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第9話 ギルと学科試験

 僕達4人とリアナは3/31のお昼前、王立学園のある都市ヴァーウェンに到着し、僕とリリーは無事受験の申し込みを完了し、ようやくこの都で宿泊予定の宿が見えてきた所だ。


「予定よりは遅れちゃったけど、あとはあの宿で宿泊手続きや準備をしたら、明日の試験にそなえるだけね」

「そうですね。お2人なら合格は確実かとは思いますが、油断せずに英気を養って下さいね」

「私は頑張って応援してるよ!」

「2人ともありがとう。必ず合格するわね」

「こんな所で辺境伯や父さん達の期待を裏切る訳にはいかないし、僕も絶対合格するよ」

「私も言えた立場ではないけど、ジェリド、くれぐれも油断せずに、アクシデント等には気を付けるのよ?」

「……うん。そうだね、気を付けるよ」


 僕は僕の隣に座るリリーの膝の上で、リリーにモフられながら横になっているリアナを見ながらそう言うと、リアナは狸寝入りで僕の視線に気付かないふりをしながらも、耳をピクピクさせている。


 リリーがあえて僕にこう言ったのは、僕らが実際にとあるアクシデントにあい、ヴァーウェンへの到着が遅れたばかりだからだ。そしてそのアクシデントを起こした張本人は、現在狸寝入りをしているリアナだったりする。


 当初の予定では、28日の夕方、又は29日の朝に到着予定だったのに、現在は31日の昼過ぎだ。


 初めて見るあれやこれやに、元気に荷台ではしゃぐローラをチラリと見ながら、僕は五日前、辺境伯の屋敷を出てからのことを思い出す。


 あれは辺境伯の屋敷を出てから暫く走った後、ローラとリリーのこんなやり取りがそもそもの事の発端だった。


『リリアーナ様も馬車の御者はお出来になるんですか?』

『できるわよ?あとこのメンバーなら名前以外敬語はいらないわ』

『ありがとう。じゃあそうするねリリアーナ様。と言うことは、この中で御者を出来ないのはリアナちゃんだけだね』


 このリアナ以外は全員出来るという言葉に、僕の膝の上で丸くなっていたリアナが反応し、ローラを見たがローラはそれに気付くことなくさらに続けた。


『だってリアナちゃんじゃ手綱を握れないし、もし手綱を握れても引っ張ったりする力が足りないもんね』

《私だって馬くらい簡単に操れるわよ!!》


 するとリアナは立ち上がり、御者席に座っていたローラとレイラの下へとテクテク歩いて行ったかと思うと、2人に対して馬車を止め、リアナに御者を代わり荷台へ行くようにと僕に言伝を頼んできた。

 僕がその事を2人に伝えると、レイラはリリーや僕も乗る馬車なので、なにかあってはいけないから念の為に自分は御者席に残ると言って御者席に残り、ローラは馬車を停めてからリアナに手綱を渡し、荷台へと下がったのだった。


 そしてリアナが手綱を咥え、手綱を体ごと振るって馬を走らせようとしたのだが、リアナの体が小さすぎた為に手綱は殆ど揺れることすらなく、馬は動かなかった。それを数分続けたが、やはり馬は動かない。


 見るに見かねたレイラが、優しく御者を代わりますと申し出るが、リアナは意地になってこれを拒否、更に続けたがやはり馬は動かない。そしてそれを見たローラが、リアナのプライドを傷つける一言を言ってしまう。


『やっぱりリアナちゃんにはまだ無理だったね』


 そしてそれを聞いたリアナは、とある暴挙に出たのだった。


『アオオオォォーーーン』

《いい加減あんたは……走りなさい!》


 僕達でも一瞬背筋の凍るような、神獣としての強大な魔力と怒りの篭もった咆吼を、馬へと向けて解き放ったのだ。


 それを受けた馬はリアナの思惑通り走り出した。

 リアナの思惑外の速度で……

 それはもう全力で……

 死力を振り絞ってリアナから逃げようとでもするかのように……


 馬というのは全力で長時間など走れない。全力で走れば馬はすぐに潰れてしまう。もし馬が潰れなくても、そもそも馬車と言う物は馬に全力疾走させて引かせるようには出来ていない。

 現在馬車が疾走する街道は、ある程度整備されてはいるものの、当然地面はデコボコで、ガッタンガッタンガッタンガッタンと激しく揺れた。

 中に居る者にとってはたまったものではないし、乗り心地を一切考慮しなかったとしても、こんな走りでは馬車の車軸やタイヤがいかれてしまう。

 

 すぐにレイラが手綱(リアナ付き)を引いて暴走する馬を止めようとしたが、生死を賭けて逃げるかのように暴走する馬はそう簡単には止まらない!

 それでもレイラは懸命に馬車を止めようとしたのだが、そこに更なる追い打ちをかけた者がいた。


『アオォォォーーーン』

《止まりなさぁい!!》


 手綱を咥えたままブランブランされていたリアナがなんとか着地した直後、なにを思ったのか更に馬へと向かって一吼えしたのだ。直後、疲れが見え始め、速度の落ち始めていた馬は死力を尽くして再加速!!


 レイラは氷のように温度を感じさせない目でリアナを見ながら、手綱を引くのを諦めた。


 数分後……馬はとある村の近くの林の中で力尽きた。死んだと言うわけでは無く、体力の限界を迎え、動けなくなったと言う意味で。

 辺境伯の屋敷を出てから約1時間後。僕らはこの林の1番外にある木に馬を繫いで馬を休ませ、傷んだ車軸やタイヤの修理をローラ主導で行い、その後近くの村で一泊することになったのだった。


 翌日、リリーの治癒魔法のお陰でかなり疲れの回復した馬を馬車へと繋いで出発しようとしたのだが、馬がリアナを恐がりリアナを見ると暴れ出してしまうことが判明した。


 普通に乗ろうとしても、馬は決してリアナを乗せてはくれない。そして乗せて貰えなかったリアナがその時提案してきたのが、自分を置いて先に僕らだけでヴァーウェンへ行き、後からリアナが合流すると言う物だった。


 僕が皆にリアナの提案を伝え始めると、リアナは僕らに寂しそうに背中を向けて歩き出した。何度もこちらを寂しそうに振り向いては数歩歩き、また数歩歩いては寂しそうにこちらを見るリアナに対して、それを受け入れるという選択肢は僕らには無かった。


 一応時間的に余裕は十分あったので、最初は馬にリアナへ慣れて貰おうと頑張ったのだが無駄に終わり、次にリアナをバスケットに入れて隠して乗せたりも試みたのだが、この馬はリアナよりも野生の勘が鋭いらしく、悉くバレてしまった。


 僕らがどうしようかと途方に暮れていると、リアナはそんな僕らに謝ろうとして、色んな波長でローラやレイラ、リリーに思念波による謝罪を開始した。

 その波長の内の1つになんと馬が反応。もしやと思い、リアナが馬にその波長で話し掛けると何と通じてしまったのだ。


 リアナが馬に謝罪して乗せてくれるように頼むと、馬はこれを快く了承。無事ヴァーウェンへと来ることが出来たのだった。

 そんな事を思い出している内に馬車は宿へと到着した。


「今日から暫くはここに滞在する事になるわ、盗られることはないとは思うけど、念の為服とか必要な物だけ先に部屋に持って行くわよ。それからは予定通り自由行動」

「はーい」

「わかりました」

「僕は部屋に持って行く荷物も少ないし、先に馬を厩舎に入れてくるね」

「わかったわ」

「ならジェリド様の荷物は私が部屋に持って行くね」

「ありがとうローラ。なら荷物は任せるね?」

「はーい」


 僕は馬を馬車から外し、リアナと一緒に少し離れた厩舎へと向かった。


《ジェリド。あの建物の中で良いの?》

「うん。あそこにこの馬を入れて扉を閉めたら終わりだね。後は自由時間だ」

《わかったわ。馬、あの建物の中まで行ったら今日のお仕事は終了よ。着いてきなさい》

「ヒヒーン」

「なにやってんだお前ら?」


 突如声をかけられ、立ち止まって辺りを見回すが誰も居ない。


「ここだよここ。木の上だ」


 言われたとおりに木の上を見ると、ギルバートがライバートをお腹の上に乗せ、木の枝の上で横になりながら僕らを見ていた。


「よぉ親友。6日振りだな?思ったより遅かったじゃねぇか?何してたんだ?」


 いきなり友達から親友に格上げされた。


「あぁ、ギルとライか、久し振りだね。誰かと思ったよ。まぁ色々あって……」

《色々?》

「それって何故かフェンリル……リアナの言うことを馬が聞いてるのとなんか関係あんのか?」

「うん。まぁそうだね……」

《言っても良いわよ。こいつら本当にしつこいから、1度気になったら言うまでずっと付きまとわれるわ》


 リアナは明らかに嫌そうな目で2人を見ていたが、言っても良いということなので、僕は2人になにがあったのかを教えることにした。


「実は──」


 僕は何故リアナが馬と話せるようになったのか?一連の内容をギルバート達に話し、その流れでギルバート達と別れてから辺境伯の屋敷であったことについても話した。


「流石は当代のキルヒアイゼンだ。お前の中に居る者のことを言わなかったことには好感が持てる。でもリアナが人と話そうとして馬と話せるようになったのには笑えたな」

《そうだな、逆にどうすれば良いのか教えて欲しいくらいだぜ》

《うるさいわね!私も人と話せるなら話したかったわよ!》

「それはそうとジェリド。お前今からヒマか?それと歴史って得意か?」

「馬を厩舎に入れてからの予定は特にないよ?それと勉強全般は得意だね」

「そうか!なら俺に歴史を教えてくれ!」

「良いけどどのあたり?」

「全部」

「え?」

「だから全部。この国の歴史なんて知らん。一応俺達側からみた歴史や俺達がこちらに来てからのことならなんとなくわかるが、それ以外は知らん。だから教えてくれ」

「……試験明日だよ?」

「他は大丈夫だから心配ねぇよ。ただ歴史だけはよくわかんねぇから教えてくれ」

「一応聞いておきたいんだけど、どのコースを受けるの?」


 僕やリリーが受験するのは【選抜コース】だ。【選抜コース】を筆頭に、上から【貴族・上級使用人育成コース】【商人・使用人育成コース】【一般コース】の順に王立学園はコース分けされている。


 選抜コース以外は受験時の成績が希望コースの基準に達していなかった場合、希望コースの1つ下のコースへのスライド受験が認められている。


 一般コースは、推薦状無しでも受けられる一般公募のコースであり、推薦状無しでも受けられる分希望者が多く、その為各領地での試験を勝ち抜いた人間にだけ、明日の学科試験の受験資格が与えられる事になっている。


 なお、貴族としての継承権がえられるのは、最終的に【貴族・上級使用人コース】以上の学科を卒業した者だけだ。


「選抜コースだ」

「……選抜コースの場合、一教科毎の足切りは最低7割以上って聞いてるんだけど?」

「大丈夫だ。最悪はライがカンニングしてくれることになってる」

《任せろ!》

「ダメだからね!?」

「なら教えてくれよ。ヒマなんだろ親友?」

「はぁ、わかったよ……」


 その後僕らは馬を厩舎へ入れて部屋に戻り、リアナをローラ達に預けてからギルの宿泊している宿に行き、ギルに歴史を教えることになった。


 ギルは思っていたよりも頭が良く、教えたことはどんどん覚えていったが、年号だけは一切覚えてくれなかった。

 歴史は年号を覚えなければ、高得点を取ることなど出来ない。それどころか足切りすらクリアできない可能性も十分にある。

 そのことをギルに伝えると、ギルは僕に楽しく年号を教えろと無茶ぶりしてきた。

 そこで僕は、代々のテトラ王の一生をストーリー仕立てで教える事を思いついた。

 何歳の時にどこで何をしたという形で1から歴史を教えていき、年齢から逆算して年号を覚えさせるという、一見面倒な形だったが、これをギルが気に入ってくれたので、この教え方で教えることになった。


 特殊な勉強法だったので時間もかかったけど、それでもなんとか深夜1時頃には全ての歴史の範囲の一夜漬けが終わった。


「これでテトラ王国の歴史は大丈夫だね?」

「あぁ、ありがとうなジェリド。面白かったぜ!礼に今から俺がドラゴニール王国の歴史を教えてやる!」

「……今1時なんだけど?」

「そうだな!あぁあとこれもやる」

「なにこれボタン?」


 ギルに渡されたのは、洋服などにつける銀色のボタンで、そのボタンには竜の刻印が刻まれている。


「こっちは親友の証だ!そんなもんより俺らの歴史を教えてやるよ」

「親友の証って言っときながらそんなもんって……明日の朝9時から学科試験なんだよ?」

「7時半には飯食って出て行きたいからあと6時間くらいだな。まぁそれまでには終わるだろ?」

「……寝る時間は?」

「寝るよりお前に教えたい」

「僕は寝たいよ!」

「まぁ良いから聞いてけよ?多分ドラゴニール家以外知らないだろうことも教えてやるからさ」

「ドラゴニール家の秘密軽いね!?でもやっぱりまた今度にしようよ?」

「俺は今ジェリドに話すと決めた」

「勝手に決めないで頼むから寝させてよ!!」

「まず初代ドラゴニールがなぜ竜との双子で産まれるようになったがだが──」

「勝手に始まっちゃった!?」



  ▽



 結局僕はあの後ギルから逃げようとして、ギルの両手により物理的に拘束され、徹夜のまま朝を迎えることとなってしまった……。


 部屋に戻った僕は、ローラとレイラからは心配され、リリーからは本気で怒られた。その後僕は、リリーと共に試験会場へと向かい、王立学園の学科試験を受けた。


 試験中、とっても眠たくて何度か意識が遠のきかけたけど、僕は寝ないで頑張った!

次回は間に合えば火曜日。ダメなら土曜日に更新します。

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