第14話 実技試験1 後編
今回は3000文字程度と少し短めです。
先程からちょくちょく他の試験も眺めていたが、どうやら受験生側の防具は、僕がラムサスさんとの手合わせで使ったような魔力の籠められた防具のようで、受験生側に怪我人は出ていなかった。
僕が弓の試験を終えた頃、試験官に2人目の犠牲者が現れた。
今度は槍の試験官だ。剣と無手の試験官は未だに鬼気迫る形相で連勝を続けており、槍の試験官も今まで他の試験官同様に鬼気迫る形相で連勝を重ねていたが、疲労の見え始めた試験官の脇腹に受験生のなぎ払いが綺麗に入り、倒れてしまった。
受験生からは喝采が上がり、他の試験官からは悲痛な眼差しが送られ、戦斧の試験官は、ようやく出来た仲間に、座ってお腹を抑えたまま男臭い笑顔を向けた。
戦斧の試験官を治療した受験生は40を越え、現在は【商人・使用人育成コース】の受験生から治療を受けていたが、戦斧の試験官は未だに癒されてはいない……。先程から何度も繰り返しクルツ君は、自分が治療すると戦斧の試験官に進言しているが、治癒魔法と戦斧の試験官の両方から止められていた。
治癒魔法の受験生と試験官が槍の試験官の下に駆け寄り、槍の試験官を治癒魔法の試験官が診察し、治癒魔法の受験生が魔法をかけた。
ちなみにこの受験生は、槍の試験官が倒れなければ戦斧の試験官を治療していたはずの受験生だ。
槍の試験官は治癒魔法を受けるまで、先程の戦斧の試験官のようにのたうち回っていたが、治癒魔法を受けた後、すっくと立ち上がり、自らの脇腹を触り、腰を回し、治癒魔法の受験生に抱き付き、治癒魔法の試験官の診察を受けている間も、涙を流しながら『ありがとう』と言って受験生を離さなかった。
「折れた骨や傷は完全に治っており、体力までもある程度回復している。素晴らしい!450点!」
槍の試験官はそのまま試験に復帰し、他の試験官達も良かったね。と、暖かい眼差しを送ったが、それを見て1人だけ驚愕の表情を浮かべる人がいた。そう、戦斧の試験官だ。戦斧の試験官は、ようやく巡ってきた当たりの受験生を槍の試験官に渡してしまったのだ。次に当たりの受験生が回ってくるのは、いったいいつになることか?
しかし戦斧の試験官に逆恨みの色はない。最初こそ驚きと哀しみの表情を浮かべていたが、口元を見る限り『良かったな。良かったな』と繰り返し、涙を流しながら槍の試験官の回復を喜んでいるようだった。そしてそんな戦斧の試験官の下へ、弓の試験官は僕の弓の試験の満点を告げた後、瞳に涙を溜めながら走り寄り、戦斧の試験を引き継いだ。
戦斧の試験を受ける受験生の数は21人。槍の25人に次いで2番目の数だ。
槍の残りの受験生は17人だが、剣と無手はそれぞれ9人の試験を終えており、剣は9人、無手は残り7人。
攻撃魔法と結界魔法の試験は同時進行で行われており、こちらも先程終了した。
攻撃魔法の受験生はまず、10m先の的に攻撃魔法を放ち、命中精度と使用魔法を確認。
結界魔法の受験生は、なにもないところで結界を張り、結界のタイプや大まかな出力を確認。
その後結界魔法の受験生が結界を張った後、その結界に向けて攻撃魔法の受験生が魔法を放つ事で、両方の魔法の能力を測るという試験形式だ。
攻撃魔法が弱過ぎたときには攻撃魔法の試験官が、結界魔法の生徒の結界に魔法を放ち、結界魔法の受験生の結界が弱いときには、結界魔法の試験官が結界魔法の受験生の結界の後ろに結界を張って受験生を守りながら採点を行った。
そして今回の攻撃魔法と結界魔法の受験生の数は、共に12人であったため、最後はレオナルドさん対アルベドちゃんの魔法戦となり、レオナルドさんが放った巨大で蛇のように動く数多の黒炎を、アルベドちゃんの結界魔法が完全に防ぎきり、その派手さから盛大に盛り上がった。
僕の試験はどうだったかって?ちょうど2人の試験と同時だったせいで、試験官すら目を離したくらい地味だったよ!
試験官、3人目の犠牲者は無手の試験官だった。
無手の試験官は、先程の魔力測定の待ち時間に、ラシーと呼ばれた女の子と一緒に僕らの横を通っていった獣人の女の子と手合わせを行い、試験官の攻撃をまるでなにかのアトラクションを楽しむかのように避け続けた彼女に痺れを切らし、彼女の尻尾を掴まえて動きを止めようとした。しかしこれに彼女が悲鳴をあげ、試験官の鳩尾に強烈な正拳突きを叩き込み、お腹を抑えながら両膝を突き、頭の下がった試験官のアゴを蹴り上げ、更に顔面に後ろ飛び回し蹴りを放ち、正座の姿勢のまま後ろに倒れ込んだような体勢になった試験官のお腹目掛け、近くの壁を蹴って3m近い高さまで跳び上がりそのまま踏みつけ、戦斧の試験官の治療を完璧に終わらせ満点をもらい、現在戦斧の試験官に感謝され、手を握られているラシーと呼ばれていた女の子の下に駆け寄り、彼女に抱き付いて泣き始めた。
ローラから聞いたことがあるが、獣人にとって尻尾というのは女性の胸のような物らしく、見せるのは良いが尻尾を触らせるのは恋人や伴侶だけらしい。
そんなこんなでセクハラを知ってか知らずか行った無手の試験官も、治癒魔法を受けることとなった。
その後も試験官達は、徐々に強くなる受験生達に何度も倒されながらも、治癒魔法を受けては復活し、治癒魔法以外のすべての試験は無事に?終了した。しかし治癒魔法の受験生はリリーを含め、まだ20人程残っていた。
治癒魔法の試験はどうなるんだろう?そう思っていると、観客席から闘技場の真ん中にあったリング上に、突如身長180cmを越える長身の男性が降り立ち、試験官達に向かって微笑みと共に言葉を投げかけた。
「よくぞここまで気を失うことなく頑張った。だがまだ治癒魔法の受験生は20人近く残っている。最後に私との手合わせでこの試験は終わりとしよう。私に一太刀でも浴びせるか、治癒魔法の受験生全員の試験が終わるまで意識を保っていられたら我が家への入門を許可する!全員同時で構わん。四肢に着けさせた3kgの重りを外してかかってこい!この学園で培ったお前達の実力、私に魅せよ!」
その後、この男性vs試験官全員の手合わせが行われ、試験官達はこの男性に一太刀も浴びせることは出来ず、一方的に倒されては治癒魔法を受け、また倒されるを繰り返し、最後の受験生であるリリーの広範囲治癒魔法により試験官が全員が癒され、全ての試験が無事に終了した。
そしてこれは、この男性と試験官の手合わせが始まってすぐに合流したギルに教えて貰ったことだが、試験官は全員今年の卒業生であり、この試験、試験官達にとってもレッドリバー家に入門するための最終試験でもあったらしく、気絶せずに試験をやり遂げれば、試験官達はレッドリバー家への入門を認められる事になっていたらしい。そしてこの男性こそが、アウル=レッドリバーその人だった。
「よくぞここまで頑張った!喜べ、お前達は今日から我が家の門下生だ。これから存分に扱いてやる」