としては問題ないか」

「絶対じゃないけど、たぶん裏切らない」

「ハハッ! あんたらしいわね。土竜槍(モールスピアー)の能力は、地面を術者の意思通りに移動させること、そしてさっきみたいに任意の位置から地表に射出することも出来る。弱点は、厚さ数cmの鉄板や、数十cmを超える地下水脈は迂回する必要がある事や、槍には探知能力なんてないから、射出前に自分で敵を視認したり、なんらかの方法で探知しないといけないことくらいかな?」

「射出時の威力は?」

「込めた魔力量によって変わるらしいよ? 確か昔、20cmの鉄板を貫いたって言って、アンドレセンが喜んでた気がする」

「地面を移動するときの音と移動時の魔力反応は?」

「ないよ」

「射出直前に魔力を感知したけど、あの槍に狙われた相手に対しての魔力反応の隠蔽能力があったりするの?」

「えっ? そんなのはないはずよ?」

「ありがとう」

「ハハッ! アルベド、悪い顔してるよ?」

「ステラ、失礼。まだ全部を見た訳じゃないからわからないけど、他のドラゴニールには勝てなくても、あそこにいるギルバートに負けることはないと思う」

「歴代最強クラスって噂なのに?」

「全てにおいて勝る者なんていない。ステラじゃギルバートには勝てないと思うけど、私なら状況次第でギルバートに勝てると思う。でも私はステラにはまだ勝てない。ギルバートは私の想像通りなら、ある意味最強だけど、だからこそ、私には勝てないの」


 最強だからこそ勝てない? どういう意味だ?


「私達が色々話している間に、あっちも話が纏まったらしいよ? うわっ。この間も見たけど黒くてトゲトゲしてて凶悪な姿してるねぇ。あれ見るだけで一般兵なら逃げ出しそう」

「実際過去には逃げ出した例が多数ある」


 確かに、竜形態になったギルは、大きくてトゲトゲしていて、見ているだけで恐怖から鳥肌が立ちそうだ。

 以前見たときは遙か上空だったし、下から覗いただけだったからわからなかったけど、あの形態のギルはかなり迫力のある顔をしている。


 ギルはそのまま両翼を打ち、空高く舞い上がると、上空40mくらいでホバリングを始め、その口の中に赤黒い炎を宿した。


《これがお前達の見たがった俺のブレスだ! 一瞬かも知れねぇけど、よく見とけ!》


「グガァァァッ」


 ──バチンッ──


 直後、武舞台の真ん中辺りに巨大な穴が出来上がり、結界だと思われる透明な幕が消失した。


《あっ……》

「「「あっ!」」」


 僕とアルベドさんとリリー、そして事の張本人たるギルとライは、どうやら同時に結界の消失を感知したらしく、少なくとも僕の背中には嫌な汗が流れた。


 ギルはゆっくりと降下を始めながらアウル様の方を眺める。アウル様はアウル様で血相を変えてなんらかの通信系魔法を発動し、誰かに何かを怒鳴るような声で尋ねている。


 僕達以外の人も、アウル様の怒鳴るような声と発せられる言葉の内容で事態を把握したらしく、誰1人として声を発せず、ギルとギルが起こした惨状、そしてアウル様を順に見る。


 現在聞こえてくる音は、ギルが吹っ飛ばして出来た大穴に滝のようにザーザーと流れ込む大量の地下水の奏でる音とギルの羽音だけ。


 僕の目の前にいるステラさんなんて、口を半開きのまま顔面蒼白で、目には涙が溜まっている。


「全員居るのだな!? 間違いなく50人全員居るのだな!?」


 どうやら全員無事に治癒室に転送されていたらしい。

 ステラさんの顔に笑顔が戻り、目に溜まった涙を拭う。


「なに!? 49人だと!? 残りの1人はどうなったのだ!?」


 ステラさんの動きが止まり、ここにいる全ての人の脳裏に、とある悲惨な可能性がよぎる。


 舞台端に着地したギルも、その竜の巨大を小さくしながらアウル様を見つめていた。

長らく休載し申し訳ありませんでした。

活動報告に書かせて頂いた傷害事件の犯人は、私に怪我を負わせながら私の会社(本社)に意味不明な苦情を入れたりと、かなりのバルバロイさんだったので、全て警察に任せ、放っておくことにしました。


そしてそれとは別に私にとっての残念なお知らせが……

実は、記憶喪失からの成り上がりが1月8日発売予定で、こっそり書籍化準備をしていたのですが、出版社様の事情により書籍化中止となりました。

書籍化特典の2000文字程度のSSが、4話中3話既に書き上がっているので、試験後に予定している話の前に、4000文字前後に書き直して投稿しようと思います。

突然リアナやアウラやソシアの話がきたらそれだと思って下さい!


かなり間を開けたのに、待っていて頂いた皆様。本当にありがとうございます!

書籍化はなくなりましたが、これからも記憶喪失からの成り上がりを宜しくお願いいたします。

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『嫁がダメなら娘になるわ! 最強親子の物語』下記のリンクから読めます。自信作ですのでこちらもぜひお願いします

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