第11話 魔力測定前編
投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
実技試験当日、僕達受験生は王立学園横にある闘技場の正門前に集まっていた。
この闘技場は過去に魔族が作った遺跡らしく、遺跡内には現在もよくわからない装置が多数残されているらしい。
魔族が居なくなった今でも、それらの装置の1部がまだ起動しているらしく、王国、専ら王立学園が有効活用しているそうだ。
つい先程まで知らなかった事だけど、リリーが宿からここに来るまでの間に色々と教えてくれた。
ただ少し気になる事もある。それは昨夜からリリーがやたらと僕の世話を焼きたがっている気がする事だ。
昨晩は僕の部屋のベッドメイクや入浴後の着替えの準備、今朝はローラが僕を起こしに来る前に僕を起こしに来たし、宿を出る前にローラと持ち物の確認をしようとしたら、ローラより先にリリーが手伝いに来た。しかしこれにはローラも少し怒ったらしく、頬を膨らませながらレイラに抗議しに行ったけど、笑顔のレイラに軽く窘められて泣きそうな顔で帰ってきた。なにを言われたのかはよくわからないけど『レイラちゃん並のメイドに勝てなんて無理だよ』とぼやいていた。
今も闘技場前に設置された石像について、リリーから説明を受けている所だ。
「この石像達も元はこの闘技場で負けた魔族達で、負けた代償として石にされてここに置かれたらし──」
「ようジェリド。ヴァーウェンに来るのは遅かったのに試験当日は早いんだな!」
「あっギル!おはよう。ギルが遅いだけだよ。もうあと5分もしない内に集合時間じゃないか」
ギルがライを連れて闘技場の反対側から歩いてきた。僕らが闘技場に着いた時、僕はギルの姿を探したけど見つけられず、その後も姿を見なかったので、おそらく今着いたとみて間違いないはずだ。
「5分前行動なら早いだろ?」
《早くねぇよ!それにあと5分もねぇよ!》
「ライも言っているように、そう思ってるのはきっとギルだけだよ。多分ギルが最後なんじゃない?」
「へぇー。みんな早ぇなぁ。ところでさっきから俺を睨んでるそっちの美人は?」
ギルに言われてリリーを見てみるが、リリーは笑顔で自己紹介を始めていた。
「初めまして。リリアーナ=キルヒアイゼンと申します」
「あぁ、俺はギルバートでこっちがライだ。キルヒアイゼンって事はアルバートさんとこの娘か?あれ?でも娘は確か俺より年下だった気がするんだが?」
「私はアルバート様の亡き兄の娘です。ですのでアルバート様は私の伯父にあたります」
いつも通りのリリーだ。睨まれた気がしたのはギルの気のせいじゃないの?
「私とジェリドはアルバート様のお屋敷で姉弟のように育てられました。記憶を無くしたジェリドの面倒を見るのは姉である──」
キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン
隣に立っている王立学園のチャイムの音が鳴り響き、1人の男が僕達の前に歩み出て来た。
「よし時間だ。今年の受験生は全員集まっているな?まだ来ていない奴がいたら多分そいつは失格だ。まず最初に魔力量の測定からだな?よし、俺に付いてこい」
あの男はどうやら今回の試験官の1人らしく、男は僕らにそれだけ言うと闘技場の門をくぐり、闘技場内へとズンズン歩いて行ってしまったので、前の方にいた人達が慌てて後に続いて中へと入っていった。
「じゃあ僕らも行こうか」
「そうね」
「あぁ。久し振りに暴れてやるか」
男は闘技場内のある部屋の前で立ち止まった。
扉はガラスのような素材で出来た観音開き扉で、部屋の中が外からでも見えるようになっていた。
部屋の中には豪華な椅子が1つあるだけで部屋自体は左程広くない。この部屋の扉はこれ1つしかなく、扉の上には縦50cm横2m程のガラスのような物がはめられているが、向こう側は見えない。
「これから受験生1人づつ、受験番号順に魔力量の測定を行ってもらう。
この部屋の中にあるあの椅子に座ると、座った者の魔力量が測定され、測定結果は扉の上にあるあのガラスの部分に数値として表示される。
その数値が今回の試験での君達の獲得ポイントだ。
原理は聞くなよ?俺も知らん!知りたかったら作った奴を探して聞け!
魔法を全く使えない一般人の平均は大凡150。一般的な魔法師の平均数値は2500~3000ってとこだ。格コース毎に受験番号順に一列に並び、名前を呼ばれるまでは座って待て。呼ばれた者はこの部屋の中へ入り、良いと言うまであの椅子に座ってろ。そして終わったら邪魔にならんところで他の受験生が終わるのを待て。一般コース受験番号1番クルツ」
「はい!」
僕とリリーとギルは、とりあえず列の1番後ろを目指して歩きながら今日の試験について話すことにした。
なぜ1番後ろを目指すのかって?
僕の受験番号がS-35番でリリーがS-34番、ギルがS-33番であり、今年の【貴族上級使用人育成コース】の受験者数が35人だからだ。
受験番号が最後なのは、僕らのコースで……というより全受験生の中で最後に受付を済ませたのが僕だからだ。
「そう言えばギルはなんで33番なの?」
「んあ?どういう意味だ?」
「僕らよりかなり早くにヴァーウェンに着いていたんだよね?ならなんで僕らの1つ前なの?」
「あぁ、今年は四大公爵家全部の次期当主候補が受験するからな、現当主も交えた顔合わせがお前らの到着する前日にあって、その時に俺達4人はカタッ苦しい式の中で、4人揃って登録したんだよ。それより後に登録したのがお前らだけだったって事だな」
──オオォーオ!?
受験生の1番後ろを目指して歩いていた僕達の後方からどよめきが起き、何事かと思い振り返ると、答えはすぐに明らかになった。
扉の上にあるガラスのボードに【11254】という数字が表示されていた。
「……1人目の数値高くない?」
「あぁ、めちゃくちゃ高ぇな」
「少なくとも一般コースではあの子が主席になるでしょうね。それどころか例年なら私達のコースでもまず間違いなく首席だったでしょうね」
多分1人目の子だよね?確かさっき教官がクルツって呼んでいたはずだ。クルツ君か、覚えておこう。でもなんで一般コースでの入試なんだろう?クルツ君がいた地を治める領主の見る目がなかったのかな?それとも武術か勉強のどちらかが苦手だったとかかな?あれ?そう言えば……
「実技試験ってこの魔力測定と武術の試験があるんだよね?」
「あぁ」
「えぇそうよ?」
「もしこの試験で高得点を取った場合、武術の試験が悪くても合格になるのかな?それとも武術の試験も足切りとかあるの?」
「ねぇ──ど、どうぞ」
「ありがとうギルバートさん。武術による足切りは無いわ。魔力量が一定以上あれば、肉体を強化する方法を教えるだけもである程度強くなれるし、今武術が出来なくても卒業までにある程度教えられるから、武術による足切りはしていないはずよ」
「そ、そうなんだ。だから兄さん達は僕が落ちることは無いって言っていたのか」
ギルがリリーに遠慮した?あのギルが?僕は軽い衝撃を受けながらも列の最後尾に到着し、僕らの前の人──つまりは四大公爵家の残りの3人も、僕らの前に来てギルに軽い挨拶をしてから腰を下ろした。
「ギル、前の3人がそうなの?」
「あぁ、前から順に身長180cmくらいで目つきの悪い、黒髪の陰気なイケメン男がレオナルド=ブラックスミス。
赤い髪で身長160cmくらいの残念な板胸女がステラ=レッドリバー。
薄い綺麗な青い髪のどチビがアルベド=ストラーダだ。
この間初めて会ったばっかで特に話もしてねぇから、これ以上はよくわかんねぇ」
「ギ、ギル!?なにその紹介!?今3人とも腰を上げかけていたのにおろしちゃったよ!?それと話くらいはちゃんとしておきなよ!?」
「まぁ良いんじゃねぇか?それと話す機会は無かった」
《式なんか面倒くせぇってふて腐れて話そうとしなかっただけじゃねぇか》
「そうだっけ?まぁなんでも良いけど、取り合えず俺はあいつらのことはよく知らねぇ」
「もう!ギルのせいで挨拶しにくくなっちゃったじゃないか!」
「どうせ同じクラスになるんだし、機会なんていくらでもあんだろ?」
「そう言う問題じゃないよ!」
「やっぱりこんな人にジェリドは任せられない。私がしっかりしないと!」
リリーがなにか言った気がしたけど、残念ながら聞き取ることは出来なかった。
「そう言えば僕らは合計で何点取れば良いの?」
「魔力測定と弓や剣、槍又は魔法の中から得意分野の試験を受けた後に試験官との手合わせを行って、合計で2000点くらい取れば合格のはずよ?」
「ならあのクルツって子がもし僕らのコースで受験していても合格だったんだね」
「だな。多分あいつ、すぐにでも編入試験受けて上がってくるんじゃねぇか?まぁ入学後は1つづつしか上がれねぇらしいから、俺らの所に来るのはまだ先だろうけどな」
「へぇ。そうなんだ」
その後、僕らのコース以外の受験生全員の魔力測定が終わったが、トップは最初に測定したクルツ君の11254のままで、その次が7620を出した【貴族・上級使用人育成コース】の猫の獣人の女の子となり、その下は1000~1500の間が数人いただけだった。
ちなみにこの場を見渡した限り、外見ですぐ獣人とわかる人物は彼女だけだったので、恐らく彼女が今年唯一の獣人の合格者だと思われる。
そしてようやく僕達【選抜コース】の番となった。