第3話 辺境伯の愛
あけおめです。
2017年初勤務行って来ました。
連休明け初日は会社に着くまでが辛いんですよね…
ブラッドリー子爵が顔を天井に向けながら右手で顔を覆ってしまいそれから数秒後気力を振り絞るようにして声を発する。
「……あの馬鹿! どうやら君は本当に私の甥のようだね」
「……どうやらそのようですね。貴方が伯父様のようで本当によかった」
「……ん? それはどうしてなのかね? 君は私のことも知らないのだろう?」
「はい。確かに貴方のことは失礼ながら記憶が無いため存じませんが、先程の話からするとおそらく私にはもう、父も母も兄弟姉妹も居ないようですので、恐らく伯父様──ブラッドリー子爵が──」
「気にするな伯父様と呼んでくれて結構だ」
ブラッドリー子爵が呆れたような、それでいて喜んだような、非道く曖昧な表情で笑いながら叔父と呼ぶことを許してくれた。
「では失礼して、伯父様が伯父で無ければ、私には恐らく全ての家族が居ないということになります。」
「……なる程、言われてみれば確かにそうだな。君の他にダニエルが私の知らないところで再婚していたり子を成していれば別だが……」
ブラッドリー子爵がジト目で辺境伯・リリーさん・セドリックさんの順に見ていく。
辺境伯とリリーさんは、困ったような顔で微笑みながら知らないとばかりに首をふり、セドリックさんも無表情で首を振った。
「それで君はこれからどうするつもりかね?」
「どうするというのは?」
「アルバートの事だから、体の回復しきっていない君に今すぐ出て行けとは言わないだろうが、ダニエル無き今、使用人の子ですら無くなった君を、タダでこのままここに置いて貰う訳にもいかないだろう?
君が働けるのならばまだしも、記憶を無くしてしまっているのならば満足に働くことすら出来ないだろう?」
……確かにその通りだ。俺はこの屋敷のルールや人間関係どころか今はまだトイレの位置すら解らない。どうしよう?
「私は良いよ? ジェリド君をそのまま引き取っても。彼は非常に優秀だったから、記憶が戻ったときには手元に置いておきたいし。彼には元々王立学園に入って貰う予定だったから、そこで爵位を得れば私の派閥に加わってもらう。もし仮に記憶が戻らなかったとしても1からまた教えるから」
その発言を聞いてブラッドリー子爵が暫く考え。
「……王立学園への入学には本人と父親の了承、そして爵位を持つ貴族の推薦状が必要なはずだったな?」
「推薦状ならもう書いたよ? あとはそれを持って入学試験に合格すれば、王立学園の生徒だよ」
と、辺境伯がとても楽しそうに言うが、それにブラッドリー子爵が難しそうな顔をして応えた。
「ダニエル亡き今、父親の了承の確認を学園は出来ないだろう? そうなると爵位持ちの貴族3人の推薦状が必要なはずだ。無論私が書くのは問題ないが、あと1人は誰に書いて貰うんだ?」
「……そうだったね。なら私の派閥の誰かに──」
そこまで言いかけて辺境伯が固まった。
「推薦状を書いてしまえば、その生徒が問題を起こした場合、推薦状を書いた貴族にも累が及ぶ。そして推薦状を送った者が入学試験に落ちた場合、3年間その貴族の推薦状が無効となり、周囲の貴族から人を見る目がないと嘲笑の的になるのは火を見るより明らかだ。それでも記憶を失った者に、タダで推薦状を書いてくれる貴族に心当たりはあるのか?」
「……無理に書かせることは出来るが……」
辺境伯が渋い顔をすると、それを確認してからブラッドリー子爵は1つ提案をした。
「もし良ければ、ジェリドを私の庶子と言うことにして引き取るのはどうだ? 彼が記憶を取り戻し、実際に王立学園に入学出来るだけの才が有ると判断すれば、私が推薦状を書く。そうすれば私が父親として承認し、推薦状も私の1枚で事足りる。そして私は、自他共に認めるキルヒアイゼン派の武力における最右翼だ。アルバートの目が確かなのは、君に見出された私が1番よく知っている。だが、やはり推薦状を書くなら自分の目で彼の能力を見定めておきたい」
「わかったよ、君がそう言うならそうしよう。ただし、王立学園の入学試験を受けさせる場合は受けさせる前に私の所に一度連れて来てくれ」
「それは構わないが、なぜだ?」
「君は知らないだろうが、私は彼のおしめを替えた──ことこそないが、彼は産まれてから今まで私の館で育ったんだよ? 私は彼を実の子のように思っている。あぁリリー。勿論君もだよ? 君とジェリドのことは実の娘同然に愛している。だから彼の推薦は私も行う。確かに推薦状は1枚だけ有れば良いが、仮に君と私、2人の貴族の推薦状があろうが学園は2人を推薦者として扱うだけさ。私は君とは違い血は繫がっていないが、言うなれば育ての親だ。親から息子への推薦状というプレゼントを横取りしないでくれ」
思わず顔を俯けてしまった。恥ずかしい。記憶が無いから今まで受けてきたであろう愛情は解らないが……とにかく恥ずかしい。
リリーさんをチラリと見ると、リリーさんも顔を俯かせて無表情を装っているが……白く綺麗な肌が災いして顔が真っ赤なのがよくわかる。
あっ、リリーさんもこちらをチラリと覗いてきて目が合った。
リリーさんはこちらを見てニヤリと笑うと、声には出さずに口元だけ動かしていた。……なにをしているんだ?
「君達は本当にアルバートに愛されているんだな」
「いえいえ、私などは旦那様からプレゼントを頂いたことなど御座いませんので、ジェリドには劣りますよ。羨ましいですねぇ、旦那様からの《“愛♡の籠もった“プレゼント》」
リリーさんは多少顔を赤らめながらも、先程に比べれば顔色が戻ってきていた。
──なる程。リリーさんは俺を出汁に使うことで恥ずかしさを紛らわせようとしているんだな?
記憶がない俺には反撃の手立てが無い──と思っていると、思わぬ所から反撃が飛び出した。
「……リリー、そんな悲しいことを言わないでくれ? 16歳までの君の服は、下着も含めて全て私からのプレゼントなんだよ?」
ドサッ
あっ! リリーさんが膝から崩れ落ちて手を着いた。立っていられないくらいショックだったんだな──。
まさかのブーメラン。しかも威力がかなり上がったブーメラン。……受け止めきれずにダウンしたのも頷ける。
リリーさんは、なんとか手を着いた四つん這いの体制から、女の子座りに移行しつつ反論を試みる。
「……そ、そんなはずは、だって服はいつもお母さんが──」
「君が産まれてすぐに旦那を無くしたロッテンマイヤーを思い、私は給金を増額することをロッテンマイヤーに提案したのだが断られてしまったんだ。『1メイドにすぎない私の給金を、そのような理由で上げれば、他のメイドから特別扱いだと嫉まれてしまいます。それに給金というものは、一生懸命働いて稼ぐからこそ貰えたとき、また頑張ろうという励みになり、旦那様への感謝に繫がります。そうやって稼いだお金だからこそ使う時には胸を張って使えるのです』とね」
リリーは心底安堵した表情で呟いたが、辺境伯がその言葉に被せるように話を続ける。
「ならやはり私の服は……」
「私はその言葉に感動し、私はロッテンマイヤーに2つの事を命じた。
1つは屋敷に住み込みで働くこと。
住み込みで働けば部屋代も食費も無くなる。
給金は確かに減るが、それでも生活は楽になるだろう。
そして2つ目は、彼女には他の屋敷住みの者より多くの労働を命じ、給金は他の屋敷住みの者と同じにした。
夜皆が寝た後などの急な来客があった際、今までは全てメイド長が対応することになっていたが、これを彼女と日替わりで行って貰うことにした。
これによりメイド長は、本国で問題がおきた時など、連日連夜本国からの使者が来ても不眠不休で対応するということは無くなった。そして元々次のメイド長にロッテンマイヤーを指名すると公言していたから大変喜んでくれたよ。
そして他のメイド達も、自分たちと立場は同じなのに、メイド長と同じ量の仕事をこなし、給金upを断ったために給金は同じということで、より一層信頼も厚くなり、ロッテンマイヤーを見習い更に働きも良くなった。
そしてその対価として私がリリーの服を買うことを認めさせた。……とはいえ、服を選んだのはリリーの服を買いに行くとき付いてきたメイド達だったがな」
「……ウッ……うぇぇーん!」
……あ、リリーさんが羞恥心に負けて泣き出した。人一倍照れ屋なら、泣いちゃうのも無理もないか。辺境伯が万遍の笑顔で言う。
「ありがとう。リリー泣くほど嬉しかったんだね?」
……たぶん違うと思う。
ブクマ第1号いつの間にかに現れてたぁΣ( ̄□ ̄)!
ブクマ付けてくれた方ありがとうございます。
次回ですが、ジェリドはブラッドリー子爵領に向かうことに成ります。
そうするとリリーはジェリドと今までのようには会えなくなります。
リリーが別れの前の夜にジェリドと2人っきりになり……。
次回【ブラッドリー子爵領へ】をお願いします。