第18話 実戦試験4
ごめんなさい。長すぎたので分けました。
激闘を制したアルベドさんは、ローブでしっかりと体を隠し、挙動不審気味に辺りを見回し、先ほど黒い炎の蛇が地面ごとアルベドさんを呑み込んだときに出来た大きな穴を見付けると、直ぐさまその穴に跳び込んだ。
そんなアルベドさんの姿に、僕は一瞬どうしたんだろう?と思ったけど、よくよく考えてみるとアルベドさんは今、レオナルドさんが途中でどこからか取り出した前開きのローブを羽織りつつ、必死にローブで体を隠していた。ではそもそも何故そのローブを試験中にレオナルドさんから奪い、羽織ったのか?
答えは簡単に想像が出来てしまった。
──アルベドさんの服は燃えてしまったのだ。
裸をローブで隠しているという変態的な服装。
穴があったら入りたいくらいに恥ずかしかったのではなかろうか?そして実際に目の前には穴があった。だからきっと思わず入っちゃったのだ。
アウル様はなにも言わず、ステラさんは舞台に飛び込み、僕は何故かリリーに「見ていないか?何故すぐに目をそらさずにジッと見ていたのか?目をそらせてあげるのが紳士というものだ」という内容の詰問と説教を受けることとなってしまった。
──数分後──
アルベドさんとステラさんがようやく姿を現した。が、何故か2人とも少し不機嫌そうな顔をしており、穴の中でなにがあったんだ?と、一瞬考えてしまったが、アルベドさんの服を見て、なんとなく理由に察しがついてしまった。
アルベドさんが今着ている服は、上下共に赤を基調とし、所々白い色が入った、とても可愛らしいデザインの服だった。だがおそらくこれはアルベドさんの服ではなく、ステラさんの服だ。
何故ならアルベドさんの着ている服は、袖丈はぶかぶかな上、裾は長過ぎてモップと化しているのに、胸だけは少しキツそうという、全く体にあっていない物だったからだ。
身長を気にしているはずのアルベド”ちゃん“。
板胸と言われて自己紹介をやめたステラさん。
互いのプライドを悪い意味でとても刺激しそうな仕上がりとなっていた。
2人が舞台から下りると、1度舞台が派手な音を立てて全て崩壊し、その後すぐにまた元の綺麗な石畳の舞台が姿を現し、会場中の大多数の人間の度肝を抜いたが、ステラさんはその間に、そんなことは知らぬとばかりにアルベドさんに何かを言い、アルベドさんから承諾を得ると、何事も無かったかのようにまた舞台へと上がった。
「ステラ=レッドリ──」
「お前は後だ。下がれ」
ステラさんの名乗りを途中でアウル様が止めた。
「なんで!?アルベドに抜かれたけど次は──」
「八つ当たりをする気だろ?」
「──ッ」
「お前に今暴れられては困る。後で存分に暴れさせてやるから、今は頭を冷やして少し待て」
「……わかった」
「ドラゴニールの倅。お前が先だ。早く舞台に上がれ」
「へいへい。行くぞライ」
《おし、やるか!》
ステラさんが不承不承と言った感じで舞台を下り、代わりにギル達が舞台へと上がったが、ステラさんは舞台を下りた途端、アルベドさんを怒鳴り付けた。
「アルベド!あんたなにやってんのさ!」
「ステラが汚したら弁償させるって言った」
「ならなんで裾を切ってるのさ!?」
「もう汚れたし弁償することにした。だからこれは私のもの」
「私のお気に入りなのに!」
「可愛すぎるのが恥ずかしくて着られない服なんて、無いのと同じ」
「──ッ!裾を直すにしてもせめてもっと綺麗に直しなさいよ!」
「そんな技術。私にない」
「胸張って言うな!」
「私が直してあげるわ。すぐに済むからこっちに来て?」
2人のやり取りを見かねたリリーが声をかけ、その後一瞬で着たままのアルベドさんの服の袖と裾を、とても綺麗に直してしまった。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
と、3人のやり取りに気を取られ、舞台上のギル達のことをすっかり忘れていたが、ギル達も舞台に上がってすぐこちらに気を取られていたらしく、まだ舞台に上っただけだった。
「もう良いか?それでは指名する番号を言え」
「んじゃ全部で」
「全部?全員纏めて相手にするという意味か?」
「あぁ、それで良い」
「だがそうなると、ステラとジェリドの相手は決めてあるから良いとして、キルヒアイゼンの娘の試験に支障が出るな……。キルヒアイゼンの娘。お前はこの試験の相手を何人指名するつもりだ?1人かそれとも複数か?」
僕の相手、いつの間に決まってたの!?……というかこの流れ、僕の相手って……。
ステラさんの方を見ると、ステラさんは僕のことを観察するような目で見ていたので、思わず目を反らしてしまった。
「私も今回は本気を出そうと思っておりますので、なるべく多くの試験官にお相手して頂きたいと思っております」
「フンッ、お前もか。ならお前達で話し合って決めろ」
ギルがリリーと、互いに戦う人数を決めるために舞台から降りて戻って来たので、ステラさんの視線はまだ感じるためかなり気になるけど、僕はギルとリリーのやり取りを見て意識をそらすことにした。
「ギルバートさん。ここはお互い公平に、半分の50人づつでいかがですか?」
「俺の方が先なんだし、10人やるから俺が90人で──」
「半分、譲って頂けませんか?」
リリーが笑顔でギルの言葉を遮った。
「断る。俺が80でお前が20。これが最大限の譲歩だ」
「頑固な人は嫌われますよ?」
ギルが少し譲歩したけど、それ以上は譲らぬとばかりにリリーを軽く睨んだが、睨まれたリリーも、変わらぬ笑顔とよく通る声で返し、引く気が無さそうだ。
「なんと言われようが俺はこれ以上譲る気──」
「アリシアも頑固な人は嫌いらしいですよ?」
「なっ!?」
リリーはギルが話している最中に、突然ボソリと辺境伯の長女であるアリシアちゃんの名前を出し、それと同時にギルが固まった。
……なんでアリシアちゃん?
リリーはギルの耳元に口を近付けると、他の人に聞こえないように小さな声でアリシアちゃんの声帯模写を使って話し始めた。
……まぁ耳の良すぎるらしい僕には、バッチリ聞こえちゃってるんだけどね。
「『お姉ちゃん。ドラゴニール家って頑固で人の話を聞かない人が多いって本当なのかな?……そうなんだ。竜のお兄ちゃんも頑固なのかな?……実は、こんなお手紙が来て。……そうだよね!親は親、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよね?もう一度だけ説得してみるね……え?その時は、その時はもう、私にお手紙書かないでってお手紙出す……かな?』
昨年の秋、ギルバートさんが入学をアリシアに合わせる為に遅らせる。という内容の手紙を3度目に送られた後の私とアリシアとのやり取りです。アリシアからの許可ももらっています」
リリーの声帯模写を聞いたギルの顔は、驚愕・ホッとした表情・絶望の順に変わり、話が終わると同時に四肢を地面に着いてしまった。
というかギルってアリシアちゃんと文通してたんだ!?しかもこの感じ、おそらくギルはアリシアちゃんの事を……
「……わかった。半分で良い」
「ありがとうございますギルバートさん」
ギルは再び舞台に上がると、アウル様にギルとリリーがお互いに50人づつ戦うことを告げた。
「……ドラゴニールの倅。なにか弱味でも握られているのか?頑固で有名なドラゴニール家の──」
「……そんなんじゃねぇし俺は頑固じゃねぇよ!」
《いやお前完全に握られてんだろ!?》
「まぁ良い。では指定する番号を言え」
「1番から50番」
「では1番から50番。舞台に上がれ!」
50人の騎士達が舞台に上がると同時に、元から示し合わせていたかのように5人一組の陣を組んだ。
「集団で1人と戦おうとしても、結局は仲間が邪魔になり、殆どの人は参加出来ない。そしてドラゴニールが相手では、数の差を生かして疲労を誘うのも難しい。無難ではあるわね」
リリーが平然とそんなことを言っているが、僕はそれよりも、気になることがあったので、リリーに聞くことにした。
「リリー。ギルとアリシアちゃんってどういう関係なの?」
「聞こえてたの?」
「うん。僕、耳が普通の人よりかなり良いらしくて。それでギルって、アリシアちゃんと文通してたの?」
「えぇ、5年前に旦那様……辺境伯がアリシアとエリシアを連れてドラゴニール領に行ってから、ずっと文通を続けているわよ?」
ギルとアリシアちゃんが5年も文通!
「ジェリドが記憶を失うことになったあの事件、あのことを書いた手紙をアリシアが出した後、アリシアの所に文字通り飛んで来たのだけれど、アリシアを見た後は顔を真っ赤に染めて、まともに話すことすら出来なくなっていたわ。私ともその時に会っていたのに、彼、私とは初対面だと勘違いしていたでしょう?」
ギルって実は、意外とヘタレだったんだ……。
「ギルはアリシアちゃんの事がかなり好きなんだね?それで、アリシアちゃんはギルのことをどう思っているの?」
「元々ギルバートさんも、『友達として手紙を送っても良いですか?』としか言ってなかったらしく、友人としてはとても好きみたいだけど、好意を持たれていることに気付いてすらいないみたいだし、恋愛対象としては見られていないわね」
「そ、そうなんだ?」
「恋愛対象ではないみたいだけど、アリシアが1番好きなのは多分……」
「多分?」
「なんでも無いわ。それよりそろそろ、ギルバートさんの試験が始まりそうよ?」
「あ、本当だ」
ギル。色んな意味で頑張って!応援してるよ?
もちろんこの試験も。どんな試験になるのか楽しみだ!
長過ぎたので、結局2話に分けました。
ごめんなさい。ギルの試験、始まらなかった……