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第10話 実技試験前日

ボーイズラブではありません。

 ──チュン──チュンチュン──チュンチュチュン


 鳥の鳴く声が聞こえる。……眩しい。朝?……あぁ、僕は寝ていたのか……。今日は珍しく夢を見なかったな。久しぶりに良い朝に……


「……ん?……枕……硬い」


 僕はいつもとっても柔らかいマイ枕で寝ている。そしてそれは今回の試験にもその

マイ枕を持ってきているはずだ。なのに頭に感じる感触はとても硬い。

 違和感を感じながら重たい瞼を開けると、僕の目の前には大きな手があった。

 ……手?なんで手?

 その手を視線で根元の方へと辿っていくと、どうやら僕の頭の下を潜っているらしい。つまり僕の頭の下の硬い感触は腕か……これって腕枕?なぜ!?


 ……OK1度冷静になるんだ僕、まずは状況を整理しよう。


 僕は今起きた。つまり今まで僕は寝ていたということだ。……寝る前の記憶を思い出そう。


 確か昨日は15時に学科試験が終わり、その後眠い目を擦りながらリリーと一緒に宿に戻ったはずだ。そして19時からはドラゴニール家当主に、リアナの件でお礼を言いに行く約束になっていたからそれまで寝……ようとしたのにギルが突然宿に来て……そうだ!そのままリアナと一緒にドラゴニール家当主の前に連れて行かれ、お礼の言葉もそこそこに宴会が始まったんだ!


 リアナはドラゴニール家自慢の逸品、滅竜酒なる酒を飲まされ酔い潰れ、僕もその後からの記憶が無い。


 次はこの部屋だ。この部屋には見覚えがある。

 この部屋は多分昨日ギルに勉強を教えた時に使った部屋だ。

 ……ということはこの部屋はギルの部屋で、下にある腕はギルの腕?……まさかギルにはそっちの趣味が!?

 僕は慌てて体を起こし、自分の姿をチェックした。


「服は!?……何故か昨日着ていたシャツが見当たらなくて肌着1枚だけだけど、一応着てる。ズボン……は良かった。ちゃんと履いているし特に体に違和感も感じぬぁ!?」


 先程まで僕のことを腕枕していた腕が、僕の側頭部を掴んで強引に引き寄せた。


「ちょっ!?ギ、ギル!?そんな強引に引っ張んな……な、なんで裸なの!?」


 僕を強引に抱き寄せようとするギルは、なんと上半身裸で、しかも自分の左胸に僕の顔を凄い力で引き寄せてきた。

 いくら僕が可愛いからって男同士だよ!?それともやっぱりギルにはそっちの趣味が!?


「寒い……ライ……早く入れよ?……鱗欲しい」

「僕はライじゃないからね!?入れないからね!?人ちぐむぅっ!?」


 ギルは更に僕の顔を自分の胸に押しつける。い、息がっ!!ギルの奴力強過ぎ……つ、潰れる!!


「ギル!起ぐっ!お、おき」

「むにゃむにゃ……寒い」

「うをわわわわわ」


 ──ムギュ。ゴロンゴロン。ゴロンゴロン。


 ギルは更にもう片方の腕と両足で僕に抱き付き、ゴロゴロと布団の上を僕ごと転がり、僕は持ち上げられては潰され、持ち上げられては潰されを2回転ほど繰り返させられることとなった。

 ……上半身裸のギルによって。


 ──い、いい加減にしろぉ!!!


「ガブッ!!」


 僕は怒りと共にギルに噛みついた!!どこを噛んだかって?胸で噛みやすそうな所があったから迷わずそこを噛み付いたよ!


「痛ってぇぇぇぇ!!?」



  ▽



 ギルから昨日の夜になにがあったのかを聞き出し、一応ギルにそっちの気は無いらしいことがわかった。

 昨夜の内にギルの家の使用人が、僕の泊まる宿に僕がこちらに泊まること、そして朝食はこちらで出して貰える事を伝えてくれたらしいので、僕達は別室で眠るライとリアナを起こしてからギルの家で朝食をとることとなった。

 その後、朝食を済ませた僕らは、二日酔いで気持ち悪そうにしているリアナとライをそれぞれ抱いて、学科試験の結果発表を見る為に、王立学園の正門前へと向かった。


 学科試験に落ちた場合、落ちた人間は今日の内に魔力量の測定と実技試験を受けることになっている。今日この試験を受けることになった時点で今年の入学はなくなるのだが、これは入学する物を選別する為ではなく、魔力量や武術の優れた者を探し出す為に行われる物だ。


 一般コース以外は貴族の推薦状が必要だ。そして貴族の推薦状を貰えるような人材なら、学科があまり出来なかったとしても、秀でたなにかがあるはずだ。そして勿論、一般コースで入試を受けた物の中にも同様に、秀でたなにかを持つ者がいるかも知れない。これはその為に行われる物だ。


 試験結果は学園の正門前に建てられた掲示板に、今年の受験生の数と通過者数、不合格者の受験番号のみが書かれていた。


『受験生231人筆記試験合格者数217人

 不合格者 一般コース14名 受験番号・・・』


「とりあえず俺らのコースは全員が受かったみたいだな」

「そうみたいだね。落ちたのは一般コースだけみたいだね」

「他は貴族からの推薦状がいるからな。貴族も落ちる可能性のある奴に推薦状を書くくらいなら、一般コースで受験させるからな。だから一般コース以外で落ちる奴なんてまずいねぇ」

「へぇーそうなんだ?」

「あぁ、けど逆に一般コースも学科さえ通ればまず落ちねぇらしい。一般コースの実技試験は昇級試験を受けるまでの時間短縮の為にあるようなもんだな」

「僕らの方も実技で落ちる人はほとんどいないんだよね?」

「まぁそうだな。けどジェリドは貴族を目指すんだろ?なら頑張った方が良いぜ!実技試験にはお偉方が沢山来るからな。貴族に推薦すんのも決定すんのも貴族として認めるのもそいつらだ。早い内に顔を売っといても損はねえ」

「ギルはどうするの?ギルも真面目にやるんだよね?」

「俺は流すつもりだ。親父もそうしたって言ってたからな。どうせ俺の場合、魔力量だけで合格するのは間違いねぇしな」

「……ギルってリアナと闘えるくらい強いんだよね?」

「まぁそうだな。リアナはともかく、人間にならまず負けねぇくらいには強いな」

「僕よりもずっと強いってことだよね?……ならギルは、僕を殺さずに倒すことも出来る……のかな?」

「はぁ?」

「……ゴメン、何でも無い忘れて」

「そこまで言ったんなら話せよ?」

「だからもう良いって。何でも無いから」

《あんた達もジェリドの中になにかが居るのには気付いているのよね?》

「リアナ!?寝てたんじゃないの!?」

「あぁ、当然気付いてるな」

《つかお前潰れてたんだろ?もう大丈夫なのかよ?》

《あの程度で潰れたりなんかしないわよ!ちょっと頭が痛くて気持ち悪くてたまに胃液が逆流しそうになってるだけよ!》

《俺よりひでぇじゃねぇか》

「それ全然大丈夫じゃないよね!?お願いだから僕の腕の中で吐かないでよ!?地面に下ろすから吐くならその前に絶対言ってよ!?」

《地面に下ろされたら吐いた時に私にかかるじゃない!絶対言わないわ!》

「なら今から下ろ……」

《絶対言うから下ろさないで!それとお願いだから歩くときの振動をもう少し抑えて……気持ち悪い……》


 リアナって凄い生き物のはずなのに……色々とダメダメだよね?

 リアナが僕の心を読み、ジト目で睨んできたけど心当たりがあったらしく、結局なにも言わずに話を戻した。


《言いたいと思ったのなら言えば良いのよ。それにこいつはスッゴくしつこいから、そこまで言ったんなら、もうどうせ言うまで帰れないわよ》

「でもこんなの僕の身勝手でしかないし……」

「あぁもうウダウダと、リアナに聞くからジェリドは暫く黙ってろ」

「むぐぅーっ(なにするの)!?」


 それだけ言うと、ギルはリアナのお腹を左手で掴んで僕から取り上げ、右手で僕の口を塞いでリアナに話の続きを促した。


《バカ!揺らさないで!!今お腹掴まれたら──》


 リアナのお腹は限界を迎え、ギルの腕に向かって口からなにかが飛び出した。




   ▽



 学園の中でギルの腕を洗わせてもらい、その後自業自得のはずなのに、何故か怒るギルに対して今まであったことや僕の不安等を洗い浚い全て話すことになった。……理不尽だ。


「ようは意識を無くした時に出て来たっていうもう1人の自分が恐いんだろ?」

「まぁ……そうだね」

「心配いらねぇよ。少なくともお前の中のもう1人の誰かはお前を護ろうとすることはあっても、お前に危害を加える気なんて絶対(ぜってぇ)ねぇよ」

「なんでそんなことがわかるの?」

「同類だからな」

「その同類ってどういう意味なの?」

《どうせアタリは付けてんだろ?それが合ってるかどうかは、記憶を取り戻した時に確かめな》

「……ならもう1人の僕が僕を護ろうとした場合、僕に危害を加えようとした相手はどうなるの?例えばさっき話したラムサスさんの時とか……」

「……」

《……》


 ギルとライが同時にそっぽを向いた。ちなみにギルは苦笑いを浮かべている。


「ギル?」

「まぁ……あれだ?……俺以外の四大公爵家とやらなけりゃ大丈夫だ……多分……きっと」

「なにその凄く歯切れの悪い答え?ギルなら大丈夫なの?」

「あぁ。多分問題ないぜ?俺ならそもそもそいつが暴れる前に終わらせるし、暴れたとしても多分俺なら止められんだろ?」

「どういう意味?」

《魔族や神獣ならともかく、人間でこのバカに勝てる奴なんて多分いないって事よ》

「その時ライが一緒にいたらだけどな。それに親父相手ならもしかしたら負けるかも知んねぇぜ?」

《こいつらは私達からみても化け物よ》

「ちょうど良い。学園の結界内なら人は絶対死なねぇらしいし、試験官はレッドリバー家で修行を続けてきたエリート共だ。あいつらも俺との手合わせを望んでるらしいし、俺の本気を魅せてやるよ」


 ギルがとても良い笑顔で笑っていた。



   ▽



 ◯◯◯◯◯視点


 半年ぶりに会えたのに、ジェリドとの時間が少なくて正直寂しい……。

 記憶を失う前までは、私の事を姉のように慕ってくれていたのに……。

 元々血の繋がりのない姉弟。これが普通なのかもしれないのだけれど、それでも寂しい物は寂しい。


 ヴァーウェンについた日、ジェリドは朝まで宿に戻ることすらなく試験を受けた。

 ドラゴニール家次期当主、ギルバートに勉強を教えていたとジェリドは言っていたけれど、王立学園の学科試験当日に、王国の歴史を一夜漬けするような人がいるはずがない……。それにギルバート=ドラゴニールと言えば、とても頭が良く、歴代最強のドラゴニールとまで呼ばれている人物……そんな人がジェリドに一夜漬けで歴史を習うかしら?

 ……ないわよね?

 ……ならジェリドが私に嘘をついたの?なぜ?試験が終わったら問い詰めてあげるんだから!


 試験が終わってから、私はジェリドを問い詰めようと思ったのだけれど、ジェリドはとても眠そうな顔をしていた。ジェリドは今夜、ヴァーウェンにあるドラゴニール家の屋敷へ、ドラゴニール家現当主が貴族会で発言した『リアナやジェリドを両者の意思とは関係なく利用しようとすれば、俺が利用しようとした者を物理的に許さない』との声明を発表してくれたことについての御礼を言いに行くことになっている。


 ジェリドが疲れているのは知っているのだし、それが終わって帰ってくるまでは優しいお姉ちゃんとして待ってあげるべきよね?


 私がジェリドの帰りを待っていると、ドラゴニール家のメイドと名乗る人が来て、『本日ジェリド様とリアナ様は当家にてお休みになられます。明日の朝食は我が屋敷で食べられるとの事ですので、そのご報告に参りました』と、完璧な仕草で言われてしまった。


 2日続けての朝帰り……いえ、これは朝すら帰ってこないかも知れない。

 非行の始まり?注意が必要ね。


 案の定、ジェリドは朝になっても宿に帰って来ることはなかった。

 私はジェリドと2人で合格発表を見に行くつもりだったのだけれど、ジェリドがいつ帰ってくるかもわからないし、帰ってきたときにジェリドがもう見に行った後だと虚しいから、私は結局1人で王立学園学科試験の合格発表を見に行くことにしたわ。

 レイラが付き添ってくれると言ってくれたのだけれど、1人で少し考えたいこともあったから結局断り、1人で寂しく見に行くことに……合格は間違いないはずなのに、何故だか少し憂鬱ね。


 王立学園に着くと、正門前にジェリドと……誰かしら?小さな竜?を抱えているということは、あれがドラゴニール家次期当主のギルバートさんなのかしら?

 2人が学園の中に入って行く所だったので、私も気配を消してこっそりとついて行くことにしたわ。


 ギルバート(仮)がジェリドを非行にはしらせているのなら、私が姉として止めないと!


 水場でなにやら少し遊び、暫くするとジェリドは自分の思いを打ち明け始める。

 私はジェリドの中にいるのが誰なのかを知っているから、ジェリドがそんな不安を抱えていたなんてことは夢にも思っておらず、少し驚いた。そして同時に、頼る相手が私じゃなくてギルバート(仮)な事に納得がいかなかった。

 ジェリドの面倒を小さい頃からみてきたのは私なのよ?なのに何故突然現れたどこぞの竜の骨に、ジェリドを持って行かれなくてはならないの?そんなことがはたして許されるのかしら?許されるわけが無いわ!


 人類最強?上等よ!私もキルヒアイゼン家の女よ!

 先祖返りのリリアーナ=キルヒアイゼンの実力を2人に魅せてあげるわ!


 (ジェリド)に頼られるのは(わたし)の役目よ!誰にも譲ってなんかあげないんだから!

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